雪の軌跡   作:玻璃

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もうね、執行者じゃなくて変態で良いと思うの。

では、どうぞ。


HENTAI・イン・ツァイス

ルーアンから出たアルシェムは、動きのありそうなツァイスに向けて移動していた。

すると、いきなり地面が揺れた。

「…地震…?」

まあ、隧道内だが生き埋めにはならないだろう。

「震源はまー、真下か…いや、おかしーのか。」

何となく、人為的な気がした。

この場所は、七耀脈の真上。

その気になれば、理論上は行けたはずだ。

「七耀脈の真上だから…源は…あそこか。」

七耀脈を辿り、エルモへと向かう。

エルモから源泉へと向かうと、何故かいるはずのない気配がした。

「…うーわ、あんたか…」

何であんたなんだ、ヴァルター。

腹いせに弄り倒してやる。

「…ん?てめぇは…シエルか!」

「久しぶり、変態狼。」

「《痩せ狼》だ!誰が変態なんだよ!?」

あんたです。

「いや、ドSでドMな変態じゃねーの?」

「ちょっと表出ろやゴルァ。その変態紳士ばりの仮面叩き割ってやるよ…」

哀れ、ブルブラン。

変態狼にまで変態紳士呼ばわりされている。

「あ、アビスワーム。」

殺気につられてアビスワームが湧くが、別に気にはしていない。

「温い。」

「それはこっちのセリフ。…寸っ頸っ…!」

この間、3秒。

この3秒でアビスワームは全滅し、ヴァルターは吹き飛ばされた。

「ガッ…!?やるな…」

「ただの筋肉達磨には負けねーよ。」

「誰が筋肉達磨だ、誰が!?」

お前だよお前。

「ん?ヴァルターが?」

「挽き肉にしてやる…」

似合っていないグラサンを光らせる。

外したら実はつぶらな瞳をしているのだろうか。

まあ、今はそれよりもお客が来た。

エステルに、アガットにリオ。

って待て。

何でオリヴァルトにティータがいる。

危険すぎるだろうに。

「その前に。お客さんだよ。」

「…ほう?」

そこに駆け込んでくるエステル達。

「あ…」

「し、執行者…それに、こないだの…!」

「ハイ、久し振り。こっちの筋肉達磨はNo.Ⅷ《変態狼》ヴァルター。」

「だから筋肉達磨じゃねぇし、変態狼でもねえ!俺は《痩せ狼》だ!挽き肉にすっぞ!」

ヴァルターでは無理です。

「はいはい。」

「はいは一回!」

「な、何か力抜けるんですけど…」

「はわわっ…」

漫才しててごめんなさい。

「その内臓ぶちまけてやらぁ!」

「うーわ、大人げねー…頑張って、エステル・ブライト。」

丸投げしてみようとするが、まあ、無理だ。

もう1回湧いたアビスワームに苦戦している。

「てめぇは誰の味方だゴルァ!」

「わたしはわたし自身の味方だよ。甘い甘い。」

「だあああっ、相変わらずムカつく奴だぜ…!」

エステル達では、無茶。

「偽物の才能に負けるなんて、まだまだだね。変態狼。」

「だから、俺は《痩せ狼》だっ!?」

どの辺が痩せているんだろう。

あ、グラサンのふちか。

「飢えてるの?女に。」

「人聞きのわりぃこと言ってんじゃねぇ!?俺は…」

「キリカにゾッコン?」

「そう!…じゃなくて!何で知ってやがるんだよ!?」

ちょっと正直すぎやしませんかヴァルターさんや…

「何あのコント…」

「はうう~っ…」

ほら、エステル達も呆れているし。

それに…

《不動》が、来た。

「恋敵が来たみたいだよ。」

「恋敵だとっ!?」

「…やれやれ、一体何が起きてるんだ?」

「じ、ジンさん!?」

そこに、《空気》のジンが現れた。

「久し振りだな、エステル。…ヴァルターも。」

「え…知り合いなの!?」

「ああ、ちょいと昔のな…」

キリカを加えた三角関係な関係だ。

ヴァルターはキリカが好き。

キリカはジンが好き。

ジンは朴念仁。

「へーえ、《空気》のジン・ヴァセックか…」

「《不動》だから!」

「自分から名乗るなんて痛々しー…いー年したオッサン共が…」

恥ずかしいとは思わないのか。

「うっせぇ!」

「お黙り《変態狼》。」

「俺は《痩せ狼》だっ…!」

お黙り似た者同士。

「あの~、もしもし?」

「似たり寄ったりだね。」

「くっ…そ、それよりシエル、記憶は戻ったのか?」

何で話をそらすのにそれを使うかなあ。

「あからさますぎるよ…ま、いーけどね。わたしは、記憶喪失じゃなかったよ。」

「…何?」

「あんた達は騙されてたってこと。鈍いわー…」

この朴念仁どもが。

「記憶って…銀髪だし…もしかして…」

「エステル・ブライト。あなたの推測してる人物は今ここには『いない』よ。」

「え、でも…!」

今のアルシェムはエステルの知る『アルシェム・ブライト』ではない。

「エステル、落ち着いてよ。油断しないでって。」

どちらかといえば、『シエル・アストレイ』に近いのだ。

「ほう、面白ぇ…」

「キリカ呼ぶよ、変態。」

「狼ですらなくなった!?」

変態で十分だ。

「おちょくるのも大概にしろよ…?殺るぞ?」

「出来るの?」

お互いに、殺気をぶつけ合う。

アルシェムはヴァルターだけに向けていたが、ヴァルターは振りまいていた。

なんて無駄な。

「…っ!」

「ふええ~…」

「おいおい、周りを考えてやれよヴァルター…」

同感だけど、《不動》なジンに用はない。

「うるせぇ、ジン!」

「そーだよ、《空気》。」

「だから…」

「あー、違ったか。文字通り《不動》なジン・ヴァセック。」

「ぐ…」

前は、2つの意味を込めていた。

だが…

今回は、違う。

「あ、あんまりおちょくらないでよね!」

「《不動》だったお陰で、何人が死んだと思ってるの?情報はあったはず。」

「…!ま、まさかお前さんは…」

これだけで気づくなんて、後ろめたかったのか。

「ジンさん、後でご説明いただきますよ。アタシ、それについてもご下命を受けてるので。」

「そ、それは…」

「何で《飛燕紅児》を動かさなかったの?」

何故。

何故、皆を見殺しにした。

「あ、あれは居場所が分からなくてだな…」

「確実な情報がなければ動けなかった?あの情報では、不確かだった?」

「そ、それは…」

不確かなわけがない。

アルテリアにも情報があったはずだし。

動けなかったのは彼のせいでもないとわかってはいるけれど。

「…《不動》のジン。最後に1つだけ…教えておくよ。まだ、何も終わっちゃいねーのよ。」

そう、言いたくなって。

どうせもうヴァルターも今は動かないのだろうから、アルシェムはその場から姿を消した。

「ま、待て…!」

待つわけがなかろうに。

エルモから脱出し、変装を解いてラッセル家へと向かう。

進捗状況を聞いておかないとね。

「久し振り、博士。」

「アルシェムか…」

「あの無理難題、解決法は見つけた?」

ゴスペル。

アレは、正直誰の手にも余るだろうが。

それでも人が作ったものなのだ。

解析できないわけがない。

「うむ、糸口くらいはのう。しかしアルシェム、今お主は確か姿を眩ましてるはずじゃなかったかの?」

「ん…まーね。博士、急いだほーがいーよ。もー、止められねーのかも知れねーから。」

「…分かったぞい。」

止められなくても。

もしかしたら、ストッパーぐらいにはなれるのかもしれない。

「…じゃ、またね、博士。エステル達が来る前に消えるよ。」

「相変わらず、陰で動くのが得意なんじゃのう…」

「人聞きがわりーな、裏から支えてるんだよ。」

裏から支えても、何もできない気はするのだが。

そもそも、執行者を止める理由などないのだ。

 

《輝く環》を引きずり出すためには、どうしたってゴスペルの改造を終わらせなければならないのだから。

 

それでも、止めるのは。

ただのアルシェムのエゴだった。




ヴァルター好きな人、ごめんなさい。
でもね、イメージがこんな感じなんですよ?

では、また。

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