雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
そして、次の日。
「アル…本当に、行くのね?」
「とーぜん。恐らく、自由に動けて詳しく探れるのはわたしだけだから。」
「怪我だけはしないようにしなさいよ?」
一番危ない奴にそれを言われたくはない。
「…シェラさんにだけは言われたくねーよ。…覚悟しといたほーがいー。多分、執行者でリベールにきそーな奴の中にはあんたの知り合いがいるはずだから。」
「…あんた、一体…」
「元執行者の一般人だよ。じゃー。」
その場から、わざわざ隠形を使って消えて見せた。
そのままミストヴァルトへと向かう。
そこにあるのは、白い飛空艇。
七耀教会所属《メルカバ》肆号機。
アルシェム所有の、専用艇である。
そこに、アルシェムの部下が待っていた。
「…リオ。」
「お帰りなさい、エル!」
黒髪のシスター。
カシウスと共に、エレボニアに送り出した精鋭の星杯騎士だ。
「帝国はどーだった?」
「いやー…やっぱ、《道化師》だった。後、何故か《死線》がいたよ…」
カンパネルラが。
それに、クルーガーまで…
「…!ちょっと荷が重かったかー。メルかヒーナから連絡は?」
色々と…
面倒なことになりそうだ。
「ヒーナから。久し振りに任務があるんだってさ。」
「へー…どれどれ…っ!?」
…ふざけているのか。
とでも言いたくなるような文面がそこには表示されていた。
「どうかしたの?エル。」
「《輝く環》の確保って。無茶言うなー…回線繋いで。」
「はい。」
リオは、即座に彼女と通信をつないだ。
『どうした?アルシェム。珍しいな。』
通信機から聞こえるアイン・セルナートの声。
「久し振り、アイン。ちょっとアレなほーこくがあるんだけど…」
『勿体ぶるな。一体何だ?』
「こないだレグナート…リベールの聖獣に会ってさ、何かわたしが《輝く環》がどっかから連れてきた子供だってほざいてたんだけど。」
さしものアインも、絶句してしまっていた。
この人、本当に『カーネリア』の主人公か?
『…は?…済まん、何だって?』
「わたし、何か人間じゃねーっぽいんだけど?」
「…えええ!?」
『それはまた…』
そこまで驚くことでもないだろうに。
父と思しき人も、母と思しき人も見つからないなら…
異常な生まれ方をしたモノに違いないだろうから。
「因みに…ハーメルに捨てたのは《白面》だし、ハーメルを襲わせたのも《白面》らしーよ?」
『つまりは、《結社》の連中はそんな昔から存在していたということか…』
「…で、アイン。今からわたし、遊撃士じゃなくて元執行者の一般人として動くからね。」
それが一番面倒じゃない。
『…また厄介な事を引き起こしそうだな…ああ、そうだ。この際、アルテリアからリベールに借りを作るのも良いな。』
「…ふけーほーがいーかな?」
『出来ればな。』
…なら、借りを作ってやる。
あのバカを更生させるにも丁度良いだろうし。
「なら、ヒーナでどー?エレボニアに対するきょーりょくな切り札だけど。」
『…成る程。…エル、お前何か企んでいるな?』
「上手くいった暁には、執行者を2人は減らせるよ。」
ヨシュアにレオン兄。
ヒーナならば、この2人を釣れる。
『…分かった。とりあえずお前は各地の状況を探れ。』
「あいまむ。」
通信が切れると同時に、アルシェムはリオに向き直った。
「じゃ、リオは本格的に星杯騎士として動いてね。」
「え、アタシが?何すれば良いの?」
「取り敢えず、次はメルカバ伍号機と通信繋いでー。」
「あ、はい。」
リオはもう切り札たり得ない。
だから、せいぜい派手に使わせてもらおう。
『何や…ストレイ卿か。』
「や、ネギ神父。さっきぶり。」
相変わらずのヘタレっぷりを発揮しているようで何より。
『…やっぱりアレはストレイ卿やったんか…で、何や?』
「ワイスマンの外法狩りに、派手に動ける駒いらねー?」
『隠れ蓑ってことやな?いや…多分、俺だけで誤魔化しきれるんちゃうかな。』
無茶だろ。
せめて、最後まで隠し切るための囮になってもらわないと。
「腕力的な意味で、リオ・オフティシアを付ける気だったんだけど…いら…」
『貸して!ぶっちゃけ手数が足りひんねん!』
本音と建前をうまく使い分けろよ…
「名目としては、結社対策に教会から派遣した騎士でどー?」
『…つまり、あのエステルちゃん達に付けるってことやな?どんだけ甘ちゃんやねん、ストレイ卿は!』
「いや、だとーな判断になるはずだよ。良くも悪くも、エステル達は結社に目を付けられてる。ギルドでも結社対策に乗り出すはずだし…」
リベールに関係しそうな執行者だけでもかなりいる。
まずはルシオラ。
シェラザードがいる限りは来るだろう。
変態仮面も…
あ、違った、変態紳士もクローディアがいる限りは出てくるだろう。
レオン兄は当然として。
もしかしたら…
レンも、来てしまうかもしれない。
『…分かった。お互いは知らん振りでかまへんな?』
「そーね。…従騎士なり何なり、増やしなよ、ネギ?身がもたねーよ?」
『分かっとるわ…』
ネギに突っ込みを入れないのは珍しい。
まあ、それだけ身にしみてはいるということか。
「んじゃ、オーバー。」
通信を切り、リオに説明を始める。
「と、いうわけ。教会にしんせー出して、ギルドに協力ね。わたしとネギのことは知らねー振りして。ま、カシウスになら、話してもいーけど。」
「じゃ、じゃあエルは…?」
「言ったでしょー?元執行者の一般人として動くって。」
変装して、誰だかわからないように。
「…分かった。気をつけてね?エル…」
「とーぜん。」
そして、アルシェムは残しておいた長髪のヘアピースを被り。
顔に、変態紳士ばりの仮面をつけて。
その手に槍を携え。
レンにもらったブラウスとスカートに履き替えて、その場から旅立った。
後悔はしてない。
では、予約投稿はじめマース。