雪の軌跡 作:玻璃
何というか、暴露回ですね。
では、どうぞ。
エステルは眠った…
だが、それ以外の人間は目を醒ましていた。
家の外でカシウスは晩酌を楽しんでいた。
「父さん。」
「ヨシュアか。」
アルシェムは気配を消してテラスに潜んでいた。
ここが一番聞きやすいからだ。
屋根裏部屋でもよかったが、きちんと聞いておきたかった。
「あんまり飲み過ぎるとまたエステルに叱られるよ?」
「旅立ち前の景気付けさ。どうだ、付き合わんか?」
「未成年に酒を勧めないでよ…シェラさんじゃないんだから。」
…シェラザードは酒を未成年に勧めてくるのか…
気をつけよう。
「はは…」
「…かなりの事件みたいだね?」
「まだ確証はないが…帝国の方で動きがあるらしい。」
「エレボニアで…キナ臭いね、それは。」
エレボニアを疑いすぎだろう。
エレボニアにも質実剛健で深謀遠慮なぞしない残念な人がいるのだから。
放蕩皇子とか。
「目立った動きではないが…それが却って気にかかる。まずは帝国大使館に探りを入れてみるつもりだ。」
「分かった、エステルのことは任せてよ。」
「あまり甘やかすんじゃないぞ?遊撃士になった以上は自分の面倒くらいは見られないとな。」
「エステルなら大丈夫だよ。天性のカンを持ってるし、荒削りだけど武術も天才的だ。きっと一流の遊撃士になれる。」
底なしの体力もあるしね…
「今は、世間知らずのヒヨっ子さ。いずれ自らの意志で進むべき道を選ばなければならん。…ヨシュア、それはお前にも言えることだ。…もう5年になるか…正直、あっという間だったな。」
「うん…本当に。」
…!
ヨシュアが、ここに来た時の話…!
「あの時の言葉…まだ撤回するつもりはないか?」
「…僕にとって最後の一線だから。それすら守れなかったら…僕は…自分が許せなくなるから。だから…ゴメンなさい。」
どんな言葉だったのか、それが気になる。
しかし、それを聞くことは叶わないだろう。
「…謝る必要はない。だがな、これだけは覚えておけ。お前がどんな道を選ぼうがこの5年間を消すことは出来ん。俺もエステルも、アルシェムもお前の家族だ。どんなことがあろうとな。」
「…うん…ありがとう…父さん…おやすみ。」
「…ああ。」
ヨシュアが家の中に入った。
「…良い機会だから、そろそろお前の目的を教えてくれないか、アルシェム。」
ビクッとした。
バレていたのか…
アルシェムはテラスから飛び降り、カシウスの隣に立った。
「…いつから、バレてたの?」
「最近だ。…お前は、何のために俺に近づいたんだ?」
「…何のため、か…少なくとも、カシウスさんを害する気はねーよ。」
というか、出来ない。
それに、万が一にも死なせるわけにはいかない。
「1つちゅーこくしとくよ。…エレボニア、行くのは止めた方がいー。」
「何故だ?」
「…軍の中に蛇がいる。リベール自体がきなくせーの。いなくなったら絶対に何か起こる。」
リベール内の抑止力としてカシウスには備えていて欲しい。
「…だが、エレボニアもかなりキナ臭い。」
…それも、分かっている。
「…これは、蛇の罠かも知れねー。リベールで…何かを起こすための。」
その何かさえ分かれば、対処できるのに。
「…ふむ…だが、放置も出来ないな。…出来るだけ早く帰ってこよう。その間、何とかもたせてくれ。」
「…ギリギリだと思うけどね。」
「…で、そこの人はどうする?」
…!
「…何でバレるんだろ…アタシ、どうすべきかな?アルシェム。」
「そこは誤魔化してよ、リオ…」
彼女は…
今朝、メルとともに歩いていたシスターだ。
「…まさか星杯騎士とはな…」
身元が割れてしまった。
そう、アルシェムは星杯騎士だ。
だが、それ以上をバラすわけにはいかない。
これは一応隠密行動で、誰にも知られてはいけないのだ。
アルシェムが、星杯騎士団の第二の切り札であることは。
「仕方ねー。従騎士リオ、ブライト卿に協力しエレボニアに赴きなさい。暫くはブライト卿に従うこと。以上。」
「御意。」
アルシェムの言葉にリオが跪く。
「見張りのつもりか?」
「まさか。もし蛇がいたらとっ捕まえてきてもらわねーとね。」
捕まえられるものなら、だが。
「ほう、期待しているぞ?」
「が、頑張ります…」
これで自由に動かせる駒が半分消えたことになる。
…仕方ない、メルを異動させてもらうか…
「…しかし、まさかとは思うが、洗脳でもされてるんじゃないだろうな?」
「七耀教会に?まさか。…これは、自分の意志だよ。どっかの記憶を奪う鬼畜やろーなんかじゃあるまいし。」
《白面》ワイスマン。
顔だけが思い出せない、アルシェムの敵。
「いつ記憶を取り戻した?」
「最初から全部は失っちゃいねー。ただ…まだ、思い出せねー名前が多くて…」
《白面》の影響で、アルシェムは他人の名前をすべて失った。
その人が誰で、どんな人だったかまでは分かる。
なのに、名前だけが出てこないのだ。
「名前だと?」
「そー。思い出せねーのは名前だけで、他は覚えてる。ちゃんとね。だから蛇の中にいる奴の顔も分かるし、どんな戦い方をするのかも分かる。」
会ったことのある人だけだが。
「ほう…軍にいるのはどんな奴だ?」
「アッシュブロンドの修羅に堕ちた剣士。…わたしの、大切な人の内の1人。」
「…そうか。」
「彼を止められる人はもういねーよ。1人は故人で、もう1人は壊されてる。わたしには…無理だから…」
1人は、あの時に死んだ。
もう1人は…
もう、元の彼ではない。
《白面》に殺人鬼として再構成された彼は、今でも恐らく潜入工作をしている。
奴が自分の作品を手放す訳がないのだ。
「壊されてる、だと…?」
「…それは、もういーじゃねーの。取り敢えず、帰ってくるまでは保たせてみせる。」
「…そうしてくれ。」
「…もう1つ忠告。…ヨシュアに、気を付けて。ヨシュアは…まだ《白面》の影響下にある可能性がある。」
カシウスは顔を引き締めた。
「…何故そう思う?」
「…最初のヨシュアと、今のヨシュアは中身が…いや、精神がほんの少しちげー。そんなことが出来るのは、《白面》だけ。…《白面》は自分の作品を手放すような奴じゃない。」
「…成程。分かった。…リベールのことは任せたぞ、アルシェム。」
大きく任されてしまった…
「出来るだけのことはするよ。だから、リオのことは任せた。」
「ああ。くれぐれも無茶だけはするなよ。…お前も、家族だからな。」
「…おやすみなさい。リオも、気を付けて。」
「はい。」
テラスに飛び上がり、屋根裏部屋に戻る。
色々とこらえていた何かが溢れ出しそうだった。
それほどまでに、アルシェムにとって家族という言葉は重い。
「…家族なんて…もう、いねー…っ!そんなの…っ!…いねー、んだもん…!」
アルシェムの家族は、もう10年も前に死んだのだ。
姉と、5日違いの兄。
姉の愛する幼なじみ。
それだけが、アルシェムの家族。
それさえも、ニセモノの家族。
アルシェムには、本当の父と母という存在はいなかった。
というわけで、リオ嬢の情報をば。
name
リオ・オフティシア
アルテリア出身のシスター。
見た目によらず怪力。
頭脳を使うよりも肉弾戦を挑むほうが得意。
大剣型の法剣を使う。
craft
インフィニティ・ホーク:インフィニティスパローの強化版。封技20%、大円。
ホーリーブレス(弱):ホーリーブレスの劣化版。
猪突猛進:ATK50%上昇、回避率ランダム減少
S-craft
セレスティ・ホーク:法術の力で天高く舞い上がり、あらかじめ法術で固定していた敵たちに向かって大剣の法剣を叩きつける。
メルさんよりはチートじゃない人。
既に歴史は変わっています。
だけど、それを知っているのは一握りだけ。
ソレを知るのはいつになることやら。
では、また次話で。
ストーリー上のクエストはエステルたちがやりますが、それ以外はほぼアルシェムが片づける予定です。