雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
昇降機が止まり、皆はそこに降り立った。
「な、何だこの空間は…」
「…古代文明の遺跡…だね。」
アルシェムには、何となく分かってしまった。
ここは…
何か、懐かしいような雰囲気で溢れていた。
だから、きっとここは…
だけど、ここは…
それを、確かめるために。
「…せんこーしよーか?」
と、アルシェムは申し出た。
「いや…いくらお前さんでもマズいだろう。」
苦い顔でジンが言うけれど。
「…そー、かな?行けそーだけど。」
少なくとも、《不動》なジンよりはフットワークが良いはずだ。
「油断は禁物よ、アル。それにあんた、さっきの赤ヘルム独りで倒したでしょ。相当疲れてるはずよ。」
疲れている?
だからどうした。
「…ひ弱なシェラさんと一緒にしないでよ。」
シェラザードよりは、丈夫だ。
「何ですって!?」
シェラザードはもっと鍛えるか決め手を持った方が良い。
このままではただの変態お姉さんだ。
「アルシェム…お前さん、何ピリピリしてるんだ?」
もう、ここにはいられない。
きっと…
もう。
「称号の如く《不動》なあんたには言われたくない。あー、もー…」
イライラする。
これまで隠せてたことが、露見しそうなくらい。
アルシェムは、動揺していた。
「アル…?どうしたのよ、ホント。あの赤ヘルムと会ってから変よ?」
当然だ。
彼が原因なのだから。
「…分かってる。終わりが…近いのかもね。」
エステル達とは、もう一緒にはいられない。
「終わりって…何のだい?」
そう不思議そうに聞くヨシュアも…
やはり、思い出してはくれないのだろう。
「…ヨシュアもやっぱりダメか。」
どうして…
だったんだろう。
「…え?」
アルシェムは、複雑な思いを抱えながら。
大きな紙を広げて、導力銃から音響弾を放った。
途端に響き渡る爆音。
「ちょっと…!」
「い、いきなり何じゃい!?」
音の反響を聞き。
それを読み取り。
理解して…
そして、測る。
「…ここはふけーな…うん、入り組みすぎ。」
だけど、複雑すぎる。
「も、もしかして…アルシェムさん、反響で距離を測ったんですかー!?」
ティータは、全容を把握していたようだ。
口には出さないがラッセル博士も。
「流石ティータ。せーかい。でも…フクザツすぎてぜんよーはハッキリしねーのよね…」
「け、警告くらいしなさいよ!」
たまらず怒るエステルと…
「ピュイ!」
それに追従する鳴き声。
何故。
来るなと、言ったはずだった。
なのに…
何故!
「…何でジーク?何で殿下がいんの?降りてこないで下さいって言ったよね?」
絶対零度の視線でクローディアを睨む。
それにたじろぎながら、クローディアは答えた。
「あ、あの…おばあ様の代わりに…」
はい、0点。
見届けに来て、どうする。
今のうちから女王陛下の技を身につけるべきなのに。
護衛もつけずに何をやっている…!
「はー…まぁ、い…良くない!?ちょっ…」
自称護衛のつもりなのか。
肝心な時に守れていないのに、何が護衛か。
「こら、ジーク!」
クローディアの制止も、空しく響く。
どんどん端まで追い詰められて、そして…
「ピュイーっ!」
ジークは、最大速度でアルシェムを突き落した。
「ちょっ…うわあああ!?」
「アル!?」
スピードがスピードなので、捕まることすらできずに。
そのまま落下する。
「アルぅぅぅっ!」
エステルの絶叫が聞こえるが、もう後の祭りだ。
まあ、死にはしないが。
忘れかけていたモノを探り当て、底の底まで落ちてしまう前に建造物に巻きつける。
「…うわ、ギリギリ…」
その下の層は、ないようだった。
地面にぶつかる前にぎりぎりで止まれた。
「…ま、ちょーどいーかな。」
隠形で姿を隠し、大佐がいると思しき所まで行く。
「…さてと。…見物に徹するか。」
そうして、アルシェムはその場で暫し待つのだった。
1人ですべてを終わらせるため、ではない。
たった1回のチャンスでも、逃さないようにするために。
クレイジーク。
いや、あのね?
最強はジークかもしんない。
では、また。