雪の軌跡   作:玻璃

74 / 269
さて、題名で結構なネタバレな気がするんですが。

では、どうぞ。


故郷を喪った男と《ハーメルの首狩り》

エステル達はテラスへと出た。

そこには、女王陛下と…

「おばあ様!」

「クローディア…それに、エステルさん、アルシェムさんまで…」

シェラザードは無視か。

「…漸く来たか…」

赤ヘルムがいた。

「…いると思ったよ。今は…ロランス・ベルガー少尉…だっけ?」

「…ほう。お前は…」

決着を、着けに来た。

目でそう語って、今の仲間に声を掛ける。

「…ね、殿下、エステル、シェラさん。お願いがあるんだけど…」

「何よ。」

「…邪魔、しないでね?」

「え…?」

冗談じゃなく、死んでしまうから。

「あ、あの…ベルガー少尉。おばあ様を返して下さい。」

「…この世を動かすのは目に見えているモノだけではない。」

「え…」

一体何の話をし始めるのやら。

「クオーツ盤だけを見ていては歯車の動きが分からぬように、国家とは巨大で複雑なオーブメントと同じだ。」

「あはは…ばーか。そんな厭らしーオーブメントがせーぎょ出来るとでも?」

「…何?」

オーブメントは、パターンさえ読めれば簡単なものだ。

だが、国家はそうじゃないはず。

人間の感情という名の乱数が無数に働く読み切れないもの。

アルシェムは、そう思っている。

「全ては、万物の動きと共に。そんな簡単なことで、国家を騙るな。」

「ほう…手負いの身で、良く吠える。」

「…さぁ、それは、どうかな…?」

自らの背から、剣を抜き放つ。

数は、2本。

もう、使わないと決めていた二刀の構え。

「二刀流…お前のような小娘に、扱えるわけがないが…」

「…わたしは。…わたしは、アルシェム・シエル。」

それが、本当の名前で。

アルシェムは、もう“アルシェム・ブライト”ではいられなくなるから。

これは、けじめだ。

「…え…」

「かつて、クローディア殿下を殺そうとした者。そして…」

「…っ!」

ゆっくりと目を開き、射殺さんばかりに視線を赤ヘルムに向ける。

それだけで、エステル達はひるんだ。

 

「今なお恐れられる、《ハーメルの首狩り》と呼ばれた者!…舐めんな、軍人如きが!」

 

もう、エステル達に手出しは出来ない。

レベルが違いすぎるから。

「…成る程、な…では、その態度に敬意を表し、少し本気を出させて貰おう。」

ベルガー少尉は、赤ヘルムを脱ぎ捨てた。

「銀髪…アルよりも、くすんだ色…」

 

「…行くぞ、《ハーメルの首狩り》。」

「…来い…軍人!」

 

そうして、戦いが始まった。

「フッ!」

「遅いよ!ハッ!」

幾度となくかみ合う剣。

「チ…せい!」

「まだ遅い!」

ベルガー少尉は重さで。

アルシェムは速さで。

「ここっ!」

「甘い。」

互いを圧倒せんと戦っている。

「せぇいっ!」

「…フッ!」

それでも周囲に被害が出ていないのは、単純にお互いが本気を出していないから。

「…どうした、そんなものか?」

「まさか。」

ベルガー少尉は挑発しているが、あまり余裕はない。

「おおっ!」

「…せっ!」

対するアルシェムも、あまり余裕があるとは言えなかった。

主に、精神的な意味で。

「うああああああ!」

「っ!?…フン!」

体も勿論本調子ではなかったが、痛めつけられた精神はすぐには戻らない。

心の痛みを、怒りに変えて。

「こん、ちく、しょぇあー!」

「ブハッ!?」

アルシェムは、戦っていた。

「…手が、出せない…!」

あまりの速さに、シェラザードは傍観を余儀なくされ。

「アル…」

エステルは、祈ることしかできなかった。

そうして…

 

「…鬼炎斬!」

「雪月華!」

 

クラフトが炸裂し、相殺される。

炎を生み出した剣は、氷を生み出す双剣に止められてしまった。

「…やるな。」

「…大人しく投降することを奨めるよ。」

だが、どちらも引かず。

互いに、オーブメントすら触れぬまま、時間が過ぎていく。

「そこだ…!」

「甘いっての!」

アルシェムが攻に出たと思えば、すかさずベルガー少尉は守りに入り。

「せやああああっ!」

「くっ…おおっ!」

ベルガー少尉が攻に出たと思えば、アルシェムが守りに入る。

「…フン!」

「…ッ!まだまだっ!」

小さなかすり傷だけが増えていく中、致命傷を相手に与えられない。

ベルガー少尉にも、アルシェムにも焦りが募る。

「ちょこまかと…!」

「それだけが取り柄なもんでね。」

「…くっ!」

だが…

その焦りは、どうもベルガー少尉の方が強かったようだ。

鍔迫り合いになり、一刀と二刀がかみ合う。

「…それだけの、剣を持ちながら…何で…!」

「それは…こちらの、セリフだ…っ!何故お前は…!」

次第に顔が歪み、押されていく。

「お、押してる…!?」

「…逃がさない!不破・双燕返し!」

そうして、アルシェムの放った六連撃がベルガー少尉にまともに決まった。

「ガッ…!?」

 

「うわああああああああっ!」

 

そのまま、アルシェムはベルガー少尉を蹴り飛ばし…

 

その首筋に、双剣を突き付けた。




ねえ、戦闘描写が難しい。
ねえ、けが人が無茶してるの。
だって、この人むちゃくちゃだもの。
こうまでして動く理由はあるけれど。
それでも、ここまでするのは。

原動力が、必要だった。

…という、言い訳。

では、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。