雪の軌跡 作:玻璃
え、そんなに?
ええ、そんなに。
では、どうぞ。
「…成る程な…《首狩り》なだけはある。」
ベルガー少尉は、溜息を吐いてそういった。
だが、アルシェムが欲しい言葉はそんな言葉じゃない。
「…やっぱり。覚えてないんだね。」
思わず、吐いた言葉に。
「何…?」
そう、返されてしまって。
「バカみたい。期待までして、覚悟を決めたのに。…何でよ。」
「何の話だ?」
何の事だかわからないのだと、その顔は告げていた。
だけど。
だけど…
どうしても、思い出してほしくて。
「…何で…!あんたの夢は、ソレじゃないはずじゃないの!?どうして!?…どうして…っ!」
「アルさん…?」
悲痛な叫びは、届くことなく。
「何て深い色…まだ若いのに、アルシェムさんも貴男も大層苦労してきたようですね。」
「…女王よ。あなたに俺を哀れむ資格などない。」
平然とした色を取り戻したベルガー少尉は、そう言った。
それは、間違いで。
「《ハーメルの首狩り》が更なる真実を知る。けどね…あんたは、それを聞き入れようとはしないよ。」
真実は、すべて闇の中に葬り去られてしまったから。
真実を、彼は受け入れようとはしなかったから。
「…ほう…?」
「だって、あんたの真実はあんたの中にしかないんだもん。それが偽りでも、ね。」
「…余計な世話だ。」
もう、それ以上ベルガー少尉の言葉を聞いていたくなくて。
「…寸っ頸…!」
剣を投げ捨て、思い切り吹き飛ばした。
「な…!?ガっ…」
彼は、まともに受けて手すりを越えて落ちて行った。
「ちょ、アル!?あんた…!?」
「死んではいないよ。あんなんで死ぬわけない。」
「いや…あのねぇ。」
そういう問題じゃない、とでも言いたいのだろうか。
死ぬわけがない。
あんなので、死ぬくらいなら…
「…ま、陛下はご無事のよーだけどね…大佐は?」
「え、見なかったけど…」
ということは…
もう、行動を起こしているということ。
急がなくては。
「…地下か。陛下、宝物庫、入っていーですか?」
「アルシェムさん…あなたは…一体…」
訝しげな顔で、女王が見てくる。
だけど、今は…
放っておいてほしかった。
「…大佐を捕まえたらお話ししますよ。」
「…分かりました。」
そこに、ヨシュアが駆け込んできた。
「エステル!」
「ヨシュア!?無事だったみたいね。」
「エステルこそ…無事で、良かった…」
「よ、ヨシュア…」
そこ、ラブコメ禁止。
今深刻な状況だから。
「陛下、よくぞご無事で…」
「シュバルツ中尉…今は、時間がありません。」
「え…?」
「昨日、リシャール大佐の目的がハッキリしました。やはり、大佐は《輝く環》を手に入れるつもりのようです。宝物庫へと急いで下さい。」
それで、さっきのアルシェムの発言の意図が読み取れたことが分かった。
「輝く環って…でも、お伽話じゃ…」
「違うからやべーんじゃねーの。」
違うから、あいつらが動いている。
「旧き王家の伝承には、『輝く環、いつしか災いとなり、人の子らの魂を煉獄へと繋がん。我ら、人として生きるがために昏き闇の狭間にこれを封じん』とあります。」
「何とも不気味ですな…」
「かいほーさせるわけにはいかねー。急ごー!」
「ああ!」
そうして、アルシェムは我先にと宝物庫へと駆けつけた。
後ろから追ってきたシュバルツ中尉が、驚きの声を上げる。
「な、何だ…こんな場所にエレベーターなぞ、無かったはずなのに!」
「…動くか見るよ。」
ロックがかかっているために、動かない。
でも、これなら…
そう思って、手持ちの荷物を探る。
しかし、丁度目的のものは切れてしまっていた。
「あ、しまった…うーん…」
「ど、どうしたのよ、アル。」
これを解決できる人は…
いた。
「…あ、みっけ。…アガット!博士!ティータ!こっち!」
「へっ!?」
宝物庫に、ラッセル博士が現れた。
「アリシア様、ご無沙汰しておりましたな。」
「えええっ!?」
博士だけではない。
「お、おじいちゃぁん…どこ?」
「こら、チョロチョロしてんじゃ…」
ティータと、アガットもだ。
「あっ、エステルお姉ちゃん!ヨシュアお兄ちゃん!」
「わわ、ティータ…」
ティータがエステルに抱き着き、甘えている。
博士は、アルシェムと話している。
「…博士、回路に負荷を与えられるだけの装置ある?」
「む?…あれか。ふむふむ…」
クローディアは、アガットと話している。
「アガットさん…灯台ではお世話になりました。」
「ん?確か、クローゼってったな?何でこんなとこに…」
なんて、茶番。
「アガット、クローディア殿下にしつれーだよ?」
「へっ…」
まだ気づかないのか。
「どうやら、孫娘がお世話になったようですね?わたくしからもお礼を言わせて下さい。」
「ああ、気にすんなって。」
…鈍感?
「アガット…アリシア陛下にしつれーだよ?」
「はっ!?そ、そういえばどっかで…」
「未熟者め。」
「んだとう!」
ラッセル博士とアガットが言い争いをしている間に、準備は終わった。
「…開いた!…陛下、殿下。降りてこねーで下せーね?」
「何故です?」
「…まだ、情報部の機能が止まりきってねーこの状況で、行く気ですか?」
「…そう、でしたね…」
今来てしまったら、無責任どころではない。
「エステルさん、皆さん…このようなことを頼むのは心苦しいのですが…」
「女王様…それ以上は仰らないで下さい。リシャール大佐はあたし達が止めてみせます!」
「お任せ下さい。」
そして、皆で昇降機に乗り込み…
地下へと向かった。
はっは、四月中にはFC終わります。
ストックが尽きるのは果たしていつかなぁ。
では、また。