雪の軌跡   作:玻璃

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今回は変態ではありません。

では、どうぞ。


妹のような存在

ツァイスから脱出、変装しなおしてグランセルへと向かったアルシェムは、エルベ周遊道の外れに止めてあるメルカバの中にいた。

「…ヒーナ。」

「…ストレイ卿…久し振りね。」

そこにいたのは、黒髪のシスター。

シスター・ヒーナ・クヴィッテ。

見た目とは裏腹に優秀な星杯騎士である。

「そーだね。…報告を。」

「はい…執行者について、補足情報です。レン…ヘイワースについて。」

レンの…!?

「…!続けて。」

「レンは、借金取りに追われた際に共和国の知り合いに預けられたそうです。…身の安全の為に。」

それは。

じゃあ、あの子は。

「…成る程ね。ありがと、ヒーナ。…また、お願いがあるんだけど…」

「無茶しないって保証してくれるのなら良いわよ。」

「…しねーわよ…」

というか、したくてしているわけではない。

「なら、聞きますよ。」

「…多分、ねーと思うんだけど…とゆーか、したくねーんだけど…《鉄血宰相》って、身内いるの?」

「いえ、確か亡くしていたはずですが…」

…いない、か。

それでも、調べる価値はある。

「…いちおー、子供なりなんなり残ってねーか調べといて。」

「…外道になるつもりなの、エル?」

「…抑えられる情報がほしーだけだよ。」

まあ、最終的に外法認定できればそれで良いのだが。

アルシェムとしては、《鉄血宰相》を破滅させられるならどうだって良い。

「…分かった。調べてみるわ。」

「ありがと。」

「あ、そうだわ、エル。これ…」

差し出された手紙に、目を通す。

「…っ!成る程、ね。」

これは、レンの仕業だ。

《お茶会》でも開く気満々なのだろう。

「分かったの!?」

「多分レンだよ。」

「…成る程…」

「兎に角、出てくるよ。」

ちょっとばかし、釘を刺しにいかないと。

「…気を付けて。」

メルカバからエルベ周遊道へと降り立ち、気配を探る。

分かりにくかったが、それでもレンはそこにいた。

「…念入りだね、レン。」

声をかけても、振り返らない。

その状態のまま、レンが言った。

「…その前に言うことがあるんじゃないかしら、シエル?」

「…ごめんね、只今、レン。」

本当は、帰れないのだ。

そっちにはもう、戻らないと決めているから。

「シエル…心配、したんだから…!」

抱きついてくるレンを抱き留めて、謝る。

2つの意味を込めて。

「ごめん…本当に、ごめん…」

「…ヨシュアと一緒にいたのよね。今…ヨシュアは…」

「グランセルにはいないでしょうよ。知ってる訳じゃないし、確実でもないんだけど。」

まあ、気配がしないだけでどこかにはいるはずだが。

「…そう…やっぱり、エステルとかいうお姉さんをどうにかしないと帰ってこないのかしら。」

「いや…多分、ヨシュアは教授を消すまで帰っては来ないよ。…随分、丸くなって…エステルが、大切になったみたいだから。」

何せ、『僕のエステル』である。

エステルがヨシュアに惚れていなければ通報モノだ。

「あら…そうなの?じゃあそのお姉さんを消したら…」

「確実にレンはヨシュアに殺されるし、そうじゃなくても一生恨み続けるだろうね。それに、教授を消すのは多分ヨシュアの中で決定事項だし。」

「じゃあ、お姉さんを引き入れるのもダメね…むー…」

可愛らしく悩んでいるので、この際レンも執行者から外してしまおうかと考える。

レンにだって、幸せになる権利はあるはずなのだ。

人を殺したって、幸せになんてなれないのだから。

「…レンがヨシュアに近付くのはどう?」

「あら、シエルは教授のすることが見たくないの?」

「…何となく何をしでかすかは分かってるし、個人的には教授は嫌いだしね。どうでも良い。」

どうでも良くはないが、見ていたくはない。

「うふふ、正直ね。でも、良いの?こんな所でレンと話してて。」

「久し振りに会えたから、良いことにしようかな。あ、そうだ。レンの《パテル=マテル》は元気?」

「勿論よ。会っていくでしょう?」

「うん。」

エルベ周遊道の奥まった所へと向かうと、パテル=マテルがいた。

危ない危ない。

もう少しで鉢合わせするところだった。

「久し振り。…元気だったみたいだね?」

「当然じゃない。だって、レンの《パテル=マテル》よ?こーんな偽物さん達とは違うんだから。」

レンは、1組の夫婦を操って見せた。

人形の夫婦。

どことなく面影の似た…

これが、レンの本当の…

「…うわー…レン、趣味悪い…」

「あら、そうかしら?とっても分かり易いでしょう?」

「あー、うん。これなら確かに騙されて踊ってくれそうだ。」

本当に似ているし。

何があったって、どうせ人形は生きてはいないのだ。

「…レンのこと、止めないの?ブルブランもヴァルターも止めたのに…」

「止めてほしいの?」

悪趣味だから?

それとも、それがレンの傷だから?

冗談じゃない。

「どうして?楽しいお茶会なのに、止めちゃいたくないわ。」

「でしょ?だから、だよ。…わたしは、甘いから。」

レンなりに向き合うのなら、止めはしない。

「あんまり甘やかさなくたって良いのよ?レン、もう子供なんかじゃないもの。」

「別に誰かが傷付く訳じゃないし。…そろそろ、あの子達にはバカしか敵がいないわけじゃないんだって分かってもらわないとね。」

ちょっとおちょくりすぎたし。

「うふふ…やっぱり、甘いのね。そういうシエルの甘いとこが好きよ。」

「ありがと、レン。…あんまりイジメてあげないでね?」

「分かってるわ。壊れちゃったら意味ないものね。何より、楽しくないし。」

基準がそこなのがいかにもレンらしい。

「あはは…ん、じゃ、行くね、レン。」

「あら、もう行っちゃうの?折角だからお茶会に参加していかない?」

「わたしがいたら、邪魔になっちゃうからね。」

その気になればこの場で止められるし。

「そう…残念ね。でも、レンは偉い子だからシエルをこれ以上引き留めないわ。」

「ありがとう、レン。」

「またね、シエル。」

そして、アルシェムはヒーナに動かないように促し、グランセルから逃げ出した。




割と真剣な話でした。
さて、変態祭りは次回で最後のはずですよ。

では、また。

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