雪の軌跡 作:玻璃
何なの、週6回って。
では、どうぞ。
アルシェムが意識を失っていたのは、比較的短い時間だった。
「…ん…」
「落ち着いた?」
ボースの
「…リオさん…?わたし…確か…そーだ、レグナート…!」
レグナートを、救わなければ。
「はい、落ち着いてよね。もう…」
「…ありがとー。」
ダメだ。
今は、動けない。
下手に動けば、今度は本気のレオンハルトに邪魔をされるだろう。
「良いってことよ。…掴めた?」
「勿論。…あ、エステル達は?」
周囲にいないエステル達のことを聞くと、リオは青ざめた。
「あ゛。ご、ごめん、急ぐね!アンタはまだ絶対安静だから動かないこと!」
「へ?」
リオは、ギルドから飛び出した。
それを追うと、空に浮かぶアルセイユが見えた。
「…なるほど。空からかー…」
まあ、合理的だ。
どうしても自由に動ける方が止めやすい。
そこに、ティータとアガットが現れた。
「あれ、アルシェムさん!?寝てなくて良いんですかー!?」
「ティータ。アガットも…乗り遅れた口?」
「ああ…しかし、起きて大丈夫なのか?疲労が溜まりに溜まってるってことだったが…」
…そんなことになっていたのか。
「疲労…溜まるよーなことしてねーんだけど…ま、いーか。多分レグナートをアルセイユごときでは落とせねーし…」
「それ、ホントですか!?」
「んー…多分、カシウスさんが辛うじて勝てるかどーかってとこかな。」
というか、会ったことあるんだろうか彼ら。
あったら…
それなりに、怖いかも…
「おいおい…マズいだろ、それは…」
「ゴスペル次第だよ。多分、鈍らせてしまってはいるはずだから。」
山が崩れて。
村が焼かれて。
河が干上がるくらいの戦いをしていそうだ。
「何で分かる?」
「あのバカと対面してたとき…レグナートに敵意があったら今あのバカ含めて生きてねーから。本気のレグナートならブレス一発でラヴェンヌごと消し炭に出来たね。」
実際に、レグナートにはその力がある。
まあ、カシウスにもそれを止められるだけの力があるのだが。
「…そ、そうか…」
「だから、エステル達が戻ってきたらレグナートの住処に案内しねーとね。」
「…そしたらコイツが役に立つな。」
そういってアガットが見せてきたものは…
「振動ユニットかー。博士も暇人だね…アレ、ちゃんとやってんのかな…」
やってくれていないと、これからが大変すぎる。
「ふぇ?」
「ゴスペルの解析及び対抗策の模索だよ。」
「え!?わ、わたし聞いてない…」
「…そーなんだ。」
まあ、賢明か。
兵器にもなり得るものだし。
子供にやらせるものじゃない。
「むぅー…」
「やれやれだぜ。」
「ほんとーにね。」
全く。
本当に、機械いじりが好きなんだから。
暫くそうしていたら、案の定戻ってきた。
…青筋を立てたリオが飛び降りたのは想定外だったが。
「アルシェムさん…?絶対安静って言ったよね、アタシ?」
「…ひ、ひゅーひゅー。」
「誤魔化さないのっ!」
誤魔化したいよ。
安静にしていなくても、まだ動けるのに。
「安静にしてる場合じゃなさそーだからさ。…レグナート、止め損なったでしょー?」
「う゛。」
「だから、住処に行かねーとね。」
「今から!?」
はい、今からです。
「これいじょー、被害は出せねーから。」
「…そうだね。でも、アルシェムさんは留守番。」
「えー…」
行きたいのに。
その念を込めてエステルを見るが、どうも許可されなさそうだった。
「えー…じゃないわよ、このおばか!これ以上、心配させないでよ…」
「…分かったよ、エステル。無茶はしねー。」
無茶は。
他にはするかもしれないが。
「ちゃんとここにいるのよ?」
「…エステル。そんなに心配しなくても…」
「一言の音沙汰もなしで今までいたアルにはこれくらい言わないと分かんないんだから、良いでしょ。」
「…悪かったって。…行ってらっしゃい。」
そうして、エステル、アガット、ティータ、シェラザード、リオがレグナートを止めに出て行った。
待機すべく、アルシェムは
「…はぁ…甘い…」
「落ち込んでいるみたいですね、アルさん?」
そこに現れたのは、クローディア。
「げ、殿下。」
「げ、って…」
今は、誰とも話したくない。
「…ジンさーん、掲示板でも片付けたら?早めに終わらせちゃったら楽になるんじゃねーの?」
「まあ、そうだな。アルシェム、お前さんも手伝…」
「え、嫌。」
え、何で手伝わないといけないの?
という顔でジンを見返す。
「何故だ!?」
「わたし、もー遊撃士じゃねーし。協力員でもねーもん。」
「…そうだったな…」
いや、気付けよ。
「あの…アルさん。どうして遊撃士をやめたんですか?」
「…やらなくちゃいけねーことがあるって殿下にはいーませんでした?」
言ったはずだ。
あの時に…
「遊撃士をやめてまでやらなくちゃいけないことって何なんですか?」
「何だと思います?」
…あれ。
「はぐらかさないで下さい。貴女は、一体…」
この気配は、まさか。
「…ちょっと待って貰えます?」
「え…?」
念のために、ジンに聞いてみる。
「…ジンさん、分かりますか?」
「何…?」
え、分からないの?
じゃあもう良いか。
確かめに行こう。
「…分からねーか。仕方ねー…」
隠形で身を隠し、ゆっくりと歩き始める。
「あ、アルさんっ!?」
「消えた…だと!?」
「心配しねーで。すぐ戻る。」
さっき一瞬だけ感じた気配を追って、アルシェムは琥珀の塔にやってきていた。
「…ヨシュア。」
さっきの気配はヨシュアだ。
「…参ったな。様子を窺いに行っただけだったのに…」
凍りついた目をして、言うヨシュア。
それだけで、分かってしまった。
「…死ぬつもり?」
「…そこまで分かってるのか…相変わらず、鋭いね。死ぬつもりはないよ。今はね。」
今は、ということは一瞬後にでも死んでもおかしくない。
「…ヨシュアじゃ無理だよ。役者が違いすぎる。」
「…それでも…僕は、教授を殺す。」
…分かっていた。
そういうのは、分かっていた。
だけど、ろくに訓練も受けていないアルシェムの似非法術では、ヨシュアを解放することが出来ない。
「先に教会関係者に会いに行ったら?下手したら、また操られるよ。」
「ああ、これか…そうかも、知れないな。でも、今は時間がない。」
分かっていて、なお行くのか。
「全く。時間ねーのに様子見に来るとか、どんだけよ…」
「…それ、は…」
「…だいじょーぶ。エステルは強くなったよ。」
エステルが強くなっていなかったら。
今、ここにはいない。
「…そうだね。シエルはどうするつもりなんだい?」
「アルシェムとして姿を眩ませ、シエルとしてグロリアスに乗り込む。ヨシュアもそーでしょ?」
「ああ。爆弾でも仕込みに行こうと思ってね。」
やる気満々じゃないか。
「その対策を考えてるだろー、きょーじゅの裏をかいておくよ。気を付けてね。」
「…勿論だよ。」
ヨシュアが消える。
「…ったく。」
もう少し、欲望に忠実に生きたって良いだろうに。
たまーに、バイト変わってって言う人をぶん殴りたくなるよね。
漢字が違うし、まず。
代わるだよ。
もはや、替わってだよ。
では、また。