雪の軌跡   作:玻璃

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なんで一日って24時間しかないんだろう。

クエスト一つ目です。

では、どうぞ。


旅立ちと光る石

次の日。

朝食を手早く済まし、慌ただしくカシウスを送り出す時間になった。

緑色の定期船リンデ号の前でブライト家の子供達とシェラザードがカシウスの見送りに来ていた。

「さて…そろそろ時間だ。エステル、あまり無茶をするんじゃないぞ?」

「もう、耳タコだってば。父さんも無理しちゃだめよ?トシなんだから。」

何気に失礼である。

まあ、歳であることには変わりはないのだが。

45だし。

「フン、まだまだ若いもんには負けられんさ。シェラザードも、急な仕事を押し付けてすまんな。」

「いえ、気にしないで下さい。先生の代わりが務まるか心配ですけど。」

シェラザードに出来ない超難度の依頼は間違いなくカシウスが既に終わらせているはずなので心配無用である。

「謙遜するな。ついでに悪いが、何かあったら3人を頼むぞ。」

「フフ、任せて下さい。決して甘やかさずに厳しく見守りますから。」

「分かってるじゃないか。」

嫌がらせか…

まあ、見守ってもらう必要はない。

アルシェムの方が、シェラザードよりも強い。

判断力も上だ。

「何よそれ…」

「はは…」

「流石カシウスさん…」

離陸のアナウンスが流れる。

「おっと、いかんいかん…」

そして、カシウスはリンデ号に乗り込んだ。

「父さん、行ってらっしゃい。こっちのことは心配いらないから。」

「仕事が終わったら遊んでないで早く帰ってきてよね。…待ってるから。」

一応言っておくが、カシウスが遊んで帰ってきたことは一度もない。

特に、アルシェムがブライト家に来てからは。

「人聞きの悪いことを言うな。だがまあ…なるべく早く帰って来るさ。元気でな、3人とも。」

「…頑張ってねー。」

「おう。」

リンデ号が発進し、雲の彼方に消えた。

…カシウスのことだから、まあ、何とかしてくれるだろう。

「行っちゃったね。」

「うん…」

エステルは寂しそうな顔をした。

憎まれ口を叩きつつも、本能では何か感じ取っているのかも知れない。

なんてったって、カシウスの娘である。

動物的な勘が働いても驚かない。

「寂しそうな顔しなさんな。どうせすぐに戻っていらっしゃるわよ。何の調査か知らないけど、先生だったらあっと言う間だわ。」

「さ、寂しくなんかないってば!いつものことだし。何言ってんの!?」

それでも不安なのは、やはり何かを感じているのだろう。

…それはきっと、間違いではない。

「はいはい、そういうことにしといてあげるわ。それじゃ、あたしは仕事だけど…困ったことがあったら遠慮なく頼りなさいよ?」

「うん、でも最初のうちは自分達の力で頑張ってみるよ。どこまでやれるか試してみたいしね。」

「フフ、ナマ言っちゃって。…ま、2人が付いてれば心配ないか。3人とも頑張りなさいよ。」

言われるまでもなく、頑張る。

「うんっ!」

「頑張ります。」

「出来る限りやってみますよ。」

シェラザードは颯爽と去っていった。

「さてと…どうする?早速ギルドに行こうか?」

「うん。それじゃあ、レッツ・ゴー!」

3人は意気揚々とギルドに向かった。

ギルドに入ると、いつものようにアイナが出迎えた。

「あら、3人とも。カシウスさん、もう出発したの?」

「うん、さっきね。それで早速、父さんがやるはずだった仕事を紹介してもらおうと思って。」

それを聞いて、アイナは物凄く複雑な顔をした。

「わかったけど…実は、今人手不足でね…誰か1人はこの依頼から外れて欲しいのよ。」

…やった。

と、アルシェムは思った。

これは、自由に動く口実になる。

「じゃー、わたし、1抜けた。わたしと組むよりエステル達のコンビが一番合ってるだろーし。」

まあ、本音でもある。

エステルはともかく、ヨシュアはエステルから離れたがらないだろうから。

「…良いの?アルシェム。」

「気にしねーですよ。細々したのを片付けるほーがしょーに合ってるので。」

「ごめんなさいね。エステル達もそれで良いかしら?」

「ええ。でも…本当に良いのかい?」

済まなさそうな顔をしているが、内心では安心しているはずだ。

何しろ、得体の知れない女がエステルから離れるのだから。

「うん。…気にしねーの。もしかしたら手伝えるかもだし、手っ取り早く終わらせるから心配しねーでよ。取り敢えず掲示板の仕事でも片付けよーか?」

「ええ、お願い。」

これ以上はここにいたくなかったので、掲示板の依頼を見て外に出る。

まずは、光る石の捜索か…

工房の裏…

ああ、あの子か。

「…あなたがカレルさん?」

「お、おう…」

カレル少年は、アルシェムを見て少なからず驚いたようだ。

「準遊撃士のアルシェムです。掲示板を見て来ました。…事情を聞いても良いかな?」

「その、この辺でキレイな石を見なかった?キラキラ光る奴。」

綺麗で光る石…

クオーツかセピス?

「この辺では見てね…ないよ。この辺りで無くしたみたいだね?」

「うん、雑貨屋に行って戻ってきたら無かった。」

恐らく、この少年はその辺りを何度も探したのだろう。

でなければ依頼などしてくるわけがない。

「ん、じゃあ探してみるよ。ここら辺にいてくれる?」

「おう…頼んだぜ。」

アルシェムはリノン総合商店とメルダース工房の周辺を探し回り、排水溝に光が見えることに気が付いた。

「…あれか。」

そして地下水路に入る。

「うわ、何回湧いてくるんだか…」

一回出れば復活する謎のダンジョンに入っている気分だ。

魔獣を一掃し、クオーツの欠片を回収する。

「あーあ…割れてら。これじゃー使いもんになんねーじゃん…」

石を磨きながら地上に戻る。

すると、唐突に声をかけられた。

驚くことはないが。

「あ、アル!」

エステルが、ヨシュアと一緒にこっちに近づいてきた。

「エステル、どうしたの?今から仕事?」

「うん、今からティオのとこに行くの。」

「魔獣退治にね。」

…ああ、確かに農園からの野菜が届かないって言ってたような気がする。

「頑張ってねー。しばらくしたら手配まじゅー狩りに行ってくるよ。」

「気を付けなさいよ?アル。」

手配魔獣狩りは、アルシェムにとっては朝飯前の仕事だ。

ツァイスに留学していた時、ギルドの協力員として手配魔獣を1日に20匹ほど狩ったこともある。

…まあ、異常発生だったのだが。

「りょーかい。依頼人が待ってるから、また後でね。」

エステル達はミルヒ街道の方へ去っていった。

どうでも良いが、装備とかは大丈夫なのだろうか…

と考えつつ、メルダース工房の裏まで戻る。

「お待たせ。」

依頼人のカレルが、顔を上げる。

「いや、そんなに待ってねーけど…見つかったのか?」

「うん、これでしょ?」

そう言って、拾った石を手渡す。

「ああ、これだよ。オレのキレイな石…」

「クオーツにきょーみあるの?」

石の正体をさりげなく言うと、何故か食いついた。

「この石って、クオーツなのか?オーブメントに入ってる?」

「そーだよ。それはもう割れてるから、機能しね…ないけど。」

危ない危ない。

汚い言葉遣いが出るところだった。

「そうか…やっぱこれはオーブメントの部品なんだ…」

「メルダース工房に入ったらいっぱいあるけど、見る?」

…物凄く興味がありそうだ。

将来は導力技術者にでもなってくれないかな。

「…そんなに時間無いからいいや。」

「んじゃあ、これは?」

昔作ったオーブメント細工を見せる。

ツァイスに行く前に作った複雑な絡繰り人形。

一度つつくと暫くくるくる踊り続ける。

まあ、絵のセンスがないのでかなりヤバい絵面だが。

「わあ…」

「欲しいならあげるよ。かなり古いし、もう使わないしね。」

「良いのか!?」

…絵に感動したわけではない。

絶対にないったらないのだ。

というか、この絵に感動できる奴はセンスが死んでいる…

「気にしないの。廃材で作ったからミラもかかってないしね。」

「…ん。」

カレルはドリルミートボールを差し出した。

…お礼のようだ。

「…くれるの?」

「ああ。その…ありがと。じゃあな!」

「うん、もう無くさないようにね。」

カレルはそのまま走り去った。

それを見送ってから、アルシェムはギルドに報告に行った。




ついにカシウス氏が旅立ちましたね。

どうでもいいですが、カシウスって打つと最初に「菓子うす」って出るのはなぜなんでしょう。
甘くもないはずなんですが、このチート親父。

そろそろ題名がふざけ始めますがあしからず。
では、また。

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