雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
その場で暫く待っていると、エステル達が現れた。
意外と早い登場だ。
「…やはり来たか。来るのなら君達ではないかと思っていたよ。」
格好つけすぎである。
逆に気持ち悪い。
「リシャール大佐…」
「まだ、ゴスペルは稼働させていないようですね。今なら、まだ間に合います。」
「ふふ、それは出来んよ。」
これ以上みていると腹筋が崩壊しそうだったので、隠形を解かないままゴスペルに近づく。
「…なら、それをひてーしよっかな。」
「何!?」
声を発したことで、隠形が切れた。
ゴスペルを手に取り、もてあそぶ。
「ゴスペルってゆーんだ、これ。」
「あ、あ、あ、アルっ!?」
そんな幽霊を見たような顔で見るのはやめてほしい。
一応生きてはいたのだから。
「リシャール大佐。《輝く環》は、兵器じゃねーよ。」
「…惑わそうとしても無駄だよ、アルシェム君。カノーネ君の拷問で頭のネジが外れたのかね?」
「拷問…!?」
エステルが凄い顔をして凝視してくるが、今はそれどころではないだろう。
それに、螺子は外れたわけじゃない。
巻きなおされたようなものだ。
「しっけーな。わたしはただ事実を述べているに過ぎねー。」
「ならばこの規模は何だ!?この厳重さは何だ!?」
「…その妄想を植え付けた奴は、そーとーだね。やっぱりアイツか…」
《白面》。
アルシェムの、敵。
「妄想だと!?この光景は…」
「でも、見るまで分からなかった。まさか、此処にはないなんてね。」
見ただけで分かった。
ここは、あそことは違う。
懐かしいけれど、『違う』。
「何…!?」
「無いって…どういうこと!?」
「あるのは…あそこかー。馬鹿げてるよねー、全く。奴の掌の上で踊る愚かな道化人形。自意識過剰なお馬鹿さん。もう、既に取り返しがつかないところまで来てしまった。…早く、終わらせよう?」
昏き闇の狭間。
それが示すのは地下じゃない。
それは…
「アルシェム君…」
そこで、気づいてしまった。
もう、手遅れなのだということに。
「まだ、猶予はあると思っていた。だけど…そんなの、最初から無かった。これまでも、これからもずっと奴の掌の上。ほら…わたしの行為は、無駄になったよ。」
声が、響く。
「…警告します…全要員に警告します…」
「な…」
警告音声が、響く。
全てを無駄にした、無慈悲な声が。
「《オーリオール》封印機構における第一結界の消滅を確認…封印区画、最深部において《ゴスペル》の使用があったものと推測…《デバイスタワー》の起動を確認…」
「な、何よこれ!?」
「…ほらね。封印は解かれてしまった。」
声は続く。
そして…
「《環》からの干渉波発生…《環の守護者》の封印解除を確認…全要員は、可及的速やかに封印区画から撤退してください…」
そして、《環の守護者》こと、トロイメライが扉の向こうから現れた。
「な、何このブサイクなの…」
ブサイクって。
これでも格好良く作られたほうらしいが。
「これも古代文明のアーティファクトか…!」
「油断するな!こいつら…尋常じゃあないぞ!」
そんなことを話している内に、出来ることがあるだろうが。
やはり、彼は《不動》だ。
「ゲート固定…ど。」
これ以上言わせない。
アルシェムは、剣を抜いて斬りかかっていた。
「うるせーのよ。」
「うわ、えげつなー…」
えげつなくはない。
早く終わらせたかった。
だから…
「邪魔。わたしの邪魔。消えて。」
アルシェムが駆け出すと同時に、エステル達も駆け出していた。
浴びせられる連撃と、アーツの嵐。
だけど、トロイメライは倒れない。
導力砲のようなパーツを壊しても。
「…まだ動くの?鬱陶しい。」
早く終わらせたいのに。
「モード変更…」
「させると思う?」
させるわけがない。
合体しようとしていた赤と青の機械を破壊する。
「おい、アルシェム!」
「無茶だ、アルシェム君!」
無茶?
それがどうした。
制止?
聞くものか。
「…何も知らないくせに。わたしは、たった1人ででも駆け抜ける。それが、全てを失う道であってもね。」
それからまた、ひたすらにトロイメライをぶっ叩く作業が始まった。
剣では効果がなさそうなので棒術具に取り換えて、叩きまくる。
壊れた機械は叩くと治る、というが、一向に止まる様子はない。
機械の心臓部をたたけばすぐなのだろうが、流石に深い。
全員のEPが切れたころ…
漸く、トロイメライは沈黙したように見えた。
皆、疲れ切って膝をついていた。
「はあはあ…な、何とかなった…?」
「う、うん…」
だが、倒し切れていないのも事実で。
「甘い。多分、まだ立つ。」
そのアルシェムの宣言通り、トロイメライは立ち上がった。
「な…何と…まだ動けるのか!?」
トロイメライは、ゆっくりと移動し…
「クッ…間に合うか!?」
狙いを、エステルに定め。
「よ、ヨシュア…!」
「エステル…っ!」
そうして、腕を振り下ろせなかった。
「…!大佐!」
大佐が、そこにいた。
「こいつは私が何とかする!早くここから逃げたまえっ!」
「で、でも…」
もう、エステル達では無理だ。
「…そうそう。エステル達は逃げれば?」
「アル…?」
もう動けないだろうから。
ヨシュアはどうかは知らないが。
「わたしは…まー、だいじょーぶだし。…ほら、早く。カシウスさんに顔向け出来ねー。」
「アル…!逃げるんなら皆で、よ!大佐も…!」
その大佐の方を見ると、トロイメライの手が…
「…大佐ぁっ!」
「…!?アルシェム君っ!?」
咄嗟に大佐を突き飛ばし、体勢を崩したままアルシェムは捕まった。
「…はは…ばーか…捕まえた…っ!」
ここからだ。
と、思ったのに…
良いところで帰ってきた。
あの男が。
「いや、お前ねぇ。流石に無茶すぎる。」
兎に角無視。
「…みよー見真似っ!…麒麟功!」
「…前言撤回。そのまま行け、アルシェム!」
「あいさー!はああああああ…っ!風華無双…っ!」
アルシェムは、トロイメライの腕を吹き飛ばしながら猛スピードの連撃を浴びせ続けた。
そして…
トロイメライは、爆砕した。
一話で爆砕するトロイメライさん。
トロイメライ「解せぬ。」
仕方ないじゃん。
さすがに、長いから。
事後処理があるから。
では、また。