雪の軌跡 作:玻璃
人間ってこんなことできないと思うの。
では、どうぞ。
山猫号は、無事に着陸した。
抱きしめあっているエステル達に声を掛けるジョゼット。
「おーい、ヨシュア、無事かー!?」
もうちょっと気を利かせれば良いのに。
「な…良いときに割り込んでくれちゃって…」
「ひゅーひゅー。」
まあ、からかうが。
「うるさいわよ!」
「さて、と…」
もうここには用はない。
今から、アルシェムがしなければならないのはたった1つ。
《外法狩り》と協力して《輝く環》を手に入れる。
そのためにその場から去ろうとして…
「…どこに行く気なんだい、シエル?」
「ぎくっ…」
超絶笑顔のヨシュアに止められた。
解せぬ。
「まさかどっか行っちゃうつもりじゃないわよね?」
「…そ、そのまさかで…」
「え、何て?」
怖いです、エステルさん。
なので、勘弁してください。
「…逃げたもん勝ちっ!」
そう言って、アルシェムは逃避行を決行した。
「あ、こら待ちなさいよ!」
「逃がすものか!」
その制止では誰も待たないから。
棒振り上げんな。
双剣振り翳すな。
「え、ちょ、ヨシュアは抑えてなくていーの!?」
またどっかいかれたら困るんじゃないの?
という意味を込めて言ってみるが、まあ効果はない。
「ヨシュアはもう黙ってどっか行ったりしないの!」
「エステルと約束したからね!」
「ジョゼット、手伝ってくれるかな?」
「勿論!待てーっ!」
3人がかりとか酷くない!?
仕方がないので、アルシェムは走る速度を上げた。
「ちょっとスピードあっぷ!」
だが…
「何のォォォォ!」
「早い!?ちょ、おま…」
既にジョゼットがついて来れなくなっていた。
お願いだから動くなよ山猫号。
「ファイアボルト!」
「待って、燃やす気満々じゃねーのッ!?」
「軽々避ける癖に何言ってんのさ。」
その代わり木が1本犠牲になりましたけどね!?
「避けなきゃ焦げるっての!」
「えい、アクアブリード!」
「嫌がらせー!?ちょっ!」
火とは違って水は安全とかそういう意味じゃないからね!?
「待ぁぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇっ!」
「誰が待つのその制止っ!?」
2人がかりで追い立てられ、ルーアンの街区まで来てしまった。
仕方がない、建物でカバーするか…
「受付の人!後ろ止めてぇぇっ!?」
「え…あれ、エステルに…まさかヨシュア!?」
「ジャンさん、こないだぶり!今忙しいから後でね!」
「お久しぶりです。以下同文!」
止められないか。
一気に3階まで上がり、窓から飛び降りる。
「いやっほぉい!」
「…あんぐり。」
そのままツァイスへと逃げ込もうとしたのだが、まだ止まる気配がない。
「ちょ、あんた達の体力底なし!?」
「あんたが待てば良いだけの話よ!」
「待つわけあるかぁぁぁっ!?」
待ったら後が怖いじゃないか!?
カルデア隧道を一気に抜けようとするが、エステル達がさせてくれない。
「…絶影!」
「うわっ!?」
ちょ、掠った掠った!
「ちっ…!」
「いや、普通避けるでしょ!?」
避けないと止まるしかないからね!?
「捻糸棍!」
「ちょ、ま…」
「待たないわよ!」
もうここ中央工房ですから!?
「待ちなさーいっ!」
「誰が待つかぁぁぁ!?」
一気に階段を駆け上がり、ツァイス市街へと抜ける。
「はあ、逃げ切れねー、かも…」
体力底なしというか、化け物レベルだよこれもう!?
「諦めたら、どうだいっ!」
「そっちがね!」
ツァイス市街からアイナ街道に抜け、ソルダート軍道あたりで何故か軍人が散歩していた。
どうでも良いから退いてそこの人!?
「…!中佐、前の人止めて!」
「う、うむ!?」
って、何やってんの、シード中佐!?
「緩い緩い。お邪魔!」
「ま、待つが良い!」
かるーく押しのけて、グランセルへと走る。
いい加減あきらめてはくれないだろうか。
「エステル君、グランセルにいるお父上には連絡がついている、そこまで追い込みたまえ!」
「ありがと、シード中佐!」
「マジでか…」
諦める気はなさそうだ。
まあ、シードは諦めて離脱したが。
方向を変えようにも、ここからではグランセルにしか行けない…
「いぃぃぃやぁぁぁぁっ!?何でまだ止まらねーのぉぉぉぉ!?」
「あんたが止まらないからでしょ!?」
お黙り、前の手配魔獣押し付けるよ!
「…手配まじゅー!シュトゥルムランツァー!」
と言いたいところだったのだが、長年の習性で退治してしまう。
「うわ、えげつなー…じゃなくて!」
「そろそろ止まったらどうだい?」
「目にハイライト取り戻してから言えぇぇぇっ!」
絶賛病んだ眼してるからあんた達!?
アーネンベルクへと突入し、アルシェムは全力で城壁を飛び越えた。
「…!1…2、3っ!」
流石にエステル達はこの芸当は出来ない…
「エステル、急いで駆け抜けるよ!」
「ラジャー!」
「関所破りじゃあああ!?」
は、ず…?
「ごめん、兵士さん!通行証!」
「僕の分もあります!」
「ぱ、ぱくぱく…」
「うっそぉぉぉ!?」
顔パスじゃねえからあああああ!?
キルシェ街道へと抜けると、もう逃げ場がないことに気付いた。
「あ、父さん!」
「よくやった。任せろ!」
そう言ったカシウスは棒術具を振り上げて…
「…無理無理無理無理!?無理だから!?」
「軽く受け止めておいてよく言う…!」
「い、いきます!やあっ!」
って、何でいんのティータ?
「ちょっ、味方を見てよ!?」
「あら、他人を気にかける余裕なんてあるのかし、らっ!」
「あるわけねーでしょーがぁぁぁっ!?」
黙れ残念露出狂!
「オラアアアアっ!」
「だから!?」
って、待って、それは流石に…
「ドラゴーン、ダーイブ!」
「無茶苦茶だぁぁぁ!?」
アガットに跳ね飛ばされ、アルシェムは取り押さえられた。
「は、はらほろひれはれ…」
「ぜー、はー…」
「やっと、か…」
逃げたいが、もう体力は残っていない。
「兎に角全員王城へ行くぞ。陛下に事の次第を報告せねばならんしな。」
「ちょ、ちょっと、タンマ…」
「右に同じ…」
そこで、アルシェムの意識は暗転した。
やらかした。
後悔はしていない。
今更ながら、お気に入り登録してくださった方々には感謝を。
じわじわ増えて、じわじわ減って。
原因不明ですからね。
では、また。