雪の軌跡 作:玻璃
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では、どうぞ。
城へと戻った後、アルシェムはエステル達と別れて女王宮にいた。
「あら…アルさん?どうかなさったんですか?」
危険人物を普通に招き入れるクローディア。
大丈夫だろうか。
「お話が、あります。…陛下にも、聞いて頂きたいんですが。」
「…ええ、聞きましょう。…良い機会ですから、クローディアも聞いておきなさい。」
「はい、おばあ様。」
丁度、ヨシュアもエステルと話しているころだろう。
陛下が紅茶を注いでくださり、その紅茶を一口口にするふりをして…
アルシェムは、語り始めた。
シエル・アストレイという少女の話を。
「…陛下。わたしは、かつて家族を事故で亡くしたと言いましたね。…それは、半分嘘です。」
「嘘…?」
「…わたしには、本来家族なんてモノはなかった。あの時亡くしたのは、拾ってくれた人。そして…失ったのは、事故でではありません。」
「まさか…貴女は、自らの手で…?」
失礼な。
そこまで鬼畜ではない…
つもりだ。
本当の親が『誰』なのかは分からないけど。
殺しては、いないはずだった。
「いいえ。ですが、誰も守れなかったのは確かです。…《ハーメルの首狩り》はわたしです、陛下。」
「…予測はしていました。けれど…不可解なことがあります。《ハーメルの首狩り》はハーメルを全壊させたはず…なのに、貴女は守れなかったと仰いました。」
ハーメルを全壊させたのは、シエルではない。
「あの日…わたしが、もっとしつこく襲われるのだと主張していたなら。わたしに、もっと力があったなら。皆は生きていたかも知れないのに?」
「…!それは…前兆はあったということですか?」
「ええ、殿下。そして、それが信じられることはありませんでした。」
誰も、信じてくれはしなかった。
「それは…」
「そして、追放されたわたしに出来たのは、大切な人達を護りに突入して、護れなくて…それで、猟兵を皆殺しにすることだけでした。」
「では…生き残っている人は、いないと…?」
「…ヨシュア・アストレイ。」
それが、生き残った人物の1人。
「え…それって…」
「他、数名が生きていることが分かりました。けれど…結局、わたしが私怨で滅ぼしたのだと言えるかも知れない人間しか生き残らなかったんです。」
シエルの、義兄。
「ヨシュアさんは近くにいらっしゃるでしょうが…他の方々は一体、どこに…?」
「…会いたいですか?」
「ええ。本来ならば国を代表して、謝らなくてはならない立場ですから。」
会わせるわけにはいかない人物もいる。
「…1人は、七耀教会に。もう1人は…陛下なら、分かっていらっしゃるでしょう。」
「…ベルガー少尉、ですね…?」
「はい。」
彼は、シエルのもう1人の兄だった。
そのことを忘れきっているようだが。
「彼は、今逃亡しているようですが…」
「そう遠くない内に、敵として現れるでしょうよ。」
「え…?」
「彼らは、《輝く環》を手に入れるつもりでしょうからね。」
何をする気なのかは知らないが。
そこで、アルシェムは気づいた。
エステルの気配が、弱くなっていることに。
「で、でも…《輝く環》は、見つからなかったんじゃ…」
「…その話、後にしていーですか?何処ぞの大バカ野郎に、言っとかなくちゃいけねーこと、思い出しちゃいました。」
「え、ええ…」
「じゃ、また後で。」
外へと出て、ヨシュアの気配を探る。
「さよなら、僕のエステル。」
「…うっわー、天然タラシめ。」
何が『僕のエステル』か。
ただのヤンデレさんじゃないか。
「…シエル。」
「アルでいーよ。それが、本名みてーだから。」
「…アル…邪魔しに来たのかい?」
「いや。行くなら行きゃーいーじゃねーの?」
するわけがない。
もう、止められないのが分かっているのに、止めるバカがいるか?
「じゃあ、一体…」
「まだ身分的には遊撃士なんだから、法は出来る限り犯さないでよ?後、無茶はしないこと。…わたしは、執行者を追うから。」
「…分かった。」
「その時は、きっとシエルで会うことになるんじゃないかな。」
変装して、リベールを駆け回る。
「それは、執行者に戻るってことかい…?」
「いや。執行者の格好で、執行者達を狩る。」
「…そうか。じゃあ、僕は行くよ。…エステルのこと、頼んだからね。」
そういって、ヨシュアは消えた。
「…言い逃げか…バカじゃねーの?…護るとは、限らねーじゃねーの。」
アルシェムの言葉だけを残して。
眠らされたエステルをカシウスの部屋に運ぶ。
「…アルシェムか…」
「…カシウスさん。」
「ヨシュアは行ったのか?」
「…はい。まー、止めませんでしたがね。」
正確には、『止められなかった』のだが。
「…そうか。アルシェム…お前は、どうするんだ?」
「…カシウスさん。リオは…役に立ちましたか?」
「…ああ。彼女がいてくれたお陰で制圧が早かった。」
「…それは良かった。」
リオは、確かに役に立ってくれたようだ。
後で報告を聞かないと。
「…まさか、お前…」
「…わたしは、執行者達を追います。」
「それは…星杯騎士として、か?」
そんなわけあるか。
「いえ。元執行者の一般人として。…エステルには危険すぎますし…追わせないで下さいね。」
「…保証は出来ん。」
まあ、そうだろう。
あの暴走娘が、暴れださないわけがない。
「…そーですか。貴男が軍に縛られた以上、見張る意味もありません。リベールの異変をいち早く察知する術は失われた…」
「俺はそんなに大層な者じゃない。」
「…けれど、それが上の考えでしたから。…暫くは、レイストン要塞に詰めるんでしょう。必ず異変は起こる…だから、気をつけて下さい。」
「…ああ、分かった。」
忠告だけを残して。
「…陛下と殿下をお待たせしてるから、行きます。」
「呉々も、粗相の無いようにな。」
「はい。」
アルシェムは、女王宮へと戻った。
「アルさん…何かあったんですか?」
「ヨシュアがキレてぶっ飛んでったんですよ。」
「えっ…」
「まー、どーしょーもねーことです。お気になさらず。」
この言葉だけで、話を濁してしまって。
「ヨシュアさんは…エステルさんのこと、どうするつもりなんですか…?」
「知るわけねーでしょーに。…あー、そーだ。シュバルツ中尉なんですが。」
「ユリアさんが、どうかしましたか?」
気になることがあった。
大聖堂で。
何故、『彼女』に声をかけていたのか。
「何でシスターに声をかけてたのかな、と。」
「後で聞いてみますけど…どうして気になるんですか?」
気づかれていたわけじゃない。
だけど…
用心は必要か。
「偶然か…あの人を誘っても無駄だって伝えて貰えません?」
「無駄…?確か、ユリアは親衛隊の欠員を探していたはずですが…」
「よりにもよって、彼女に目を着けるなんて…ある意味、幸運なんですが。兎に角、彼女だけは赦しません。」
「それは…貴女の庇護の内だから、ですか?」
…そこは、カシウスから話がいっているということか。
「さー、何のことやら。…さて。そろそろ…動き始めましょうかね。…夜遅くまで、済みませんでした。」
与えられた部屋へと戻り、ベッドに倒れこむ。
「…はー…なーんだかなー…」
そう、呟いて。
アルシェムは、眠った。
「…あ、《輝く環》の話、し忘れた。」
それに気づいたけれど。
それでも、誤魔化し切れるのならば、誤魔化しておきたかった。
はい、というわけで、SCではエステルと別行動をとります。
遊撃士ではありませんから、独自に動ける駒として動ける。
そして、新しくはないけれど。
エステルのパーティーにオリキャラが混じります。
ケビンはかませ犬です。
ケビンはかませ犬です。
大事なことなので、二度言いました。
シリアス調でなく、若干コメディっぽくなりました。
何故に。
では、また。