雪の軌跡 作:玻璃
そんなもの、決まっているじゃないか。
では、どうぞ。
廃鉱を抜け、かつてリンデ号が止まっていた場所までたどり着くと、案の定そこには役者がそろっていた。
「…いた。」
「…来たか。」
「邪魔すんじゃねぇぞ、アルシェム!」
その言葉すら聞かずに、アルシェムはアガットの前に滑り込んだ。
「却下だね。…ねー、レオン兄。思い出してよ。」
「何をだ、《ハーメルの首狩り》。」
そこで、若干アガットが身じろぎをしたが気にしてはいられない。
そんなこと、今は構っている余裕はないのだから。
「…そのわたしが殺した人達を思い出してよ。」
「お前は…カリンを殺した。ハーメルの皆を殺した。お前が奴らと通じていたからだろう。」
…どうして。
「…何でわたしがカリン姉を殺さないといけないのよ。」
「それはお前が奴らと通じていたからで…」
どうして、アルシェムが。
「何でわたしが、ハーメルを滅ぼした奴らの仲間にならなくちゃいけないの。」
「お前はそのために棄てられたんだろう?」
「何で、わたしが。矛盾しかないって分かってて、それ言うの?」
アルシェムが殺したのは、猟兵だけだというのに。
何故、レオンハルトはそう言うのか?
「お前がエルを殺した。」
「は、どーやって?」
どうやって、アルシェムがエルを殺すというのか。
エルは…
シエル・アストレイはアルシェムなのに。
「猟兵を呼び込んだ。赦されることではなかろう?」
「…ふざけるな。」
何故、アルシェムが猟兵を呼び込まなければならない。
「…何?」
「じゃー、聞くけどさぁ。何でレオン兄は生きてんの。」
アルシェムは忠告して回ったのだ。
「それは…たまたま…」
「何でヨシュアは生きてんのさ。」
怪しい人達が村を窺っていた、と。
なのに…
「それは…俺と一緒にいたからで…」
どうして。
「何でわたしが皆を殺したって分かる!答えろ、レオン兄!」
どうして、誰もアルシェムの言うことを聞いてくれなかったのか。
「お前が《ハーメルの首狩り》だからだ。」
アルシェムが、捨て子だったから。
「下らない。実際に、わたしが皆を殺してるのを見たわけでもないくせに…勝手に、人殺しにしないでよ…っ!」
身元不明の、不審者だったから。
「だが、殺したのだろう?」
だから、全てはアルシェムが悪いのだと。
「猟兵は首を飛ばした。わたしが殺したのは猟兵だけだ。」
「なら、何故皆が死んだ!お前が殺したのでなければ、誰が!」
そこで、エステル達が追い付いてきた。
「…アル、アガット!」
だが、それに構う余裕はない。
「…誰が…?わたしの話、聞かなかったくせに、よく言うよね。」
信じて貰えないって、信じたくなかった。
だから、何度も何度も言って回ったのに。
「…レグナート、足止めしろ。」
誰も、気に留めてもくれなかった。
「わたしが誰だったかなんて、知る気もないくせに!ふざけないでよ!いい加減にしてよ!何で…何で、本当のことを思い出してくれないのよ…っ!」
わたしがエルです。
そう、アルシェムは告げるだけでよかった。
だけど、今はできない。
今は、まだ。
「…埒が明かないな。或いは…ここでお前を始末するのも良いかもしれん。」
剣を構えるレオンハルトを見て、アガットがアルシェムの前に飛び出す。
「させるかよ…!」
「退いていろ。貴様には関係のない話だ。」
「ヘッ、関係ならあるさ…ハーメルの話なら尚更な!」
そう言って、守ってくれようとするけれど。
アルシェムには、そんなものいらなかった。
「護ってくれなくて、良いよ、アガット…わたしが、アガットの妹を死なせてしまったようなもんだし。」
アルシェムが、もっと信頼できる人間であったのなら。
アガットの妹は死ななくて済んだのかもしれなかった。
「てめぇにゃ関係ねぇよ、アルシェム。…これは、俺なりのけじめだ。もう、間違えたりしねぇ…」
「アガット…の、剣じゃ無理かな。」
だから、アルシェムは。
「んだと!?」
どうでも良い情報とともに、アガットの前に出た。
「切れ味が違いすぎる。ケルンバイターにただの鉄塊じゃ、間違いなく負けるね。」
「…何故この剣の銘を知っている…?」
「外の理で作られた剣。何でも切れる斬鉄剣相手に、打ち合おーなんて無茶じゃねーの?だから…」
何もかもに配慮をせずに。
アルシェムは、限界を超えて殺気を振りまいた。
「…っ!?」
「ふ、ふええ…」
皆が顔を青くして後退りするほどに、濃厚な殺気を受けて。
「引けよ、レオン兄。」
レオンハルトの顔にも、一筋の汗が流れた。
「…フ、少し見くびっていたようだ…」
「ざまぁ。」
後退りして、剣を収めて。
「…止めるよりは、楽にしてやると良いだろう。」
「すると思うなら、おー間違いだよバカ。」
レオンハルトは、逃げて行った。
それを確認して、アルシェムは振りまいていた殺気を収めた。
「…ふぅ…」
殺す気もないのに、無理に殺気を出していた反動でアルシェムは膝をついた。
「お、おい…大丈夫か!?」
「や、やりすぎた…」
体が、震えだす。
今更、自らが仕出かしたことの代償を受けていた。
「ちょっ…アル!」
「は…はは…はんどー…考えりゃ…良かっ、た…」
もう、誰も殺したくないのに。
殺そうとする心構えをするだけで、この様だ。
「おい、しっかりしやがれ!」
「アルシェムさん…あ、そうだ!リオさん、リオさんなら落ち着かせてくれますよね!?」
ガタガタ震えるアルシェムは、ティータの爆弾発言に突っ込むことができなかった。
「ふぇ!?」
「だって、前…」
「やっぱりあの時の子だったか。ちょっとアガットさん離れてくれます?」
一応辻褄を合わせるために会話を合わせて、リオがアルシェムに近づく。
「あ、ああ…」
「…リオ…さん?…やべー…止ま…ら、ねー…」
止めたいのに、止まらない。
「ああ、もう!仕方ないなぁ…」
だから、リオは…
大剣を振りかざして。
「…ちょっ…」
「アンタ、もうちょい安全なとこでやってよね。次からで良いからさ。」
その言葉とともに、剣の腹を下に向けて振り下ろした。
※死んでいません。
念のため。
では、また。