雪の軌跡   作:玻璃

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さて、FCの終盤です。
と言うか、事後処理ですね。

では、どうぞ。


『ブライト』では、もう。

リシャールが捕縛されて、3日後。

グランセル王城の客室で、カシウスとアルシェムは向かい合っていた。

「…カシウスさん。」

「…アルシェムか…話があるんだったな?」

そう。

とても、大切な話。

「…罪を…償うには、どうしたら良いかな。」

「…殿下と、エステルから聞いた…お前が、《ハーメルの首狩り》と名乗ったこともな。お前が…《ハーメル》を滅ぼしたのか?」

アルシェムは、深呼吸して言った。

信じてもらえないと、覚悟して。

「…あの日…猟兵崩れが、ハーメルを襲った。わたしは、そいつらを殺したかったから殺した。ただ、それだけの話。」

そして。

「…そうか。」

あっさりと、信じられたことに驚愕した。

だから…

「…信じるの?…わたし…皆に伝えて回ったんだよ?だけど、わたしが捨て子で余所者だから、信じて貰えなかったのに?」

誰にも言ったことがないことを、口走ってしまった。

「可愛い義娘の言うことを信じない訳にはいかないな。」

その、答えに。

動揺してしまって。

縋るように、カシウスに聞いてしまった。

「…カリン姉だって…レオン兄だって…ヨシュアだって、信じてくれなかったのに?」

「ヨシュアだと…!?」

それで、気づいた。

言ってはいけないことを言ってしまったことに。

だけど。

ここまで言ってしまっては、もう隠せない。

「…ヨシュア・アストレイ。ハーメルの生き残り。…わたしの、最初の家族。今は…もう、忘れきってるけどね…」

「…そうか…」

カシウスは、複雑な顔をしていた。

情報を整理しているのか…

それとも。

「…また、蛇が接触してくる。エステルを危険には晒したくないの…だから…」

「…アルシェム…」

「わたしは、アルシェム・シエルに戻るよ。」

本当の名前。

知っているはずのない、名前。

だけど、それは本当にアルシェムの名前なのだと…

もう、分かっていた。

「…エステルに殴られそうだな…」

「…もう、戻らない…戻れない。だけど、蛇に戻るつもりもないの。」

「やはり、蛇か…」

苦虫を噛み潰したかのような顔で、カシウスが呻いた。

「…戸籍から、抜いておいて。」

「…分かった。だがな、アルシェム。何があろうと…お前は、俺の家族だ。」

「…ありがとう。」

だけど。

アルシェムは、最初からカシウスの家族になったつもりはなかった。

エステルとも。

だから、エステルを姉さんなんて呼ばなかったし、カシウスを父さんなんて呼ばなかった。

エステルに関しては確実にアルシェムの方が年上だったというのもあったが。

「これから、どうするつもりだ?」

「蛇を追うよ。…出来る限り、潰す。」

それが、本業ともつながる。

「遊撃士資格はどうする?」

それは…

「返上するつもりだけど…」

「…そうか。有望株が抜けるとなると、抜けにくいな…」

「繋がれぬ英雄を警戒するモノが沢山いるのに、わざわざ繋がれるの?」

馬鹿じゃないか。

だけど、カシウスも苦渋の決断だったようで、

「仕方がないだろう。軍にも立て直しが必要だ。」

と苦々しい顔で言った。

「…そ。」

「ああ、女王生誕祭まではエステルに付いていてくれないか?」

「…ヨシュアに、《白面》が接触するかも知れないから?」

一番有り得そうな可能性。

このタイミングなら、《白面》は…

最終的に、《白面》のもとに行くしかなくなる選択肢を示しに行くのだろうから。

「…有り得そうだな…」

「気をつけておく。…じゃー。」

そして、アルシェムは与えられた客室に帰っていった。

それから、4日後…

遊撃士協会(ギルド)にてエステル達の昇格、カシウスとアルシェムの脱会が伝えられたそのあと。

「…本当に、やめちゃうの?」

残念そうな顔で、焦りながら聞いてくるエステル。

「そんなに意外?…やらなくちゃならねーことが出来たの。だから…ごめん。」

「勿体ないじゃない。ここまで来たのに…」

ここまで来たから、だ。

遊撃士資格は、返上しなくてはならない。

「…それと…わたし…エステルの家族ではいられねーから。だから…」

「え…あはは、何の冗談?それ…」

虚ろに笑って、エステルがアルシェムを伺う。

だけど。

「…ごめん、じょーだんじゃねー。」

「…本当に…どっか行っちゃうつもりなの…?」

涙目になって、エステルはアルシェムを引き留めにかかる。

「…うん。でも…会えねーわけじゃねー。関わりがなくなるわけでもねー。エステル達とわたしの縁は…きっと、続くから。だから、泣かねーでほしー。」

期待を持たせるだけ持たせて。

会うつもりもないのに。

「ちょっとくらい良いでしょ…」

「あ、そーだ、エステル…頼みがあるんだけど。」

「あによ…」

グスッ、と、涙声で返してくる。

「いつか…わたしが、何かやらかしたら…遠慮なくぶん殴ってほしい。」

それが、エステルであったら。

正気に戻れる気がした。

たとえ、《白面》が…

「…当たり前でしょ…お姉さんだもん…」

「…エステル、わたしやっぱりエステルより8ヶ月程お姉さんだったよ。」

「ブライト歴はヨシュアよりも短いでしょ!」

何だブライト歴って。

「何ブライト歴って…まー、いーや。女王生誕祭が終わるまではいるから。」

「うん…分かったわ。会えなくなるわけじゃないもんね!いっぱい思い出作らなきゃ!」

「…それでこそエステルだね。」

そうして、女王生誕祭を迎えた。




いつまで連日投稿が続くかって?
それはね、本人にもわからないの。

では、また。

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