雪の軌跡   作:玻璃

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いや、うん。
アルシェムさんのお友達って意外と少ないんです。

では、どうぞ。


ちょっとさみしい友達。

ボースへと向かったアルシェムは、あの時に出会った知り合いに会いに行くことにした。

「レグナート、元気かなー…」

霧降り峡谷へと向かうと、えらく不穏な気配がしている。

「…無事かな、レグナート。これは…ちょっと、マズそうだけど…」

気配がヤバい。

何故にしてレオンハルトとワイスマンの気配がするのだか。

念のために隠形で身を隠し、レグナートの住処へと侵入する。

「…っ!?」

やはり、いた。

より一層気配を消して隠れる。

「…誰かいるのか?」

気付かれた?

「どうかしたのかね、レーヴェ。」

「いや…気のせいだったようだ。」

…気のせいじゃない。

気付かれてて、見逃された。

後で見てろレオン兄。

「ふむ?…さて、用事は終わったようだね。後は任せたよ、レーヴェ。」

「…ああ。」

そういって、謎の瞬間移動でワイスマンは去っていった。

どうでも良いが、それに頼りすぎたら筋肉落ちるぞ。

そんなどうでも良いことを考えていたら、案の定レオンハルトが話しかけてきた。

「…やれやれ…そこにいるな?」

「…よく…分かったじゃねーの。」

深呼吸して、気合を入れて。

変装が解けていないかどうかを確認して、隠形を解く。

内心、物凄く緊張しているのを悟られないようにしながら。

「お前は…」

「執行者No.ⅩⅥ《銀の吹雪》。久し振りだね?」

今はアルシェムではなく、執行者だったモノだと。

暗に言う。

「…?この間、グランセル王城で会ったばかりだと思うが?」

「さて、何のことやら分かんねーな。」

そこにいたのはアルシェムで、執行者ではない。

「…とぼける気か?《ハーメルの首狩り》。」

「とぼけてわたしに得がある?」

「…それも、そうだが…何故ここにいる?」

懐疑の色をにじませたままで、レオンハルトは問う。

そんなに警戒しなくても、取って食いやしない。

アルシェムがレオンハルトを圧倒できるのは、双剣の時だけだから。

まあ、精神的負担が大きすぎるのでもうやりたくもないが。

「何故って、旧友に会いに来たんだけど…」

「ここに人間はいないが。」

酷いな。

一応、まだいるじゃないか。

意思疎通のできるモノが。

すぐそこで、何かおでこに付けて…

って、アレ、もしかしなくてもゴスペルか。

「レグナートだけど。」

「…は?」

「いや、だからレグナートに会いに来たんだって。」

一瞬、レオンハルトが固まった。

やれやれ。

そんなに驚かなくても良いのに。

「そ、そうか…済まないが、実験でな。今は行動を縛らせて貰っている。」

「もーちょいてーこーすりゃ良かったのに…」

「しかし…不思議だな。シエルにそんな友人がいたとは…」

オイコラ。

憐れむな。

レグナートも憐れんでいたが、そんなに薄幸そうか?

失礼な。

色々あったが、今が一番幸せなんだから。

「…何?友達いなさそーな雰囲気出してる?わたし。」

「いや…そうではないが…少々規格外だと思ったまでだ。」

レグナートは兎も角、ボッチ確定のレオンハルトには言われたくない。

友達いないだろ、レオンハルト。

ヨシュアは弟扱いだし。

「そー?…まー、いーけどさ。出来ればレグナートも暴れたくはねーだろーし、ちゃんと手綱もっててあげてよ?」

「…それは、つまりお前は介入しない、と…?」

「場合によるね。レグナートが死傷者を出したら止めに入るかもだけど。」

レグナートに殺しをさせるわけにはいかない。

狩られる要素を増やす必要はないし。

何より、狩らせてはならない。

「…そうか。そうはならないと良いがな…」

「兎に角、暴れさせねーでよ?」

「…善処する。」

善処するだけで、被害は出すつもりか。

…仕方がない。

「んじゃ、わたしはボースに戻ってるよ。」

レオンハルトを止めるために。

そのための、抑止力を求めて。

「ああ…またな。」

アルシェムは、レオンハルトに一瞥もくれずにボースへと向かった。

「…レグナート…っ!」

ごめんね。

後で、助けるから。

教会に忍び込み、変装を解いてボースを散策する。

いずれ、来るエステル達と合流するために。

…まあ、その前に何故かメイベル市長に会ってしまったのだが。

正確には、メイベル市長とメイドのリラ。

これでストーカーが一々排除されているのが凄いところである。

絶対どっかにファンクラブあるだろ。

「…あら?確か、貴女…」

「…あー、お久しぶりです、メイベルしちょー。」

どうせなら、エステル達の後に会いたかった。

説明が面倒で面倒で仕方がない。

「アルシェムさん、でしたわね…お久しぶりですわ。」

「ちょーしは如何ですか?」

まあ、良くないだろう。

レグナートがあれだ。

何が起こっていてもおかしくはない。

「ボースの方は万事上手くいっておりますわ。ですが…」

「何か?」

「確か、貴女は元遊撃士の《氷刹》でしたわよね?魔獣狩りのエキスパートの。」

ああ、魔獣が湧くのか。

「…そんな渾名、初めて聞きましたけどねー…」

何その痛々しいの。

まあ、《nice boat》とか《空気》とかよりはマシだけど。

「最近、ボースでは手配魔獣が多発していて…」

「…あー…何となく、りゆーは分かりますし。多分エステル達がそろそろ来るでしょーから、そっちにお願いします。わたしは…もー、遊撃士じゃねーですから。」

「…そう、ですか…エステルさん達にお会いしました?」

「…へ?」

もう来たのか!?

流石にちょっと早すぎる。

もしかしてルシオラ、手ぇ抜いた?

「ふふ、ご存知なかったんですわね?もういらしてますわよ。」

「…お嬢様。視察の時間が…」

「はっ!?そ、そうでしたわ…!では、ご機嫌よう!」

あー…

これは、逃げられないなあ。

気配、近いし。

「…そーぞーしー…ん?」

「…あ…アルっ!!」

エステルは、アルシェムに飛びついた。

「ぐぇっ!?」

そんな効果音を残して、エステルを振りほどいたのは言うまでもない。




何て言えば良いんでしょうね。

お友達。
知り合い。
はたまた、保護者。

アルシェムにとってのレグナートは、こんな感じです。

では、また。

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