雪の軌跡   作:玻璃

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一仕事の前に、休めない。
これ、実生活。

では、どうぞ。


休む前に、一仕事。

アルシェムは、遊撃士協会(ギルド)に戻ってきていた。

「あ、お帰りなさい、アルさん。」

「只今、殿下。で…何の話でしたっけ?」

「アルさんが、遊撃士を辞めてまでやらなくちゃいけないことって何ですか、というお話です。」

ち、はぐらかせなかったか。

「あー…ソレね。…ある意味では、復讐なのかも知れねー。」

「復讐…ですか?」

「そ。それと、責任追及かな。」

復讐。

勿論、《白面》に、だ。

「アルさん…まさか、エレボニアに…」

「違いますよ、全く…何でそーなるんですか。わたしはただ、ケジメを着けなきゃいけねーと思うだけです。」

「あの件については終わったことです。気になさらないで下さい。」

あの件、ね。

《ハーメル》の一件ではあるが、その責任問題じゃない。

アルシェムがつけなければいけないケジメ。

それは、アルシェム自身が原因ではないという証明だから。

「その件じゃねーんですがね。…ただの私怨です。ついでにヨシュアでも分捕ってきますよ。」

「ヨシュアさん…アルさん、ヨシュアさんが今どこにいるのか知っているんですか!?」

その叫び声とほぼ同時に遊撃士協会(ギルド)に帰ってきたエステルから、表情が消えた。

「…それ、ホント…?」

タイミングが悪すぎる。

「…最悪のタイミング。全く…エステル、今はどこにいるのかは分かんねーよ。だけど、目的は分かる。」

さっきまで付近にはいたが、もういないだろう。

「目的…?」

「殺しに行くんだよ、元凶を。」

「悪い、魔法使いを…?」

魔法使い。

まあ、そのようなものか。

「あー、言い得て妙だね。そんな感じ。ま、重犯罪者には違いねーし。」

「…ソイツ、誰なの?」

「あんた達なら知ってんじゃねーの?最悪の破戒僧、だよ。」

リオに、分かるように。

既に知っているとはおくびにも出させないように。

「…っ!?」

「アル。あたしにも分かるように教えてよ。誰、なの?あたしが思い出せないのは誰?」

「…エステルもだったか。…その時に何て名乗ってたかは知らねーけどね…多分、きょーじゅって名乗ったんじゃねー?」

それ以外に、名乗りようがない。

商人にしてはうさん臭すぎるし。

「…っ…」

「エステルさん!?」

頭を抱えて、エステルが苦しむ。

「…ちょっと落ち着いてね。気を鎮めて。ゆっくりで良いから。」

「…大丈夫…思い出さないと…」

「無理しなくていー。多分、他の人にも接触はしてるはずだから。」

あの時の、教授のような人は本人だったのだろう。

「教授って…たしか、そう名乗ってた考古学者がいたはずね…」

「奇遇だな。俺も爺さんが誘拐されたときに会ったぜ。」

「確か、エステルさん達のお知り合いだとかで、学園祭を案内していましたよね…?」

…いやいやいや。

「…何でそんなに頑張ってんの…ま、いーか。ソイツだよ。」

「じゃあ、ヨシュアさんは…」

「十中八九、ソイツを狩りに行ってるだろーね。」

まあ、それ以上は望めない。

1人で相手取るには、相手が大きすぎた。

「…何でアルがそれを知ってるのか教えて貰いたいわね。」

「…鈍っ。ていうか、とうとうボケた?シェラさん、ほんとに有名な遊撃士?容姿だけで選ばれたんじゃねーの?」

「な、何ですって!?」

いや、あんたには言ったでしょうに。

「そんなシェラさんに宿題。何故わたしがソレを知っているのか、皆に説明してよね。」

「何でよ!?」

「ほんとーに分かんねーなら、準遊撃士からやり直しだね。推理力の欠如は痛いよ。」

推理力ではないが。

記憶力の問題だ。

「…っ!」

考え込んでいる間に、話を逸らす。

「…さて、エステル。レグナートはどーなった?」

「あ、えっと…元に戻ったわよ。復興に役立ててって金耀石貰ったし。」

「…レグナートェ…何してんの全く…」

もう少し世の中の物価とかに気を使ってほしいものである。

「後、多分アルに伝言があるんだけど…」

「で、伝言ね…何て言ってた?」

「確か、『盟約が果たされる日は、近いのかも知れない』とか何とか…」

「…そっか。分かった。」

それほどまでに、エステルは信用されたということか。

「え、意味分かったの!?」

「エステルにはヒント。聖獣レグナートは、太古からリベールを見守ってきたらしーよ。」

「…ぜ、全然分かんないんですけど…」

まあ、無理もない。

「分かるときが遠からず来るよ。このままならね。」

「…何だかヤバそうね。」

まあ、ヤバい。

「まー、マズいけどね。で…ちょっと言い辛いんだけど。」

「何よ。」

「確かめなくちゃいけねーから、もー1カ所探ってくるよ。」

「え!?またどっか行っちゃうの!?」

エステルさん、顔が怖いです。

笑いながら腕を全力でつかむのやめて下さい。

「アルシェムさん…どうしても行っちゃうんですかー…?」

「ティータ、そんな目で見ねーで…萎える…」

うるうるしながら、ティータが見てくる。

勘弁してほしい。

反則だ。

「もっと見るのよティータちゃん!」

「ふ、ふええ~…」

嗾けるなよ。

「もげろシェラさん。」

「何が!?」

「無駄な肉とか?」

もげてしまえ。

「さらっと答えるんじゃないわよ…」

「…ついて行っちゃダメ…かな…?」

断られると分かっていて、聞いてくる。

「…ダメ。そもそもついてこれる人員はいねーからね。」

「エステルお姉ちゃんでも…?」

「強いて言うなら…そーだね、可能性があるとしたらキリカぐらいかな。」

物理的に、人類最強の女だから。

「何でキリカさんなのよ!?」

「待て、分かるが…それだと俺も当てはまらないか、アルシェム。」

黙れ、巨漢。

「巨体すぎて発狂して動けなくなるのが目に見えてるから却下。」

「…しょぼーん…」

可愛くないから。

「じゃ、行くね。」

「待ちなさいよ、アル。」

「どしたの、エステル?」

痛いからだから腕離して!?

「…ちゃんと、戻ってくるわよね…?」

「勿論。ま、墜落しなきゃ問題ねーし。」

「墜落だぁ!?てめぇ、ホントどこ行く気なんだよ!?」

「秘密。」

《グロリアス》です。

「…(じとー)」

「そんな威圧感漂わせても教えてあげねーから。」

「…チッ。」

だって、止めるに違いないし。

「残念じゃのう…メイベル市長からアルシェムの分もチケットを貰っておるんじゃが…」

「いたの、ルグランさん。」

ジン並みに空気だったからいないのかと。

「シクシク…」

「いらねーよ。誰か代わり呼んでルグランさんが行けば?」

「こっちも人員不足なんじゃい!」

「あー、はいはい。んじゃ、また後日。」

遊撃士協会(ギルド)から出て、誰も来ない霧降り峡谷に隠れる。

「…よし。」

変装して、《身喰らう蛇》の拠点へと向かう。

地上に降りるとしたら、小型艇でそこに来るはずだから。




エステルってこんなヤンデレぎみだっけ。

ま、いっか。

では、また。

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