雪の軌跡 作:玻璃
まんまですよ。
では、どうぞ。
トロイメライの爆砕に巻き込まれたアルシェムは、カシウスに受け止められた。
「いった!?あー、もー…おせーよ、カシウスさんっ!」
「お前が早いの。全く…皆、ご苦労だったな。只今、エステル、ヨシュア。随分久しぶりだな。」
カシウスから離れ、少しだけ距離をとる。
「と、と、と…父さんっ!?」
「まだまだ詰めは甘いが、まあ修行の成果は出たようだな。今回はまあ、及第だ。」
まあって。
確かに成長はした気がするが、それだけだ。
「及第じゃないわよ!何でこんなとこにいるの!?」
「何でって言われても…成り行き?」
「…それは納得出来るりゆーにはなんねーでしょーに。」
相変わらず、ガキっぽい。
本当に45なのかと疑う時がある。
「はは…父さんも相変わらずだね。」
「ほう、お前もちょっとは成長したようだな。エステルのお守りは大変だったろ?」
「どういう意味よ!?」
言葉のままの意味です。
「まあ、それなりにね。でも、僕もエステルに助けられたから、おあいこかな。」
訂正してやれよ。
「そうか…良い旅をしてきたみたいだな。」
そこで、話が一段落したとみたのか、オリヴァルトがカシウスに話しかけた。
「…初めまして、カシウス・ブライト殿。ボクの名前はオリビエ。帝国出身の演奏家ですよ。」
「ほう、君が…娘達に協力してくれて感謝する。…一段落したら、話を聞かせて貰おう。」
「…宜しく頼むよ。」
どうやら、カシウスには彼が『誰』なのか分かったようだ。
流石カシウス。
「やあ、旦那。随分遅いお帰りですな。待ちくたびれちまいましたよ。」
「済まないな。来て貰うのは流石に申し訳なかったが…どうも、胸騒ぎがしてね。」
胸騒ぎだけで《不動》を動かせる貴方が凄いです。
「いやいや、気にせんで下さい。積もりに積もった借りを返す機会を逃せませんからな。それに…有望株も見られたし、楽しませて貰いましたよ。」
「そうか…」
もう、良いだろう。
アルシェムは…
「…ね、カシウスさん。」
「何だ、アルシェム?」
「…後で、大切な話がある。」
ここにいるには、ふさわしくない。
「…分かった。…急がなくても良いか?」
「…ふざけてる?」
急ぎだっつってんだろーが。
「いやいや…分かったよ。」
そういうカシウスから目をそらすと、博士が見えたので呼ぶ。
「…博士、こっち!」
「カシウス!お前さんは…!人形の群れを擦り付けて行きおって…!」
何てことしてるんだ。
「はは…済みませんね。まあ、これで一件落着でしょう。」
そう言ったカシウス達を尻目に、リシャールはぽつりと呟いた。
「…やはり、奇跡を起こせるのは女神と彼女に愛された英雄だけらしい。私がしたことでは、奇跡には到底届かなかった…」
「…その、ね。大佐。あの《至宝》ってやつは、確かに奇跡だと思う。けどね…父さんだって、一人じゃ何にも出来ない不良中年だし。」
「エステル…」
不良中年はないだろう。
せめてスーパーチート親父とかで。
「でも、戦争の時だって、今だって、父さんが1人でやった訳じゃないでしょ?リシャール大佐だって、その1人だったのよね?…皆がお互いを支え合ったから、解決した。違う?」
「それは…」
ああ、綺麗事が聞こえる。
だけど、それも1つの真実だ。
「でも…それは、奇跡でも何でもなくて…あたし達の可能性なんじゃないかな。だからね、大佐…可能性は、いくらだって広がると思うの。」
「…不良中年は抜きにして…まあ、概ねその通りだな。」
「それでも、あなたは確かに英雄だ…あなたさえ軍に残ってくれていたら…!」
リシャールは、カシウスに殴られた。
本気で切れているわけではない。
「ぐっ…」
「甘ったれるな、リシャール!貴様の間違いはいつまでも俺という幻想を追い続けたことだ!俺はお前がいたからこそ、軍をやめられたのだぞ!?何故自分の足で立たなかった!」
「カシウス、さん…」
追い続けたくもなる。
カシウスは、それだけの輝きを持っているから。
「俺は…お前に買われるほど大層な人間ではない。あの時だって、皆がいたから勝てて…大切なものを守れずに現実逃避しただけの男だ。」
「…父さん…」
「だがな…もう、俺は逃げない。だからリシャール。お前も逃げるな。罪を償いながら、自分に何が足りなかったかを考えろ。」
だけど、もう追えない。
リシャールは捕縛されてしまったから。
追って、追って、追い切れなくて…
ついには、それを逃してしまった。
もっとも逃してはならないやり方で。
チート親父にも、抜け出せないものがあったんですよ。
大切なものからは、逃げられない。
だから、相手の思うつぼだとわかっていても。
カシウスは、とどまることを選んだのだ。
だそうです。
では、また。