雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
エステル達はテラスへと出た。
そこには、女王陛下と…
「おばあ様!」
「クローディア…それに、エステルさん、アルシェムさんまで…」
シェラザードは無視か。
「…漸く来たか…」
赤ヘルムがいた。
「…いると思ったよ。今は…ロランス・ベルガー少尉…だっけ?」
「…ほう。お前は…」
決着を、着けに来た。
目でそう語って、今の仲間に声を掛ける。
「…ね、殿下、エステル、シェラさん。お願いがあるんだけど…」
「何よ。」
「…邪魔、しないでね?」
「え…?」
冗談じゃなく、死んでしまうから。
「あ、あの…ベルガー少尉。おばあ様を返して下さい。」
「…この世を動かすのは目に見えているモノだけではない。」
「え…」
一体何の話をし始めるのやら。
「クオーツ盤だけを見ていては歯車の動きが分からぬように、国家とは巨大で複雑なオーブメントと同じだ。」
「あはは…ばーか。そんな厭らしーオーブメントがせーぎょ出来るとでも?」
「…何?」
オーブメントは、パターンさえ読めれば簡単なものだ。
だが、国家はそうじゃないはず。
人間の感情という名の乱数が無数に働く読み切れないもの。
アルシェムは、そう思っている。
「全ては、万物の動きと共に。そんな簡単なことで、国家を騙るな。」
「ほう…手負いの身で、良く吠える。」
「…さぁ、それは、どうかな…?」
自らの背から、剣を抜き放つ。
数は、2本。
もう、使わないと決めていた二刀の構え。
「二刀流…お前のような小娘に、扱えるわけがないが…」
「…わたしは。…わたしは、アルシェム・シエル。」
それが、本当の名前で。
アルシェムは、もう“アルシェム・ブライト”ではいられなくなるから。
これは、けじめだ。
「…え…」
「かつて、クローディア殿下を殺そうとした者。そして…」
「…っ!」
ゆっくりと目を開き、射殺さんばかりに視線を赤ヘルムに向ける。
それだけで、エステル達はひるんだ。
「今なお恐れられる、《ハーメルの首狩り》と呼ばれた者!…舐めんな、軍人如きが!」
もう、エステル達に手出しは出来ない。
レベルが違いすぎるから。
「…成る程、な…では、その態度に敬意を表し、少し本気を出させて貰おう。」
ベルガー少尉は、赤ヘルムを脱ぎ捨てた。
「銀髪…アルよりも、くすんだ色…」
「…行くぞ、《ハーメルの首狩り》。」
「…来い…軍人!」
そうして、戦いが始まった。
「フッ!」
「遅いよ!ハッ!」
幾度となくかみ合う剣。
「チ…せい!」
「まだ遅い!」
ベルガー少尉は重さで。
アルシェムは速さで。
「ここっ!」
「甘い。」
互いを圧倒せんと戦っている。
「せぇいっ!」
「…フッ!」
それでも周囲に被害が出ていないのは、単純にお互いが本気を出していないから。
「…どうした、そんなものか?」
「まさか。」
ベルガー少尉は挑発しているが、あまり余裕はない。
「おおっ!」
「…せっ!」
対するアルシェムも、あまり余裕があるとは言えなかった。
主に、精神的な意味で。
「うああああああ!」
「っ!?…フン!」
体も勿論本調子ではなかったが、痛めつけられた精神はすぐには戻らない。
心の痛みを、怒りに変えて。
「こん、ちく、しょぇあー!」
「ブハッ!?」
アルシェムは、戦っていた。
「…手が、出せない…!」
あまりの速さに、シェラザードは傍観を余儀なくされ。
「アル…」
エステルは、祈ることしかできなかった。
そうして…
「…鬼炎斬!」
「雪月華!」
クラフトが炸裂し、相殺される。
炎を生み出した剣は、氷を生み出す双剣に止められてしまった。
「…やるな。」
「…大人しく投降することを奨めるよ。」
だが、どちらも引かず。
互いに、オーブメントすら触れぬまま、時間が過ぎていく。
「そこだ…!」
「甘いっての!」
アルシェムが攻に出たと思えば、すかさずベルガー少尉は守りに入り。
「せやああああっ!」
「くっ…おおっ!」
ベルガー少尉が攻に出たと思えば、アルシェムが守りに入る。
「…フン!」
「…ッ!まだまだっ!」
小さなかすり傷だけが増えていく中、致命傷を相手に与えられない。
ベルガー少尉にも、アルシェムにも焦りが募る。
「ちょこまかと…!」
「それだけが取り柄なもんでね。」
「…くっ!」
だが…
その焦りは、どうもベルガー少尉の方が強かったようだ。
鍔迫り合いになり、一刀と二刀がかみ合う。
「…それだけの、剣を持ちながら…何で…!」
「それは…こちらの、セリフだ…っ!何故お前は…!」
次第に顔が歪み、押されていく。
「お、押してる…!?」
「…逃がさない!不破・双燕返し!」
そうして、アルシェムの放った六連撃がベルガー少尉にまともに決まった。
「ガッ…!?」
「うわああああああああっ!」
そのまま、アルシェムはベルガー少尉を蹴り飛ばし…
その首筋に、双剣を突き付けた。
ねえ、戦闘描写が難しい。
ねえ、けが人が無茶してるの。
だって、この人むちゃくちゃだもの。
こうまでして動く理由はあるけれど。
それでも、ここまでするのは。
原動力が、必要だった。
…という、言い訳。
では、また。