雪の軌跡 作:玻璃
だってね、そんな経験ないもの。
今回はバトってないけどね。
では、どうぞ。
合流、そして《剣帝》
気を取り直して、アルシェムはエステルに話しかけた。
「あ、エステルじゃねーの。どーしたの?」
「どーしたの?じゃないわよっ!あれから音沙汰ないし…!」
悪かった。
反省している。
多分。
だから涙目にならないでほしい。
「ごめんごめん。…で、ボースに何か用?」
「あ、様子のおかしい手配魔獣を狩り終わって、今から報告に行くところなの。」
早い。
エステルも、成長してきたってとこか。
「ふーん。で…その人は?」
一応は初対面のはずなので聞いておく。
…あ、ツァイスで会ってるか、昔。
「それも含めて説明したいから、ギルド行かない?」
「…分かった。」
ごめん、ちょっと気持ち悪い。
「おお、アルシェム!」
「お久しぶり、ルグランさん。」
軽く挨拶し、エステルの報告を聞くことにする。
「手配魔獣、狩ってきたわよ♪何か様子が変だったけど…」
「様子が変、じゃと?」
「うん、何かに怯えてるような…」
間違いなくレグナートです、はい。
「ううむ…」
「あー…わたしから補足せつめー。」
「え、何か分かるの!?」
済みません、現場にいました。
「いや…とゆーか、事後ほーこく?霧降り峡谷に、ちょっと友人がいるんだけど…」
「どういうことだ?彼処にはウェムラーのオッサンしかいねぇはずだが…」
アガットェ…
悪かったね、人間の友人じゃなくて。
「わりー、いー方が悪かった。友人、人間じゃねーの。…レグナートってゆー竜がいるんだけど…」
「竜じゃと!?」
「ていうか、竜の友達!?」
そんなに意外なの?
「どーも、ゴスペルを着けられてるっぽい。」
全員の顔に、驚愕が走った。
「!?」
「それって…!」
そこで黙っていられなくなったのか、リオが口を開く。
「説明を求めるよ、えっと…」
「アルシェム・シエル。あなたは?」
そこで、気付いた。
何か大きな気配が…
いや、明言してしまおう。
レグナートが、近づいてきているのを感じた。
「リオ・オフティシア。」
「ああ、メルせんせーの親戚さん。」
一応、知っていることになっていたのでそう返す。
「アルシェムさん。聞けば、あんたは単独で執行者を退けたそうじゃない。なのに何でそのレグナートを救わないの?」
「…あの時は…慣れねー型で、手加減されてたし。もー一回勝てる気がしねー。それに…無駄な被害は出さねーよーにはするはずだから。」
これで、通じたか?
「え、じゃあもしかして…ボースにいるのって…!」
通じた。
そう思ったと同時に、外で大きな破壊音が響いた。
これは、間違いない。
「な、ナニコレ!?」
「チッ…レグナートっ!」
ギルドの外に駆け出す。
誰も、死んでいませんように。
「アル!?」
皆が外へと駆け出し、見上げると、ボースマーケットの屋根の上には巨大な竜がいた。
「な…!」
「あ、あれがレグナート…」
「…レオン兄っ!」
「…?お前は確か…アルシェム、だったか?生憎…そう呼んでも良いのは1人だけだ。」
1人だけ、か。
そう呼んでいたのはシエルことアルシェムだけ。
だから、それを許されているのもアルシェムだけだ。
「真実を見ないレオン兄には分かんないよ。」
「生憎、何のことだか分からないな。」
分からないんじゃない。
記憶を消されてしまっているから。
だから…
「執行者No.Ⅱ《剣帝》レオンハルト…!大人しくお縄につきなさいっ!」
「お前が黒毛和豚の娘か…」
ちょ、おま、いきなり琴線に触れちゃダメでしょうに。
「…外法認定して良いかな…?」
「ちょ、リオさん、抑えて抑えて。」
黒いオーラを出すリオを、エステルが抑える。
よくやった、エステル。
「答えて、レオン兄。何のためにレオン兄は執行者やってるの?」
「…見極めるためだ。」
「…見当外れの真実を?ばっかじゃないの!?誰かをぎせーにして、得られる真実の何が正しいっての!?」
「…お前に何が分かる。奪ったのはお前だろう。」
違う。
それだけは、違う。
「…くせに…」
「…何?」
「何にも知らねーくせにっ…!」
奪ったのは、わたしじゃない。
そう、アルシェムではない。
奪ったのは…
「アル…?」
エステルの、その声で現実に戻ってこれた。
憎しみに囚われてはいられない。
このままにするつもりもない。
「…っ、兎に角、レグナートを解放しろ。彼は今のあんたにゃ相応しくない存在だから。」
だから、冷静にならなくては。
少なくとも、今だけは。
まだ、すべてを明かすときじゃない。
まだ、明かせない。
「生憎、まだ実験が終わっていなくてな。…さらばだ。」
「レオン兄のお馬鹿ーっ!」
アルシェムの、絶叫を残して。
レグナートは、レオンハルトを乗せて飛び去った。
「アル…」
「…っ、エステル、中…人、いるみてー、だから…早く。」
「そうね、分かったわ!」
エステルを、ボースマーケットの中に誘導して。
勢いよく駆け出したアガットを追う。
「…バカ…」
アガットでは、敵うわけがないのに。
アガットを追い、アルシェムはラヴェンヌ村から廃鉱へと向かった。
アガットを止めるために。
そして…
レオンハルトを、止めるために。
どうでも良いこと。
絶対ウェムラーって、うえむらだよねえ。
では、また。