雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
深夜。
誰も来ないはずの客室に、1人の特務兵が忍んできた。
最近は任務もなく、暇で暇で仕方がなかったのだ。
だから…
彼は、暇潰しにこの客間にやってきた。
「…よし。やるか…」
特務兵は、アルシェムに覆い被さった。
「…?…!や…嫌…!」
掠れた声で、拒否するアルシェムに構うことなく…
「静かにしろ!」
彼は、アルシェムの口を塞いだ。
「むぶっ…ん…んー!」
ノック音がしているが、彼は気にもしていない。
もう、アルシェムしか見えていなかった。
「ぷはっ…」
「ふふふ…さて…」
「…あ…」
これは…本当に、ノック…音…?
最早、破壊音にしか聞こえない音を立てて扉が揺れる。
そして、扉が吹き飛ばされた。
「なっ…!?」
そこに現れたのは、エステル達だった。
「アルっ!」
「…エス…テ、ル…?」
「動くなっ!」
咄嗟に特務兵がアルシェムを人質にとるが、それはヨシュアの手によって阻まれた。
「…おおおっ!魔眼!」
「…な…」
「てぇい!」
トドメにエステルの棒術具が顎を粉砕し、アルシェムは解放された。
「アル…大丈夫!?」
「…エステル…お腹空いた。」
普通を装わなければ。
普通しか知らないエステルに、悟られないようにしなければ。
「がくっ…心配させといてそれ!?」
「…早く…殿下を。わたしは…だいじょーぶ、だから…」
「…見たところ怪我はないようだが…」
?
どうして…
傷が、消えていた。
これはつい先程赤ヘルムが治していったのだが、それを知る由はない。
「…?あなた…《不動》の、ジン…?どーして…?」
それに…
何故、彼がここにいる。
出来れば会いたくなかったのに…!
「説明は後だ。…動けるか?」
「お腹空きすぎて、ムリ…かなー…急いで。」
「分かった…気を付けてね。」
エステル達は、紋章の間へと駆けて行った。
「…はは…まだ…まだ、だねー…もー…」
部屋の中にこれ見よがしに置かれたままの装備を身に着ける。
が、もう空腹で動けない。
「くきゅー…」
そこで意識が落ちた。
「…いー匂い?」
それで、目が覚めた。
「…あんたは動物か…」
「ぱくん。…何でニガトマトサンドー!?」
口の中が苦くて苦くて仕方がない。
「元気でたでしょ?」
「うー…」
出たけども。
「あの、アルさん…」
「…殿下?もくもく…」
「ごめんなさい…危険な目に遭わせてしまって…」
済まなさそうに言うクローディア。
「もきゅもきゅ…こっくん。気にしねーで。わたしが好きでやったこと。ぱく…ま、失敗したけどねー…もくもく…」
失敗さえしなければ…
「…私達、これからおばあ様を助けに行くつもりなんです。」
「こっくん。…あ、じゃー、一緒に行く。やんねーといけねーことがあるから。」
赤ヘルム。
彼と、決着をつけなければならないから。
「…え?」
「よっこいしょっと。うー、関節ばっきばき。」
物理的にバキバキ言う関節に、若干引かれてしまった。
仕方がないだろう。
拘束されっぱなしだったのだから。
「大丈夫なんですか…?」
「へーきだよ。」
「では…宜しくお願いします。」
紋章の間へと向かうと、異常なメンツが揃っていた。
何、このメンツ。
遊撃士に、親衛隊に…
そして何故いる、オリヴァルト。
「…アル!?大丈夫なのかい!?」
「うん。…ごめん、心配かけた。」
「全くよ。もう…」
その場が落ち着いたのを確認し、シュバルツ中尉が話し始めた。
「…では、これよりグランセル城解放と陛下救出作戦のブリーフィングを始める。」
「まずは、《不動》のジン殿以下3名が地下水路より王城地下へ侵入、そのまま詰め所を制圧し、城門を開く。以後その場を確保して頂く。」
地下水路…
アレ、王城につながっているのか。
初耳だ。
「ま、でかい花火の点火役ってところだな。」
「そうですね。」
「ラストシーンへの開幕といった所だねぇ。」
そして黙れオリヴァルト。
「開門と同時に親衛隊と遊撃士の《方術使い》クルツ殿以下4名が突入、なるべく派手に戦闘を行い、女王宮から敵を引き離す。」
「ああ、任せて貰おう。」
というか、何でいる。
Nice boatしていれば良いのに。
「そして、最後に…殿下、やはり考え直しては頂けませんか…?」
「ごめんなさい…おばあ様は私が助けたいんです…」
「ユリアさん…クローゼのことはあたし達に任せて!」
「《銀閃》の名に掛けて、必ずやお守りすることを誓うわ。」
いや、お前に誓われても何の安心もできない。
だって、微妙な
「分かった…どうか、お願いする。…城内に敵を引き込んだ直後、殿下達4名が特務艇で空中庭園に着陸、女王宮に突入して陛下を救出する。」
「了解ッ!」
「作戦開始は正午…それまでに位置についてくれ。」
「イエス・マム!」
それぞれが解散し…
エステル達が悲劇の別れ(笑)をやっている頃。
アルシェムは、特務艇を一足先に見に行くことにした。
「ひゅー…なんてスペック!でも、これ…まさか、ね。」
「あ、殿下がいらっしゃいましたよ。」
「もーちょいいじらせてー!」
ストレス解消させてほしい。
もう…
最後まで、もつ保証がないから。
「はいはい。」
思いっきり改造させてもらった。
お蔭でフォルムが兇悪に…
「…アル!?ちょっ…どんな改造してんのよ!?」
「ふっふっふっふっ…それは見てのお楽しみ♪」
「何か怖いんですけど…」
それは怖いだろう。
ここに着けたのは、かなり意味不明なものだから。
「さ、エンジンきどー♪」
「シェラ姉…」
「大丈夫よ。迅速に…そして、着実にね。」
そして、エステル達は王城に乗り込んだ。
特務艇が、、落下する。
「ちょっ…きゃああああ!?」
「あ、アル!?な、ちょっ…」
「アルさんー!?」
そのまま、特務艇がアマルティア大尉を押し潰した。
「ぐえっ…!?」
「はい、こーそく♪」
動けるはずがない。
アマルティア大尉は、地面に縫い付けられているから。
「く、くそっ…」
「さ、行こーか♪」
とてもイイ笑顔で、アルシェムは微笑んだ。
「アル…」
「え、えげつな~…」
「しつれーな。さ、いそがねーと。」
精神的にもたない。
というわけで、アルシェムは途中の特務兵を不意打ちのみで撃退した。
「…キノコ頭!」
「ぶっ…!」
「ちょっと、失礼で…ぷくくく…」
「こ、この…反逆者共が!私を新たな国王と知っての…」
確かにかなりの狼藉だ。
ただし、真実である。
「じょーだんは髪型だけにしてほしーな、デュナン・フォン・アウスレーゼ。」
「な、なぬう!?」
「自分ののーりょくの限界を知らねーから言えるんだよねー。宝の持ち腐れ。何で安易な道を選んだの?」
このキノコは、表に立つよりも誰かの補佐をしている方が向いている。
あくまでも表に立つよりは、だが。
「小父様…もう、終わりにしましょう。小父様はリシャール大佐に利用されていたんです。」
「な、何だそなた、は…?…!く、クローディアではないか!?何だその髪と格好は!?」
「あんたにだけは言われたくなかったはずだけどー。このちょーぜつダサ男。」
そんなことを言っているわけではないのは分かっているが、茶化しておく。
「こ、この…よくも謀ってくれたな!これだから女は…!」
「女は…何?」
「信用がおけんのだ!小狡く、狭量ですぐ目くじらを立て…挙げ句の果てには男を塵のようにポイッと捨てる!そんな連中に王冠を渡してなるものか!」
…捨てられたことあるのか。
というか、女いたのか。
4人分の冷たい視線を浴びて、キノコが震え上がる。
「…天誅♪」
イラついていたアルシェムに、一瞬で特務兵が薙ぎ倒された。
どこかで発散しないと…
「あ、アル…」
「流石ね♪さて…公爵さん?女如きが振るう鞭の味、味わって貰おうかしらねぇ…?」
いや、ダメだろ。
「ヒッ…よ、寄るなぁ!?」
「お休みなさい、キノコ頭♪」
首筋に一撃いれて気絶させる。
「…容赦ありませんね…」
「だいじょーぶ、気を失わせただけだから♪だから安心して、フィリップさん。」
背後から近づく元親衛隊大隊長に、そう声を掛けておく。
「アルシェム様!?…エステル様に、クローディア殿下まで…この度は、我が主が迷惑をお掛けして申し訳ありません!全ては閣下をお育てしたわたくしの…」
「…フィリップさん。私達は、おばあ様をお助けしに来ただけです。どうか、私の部屋で小父様を寝かせてあげて下さい。」
「殿下…本当に、ありがとうございます。」
フィリップ、公爵を抱え上げてクローディアの部屋へとはいる。
いや、どんな筋肉してるんだ…
思わず突っ込んだ瞬間だった。
おお、長い。
そして、ついにクライマックスを迎える局面。
ついにまともな戦闘描写が!?
嘘です。
では、また。