雪の軌跡 作:玻璃
それもこれもガムテが悪いんだ。
では、どうぞ。
アルシェムは、ボースに来ていた。
こういう場合、間に合いそうな場所に役者を置くのがレンだから。
まあ、手先はアレだが。
「…何やってんの、カンパ。」
テントから出てきた少年もどきに声をかける。
「やあ、シエルじゃないか。久し振りだね♪」
黙れUMA。
「出来れば会いたくなかったんだけどなー…」
「つれないなぁ、君と僕との仲じゃないか。」
「…潰すよ?」
母星に帰れ。
「冗談、冗談。」
テントの中に置かれているものは、恐らく…
「…お茶会への招待状、かな?」
「相変わらずだね。そうさ。」
「…無駄にならねーといーけどね。」
「じゃあ、任せたよ。もう君じゃあ間に合わないしね。」
失礼な。
その気になったら間に合うのに。
「あー、はいはい。」
カンパネルラはそのまま消えた。
まあ、代わりに別の役者が来たのだが。
「趣味わりー…」
シェラザードにアネラス、か。
「動かないで!」
「…何だ、そーゆー意味か。えーと…シェラザード・ハーヴェイにアネラス・エルフィード。こんな所で油売ってるくらいなら、グランセル行けば?ルシオラはまだ動かねーし、お茶会にしょーたいされてるんだから。」
超絶棒読みで答えてやった。
何で来ちゃうかなあ。
「何で超絶棒読み!?」
「ついでにネギ・グラハムも。」
「参ったな…バレバレやんか。って、ネギちゃうし!」
ネギだろう。
髪型が。
「ここにはもーなにもねー。いなくなったアルシェム・ブライトの代わりに保証するよ。」
「な…!」
「アルシェムちゃんをどうかしたの!?」
どうかって。
本人を前にして言うことじゃない。
「違うね。アルシェムは生きてるよ。ただ、『ブライト』でないだけで。」
「…あんた…一体…」
「元、執行者No.ⅩⅥ《銀の吹雪》。以後お見知り置き願うよ。」
優雅に礼までしてみせる。
「元…?」
「あまり詮索してくれるな、ユン・カーファイのご令孫。」
お前も詮索されたくはないだろう?
「…っ!?何で…」
という意味を込めて言ってみたがまあ、効果はあったようだ。
「そこのテントの中は調べたな、ネギ・グラハム?」
「ケビンやケビン!ネギやないし!?」
ネギだろ。
「なら、急げ。舞台はグランセル。主演女優はカノーネ・アマルティア。主演男優として、デュナン・フォン・アウスレーゼ。助演は遊撃士諸君…そして、監督は執行者。」
「…っ!?」
「グランセルが終わればロレントだよ。…じゃーね。」
騒ぎ出す馬鹿どもをしり目に、その場から消えてロレントへと向かった。
「やれやれ、だねー。何を考えているのだか。」
露出狂の気配がする。
場所は…ミストヴァルト、か。
比較的彼女は隠形が得意ではないようだ。
まあ、幻術で隠せるのだし。
「…あら、久し振りね、シエル。」
こちらに気付いたのか、露出狂はアルシェムのほうに向きなおった。
「久し振り、露出狂。」
「…何ですって?」
「…お茶会が終わったら、シェラザードが来るよ。」
「…そう…」
訂正しろよ、露出狂。
もとい、ガムテープ。
「…ルシオラ。貴女は優しすぎる。」
「そうかしら。」
自分にも、敵にも。
「殺さず、引かせるなんてなかなか甘いんじゃねーの?」
「…かも、知れないわね。」
「だから、さ。あんたはもー、表舞台に戻ったほーがいー。まだ、戻れるからさ。」
「戻って…何になるの?私はもう人殺しなのよ?」
たかが1人、殺しただけで何を言う。
「…それをわたしに言えるってのがねー…クルーガーとか、ヨシュアとかどーなんのよ。」
クルーガーは、今はメイドやってるし。
ヨシュアは曲りなりとも逸般人の元で暮らしていたが。
アルシェムだって、戻れない位置にいるのだ。
「それは…」
「…すぐに結論を出さなくていーよ。じっくり考えたら?」
出来れば一般人に戻ってほしい。
結社は追ってくるだろうが、人材を結社に集めておくわけにもいかない。
「…そう、ね…」
「…ちゃんと、シェラザードの相手してあげなよ?」
アルシェムのほうで引き取るわけにもいかないし。
出来れば、シェラザードに引き取ってもらうのが一番良い。
「…考えておくわ。シエル…貴女は、これからどうするの?」
「ん?ボースに向かう。」
「そういうことではないわ…数多の逃れ得ぬ運命に縛られた貴女は、これからも縛られたまま生きていくの?」
「…さーね。じゃ、また。」
何で、そういう意味の分からないことを言うかなあ。
アルシェムは、そのままロレントを後にした。
かつての家に、一瞥もくれることなく。
さーて、変態祭りは終わった。
次は、まじめな話だ。
まあ、ふざけるけどね。
では、また。