雪の軌跡   作:玻璃

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ここから、物理的にありえない行動に出ます。
ふつうは無理。

だけど、アルシェムは、普通ではない。

では、どうぞ。


手負いの身で

ティータの叫び声で、アルシェムは目を覚ました。

「…アルシェムさんっ!」

「…ティー、タ…?」

「良かった…目が醒めて、良かった…」

ティータ…

「…博士…は…っ!」

そうだ…!

発信機…の、反応を…!

探らないと…!

「アルシェムさんっ!ダメです!」

体を起こしたアルシェムをティータが止めにかかるが、今はそれどころじゃない。

「…離して、ティータ。お願い…」

「まだ絶対安静なんですよ!」

「手遅れになる前に…博士の場所を見つけないと!」

殺されないとは思うが、発信機に気付かれれば場所を移される可能性が出てくる…!

「アルシェム…さん…?」

「博士に、発信機つけてあるから!博士の工房じゃないと…!」

「…!分かりましたっ!」

ラッセル家へと急ぎ、ふらつく体を酷使して測定器を動かす。

「…これにセット…ざひょー、そくてー…」

「…来ましたっ!…え…でも…ここって…」

レイストン要塞。

やはり、情報部か…

「やっぱりか!ティータ、アガットが起きてるならギルドまで来させて。起きるまではアガットに付き添っててくれねーかな?」

「はい。でも…」

「わたしは…無茶はもーしねー…と、思うから。断言出来ねーけどね。」

「分かりました!」

アルシェムは、そのまま遊撃士協会(ギルド)へと向かった。

「アル!」

「ちょっと、怪我は!?」

「動けるし問題ねー。それより…博士の場所、分かったよ。」

…何でそんなに驚いてないの。

「え…それって、レイストン要塞?」

「…どこから?」

「ドロシーさんが、写真をね…」

こら、ドロシー。

軍用施設は許可なしに写真撮っちゃだめだから。

「あー…分かった。…実は、博士に発信機つけてあったんだ。さっき位置をそくてーしたら、ちょーどその位置だったし。」

「…何というか…」

「流石ね、アルシェム。…でも、可能性を確実にするためにはやはり偵察が必要よ。エステル、ヨシュア。行きなさい。…舐められるわけにはいかないわ。」

むしろお前が動け。

それが一番早いはずだから。

「ひええ、キリカさん、目がマジなんですけど…」

「わたしは待機だね。」

「当たり前よ。」

「…キリカ、冷てー…」

まあ、当然なのだろうが。

エステル、ヨシュアはレイストン要塞へと向かった。

だけど…

動けなくても、やることがある。

出来ることがある。

それは、考えること。

「…キリカ。軍が動いてるなら、目的は多分リベールだと思う。」

「…そうね。国一番の頭脳を奪って、一体何を…」

「…黒いオーブメント。…導力停止現象。ラッセル博士…それに…まさか。」

それで…

もう、分かってしまった。

「心当たりがあるの?」

「…王城の地下に、巨大な導力反応があるらしいの。博士から聞いた。…もし…もし、黒いオーブメントでソレを動かせたら…?それがもし、兵器だとしたら…?」

酔った博士から聞いた。

もし本当なら、凄くマズい話だ。

「…可能性はあるわね。けれど、大っぴらにこんなことをする理由にはならないわ。」

「王が、傀儡になって裏で誰かが糸を引く気なら…?」

「馬鹿げてるわね。そんなことをして誰が得をするの?」

キリカと話すと、整理がしやすい。

本当に、キリカは遊撃士(ブレイサー)になれば良いのに。

「…リベールが、得をすると考えれば?次の王は順当に行けばクローディア姫…だけど、二代女王が続くことで、リベールが弱くなると考えたら…?」

「…!傀儡には公爵を据えて、クローディア姫が…」

「危ない…よね?」

同じ結論に達したようだ。

「…念のためね。傷だらけのあなたに頼むのは気が引けるのだけど…仕方が無いわ。…アルシェム・ブライト。国家不干渉ではあるけれど…」

「それはだいじょーぶ。クローディア姫は、学生やってたから、最悪知らねーふりして保護するよ。」

というか、それしかない。

「…そうね。民間人が危険に晒される可能性がある以上、動かざるを得ないわ。…早急に、クローディア姫の身を守りなさい。」

「…はい!」

「グランセル支部とエステル達には言っておく。…急ぎなさい。」

勿論。

急がないと、危ない。

このリベールという国そのものが。

「…短い間だったけど、ありがとー!…エステル達に伝えて。無事に…また、会おうって。」

「…分かったわ。」

セントハイム門を抜け、グランセルの遊撃士協会(ギルド)まで一気に駆け抜ける。

通行規制などはかかっていなかったので、まだスムーズに行ったほうだ。

「…え?」

「初めまして。準遊撃士のアルシェムです!」

「…ぱくぱく。」

女だか男だか分からない受付は、呆然としていた…

「…どーかしました?」

「いえ…早いな、と…受付のエルナンです。早速手続きを…」

さくさくと終わらせ、とっとと遊撃士協会(ギルド)から退散しなければ。

「はい。…早速出て来ます。急がねーと…」

「…良く分かりませんが…気を付けて下さいね。」

「はい!」

キルシェ通りへと向かう。

グランセルにいないのならば、そこしかない。

「…いた。」

見つけたクローディア達の背後に立つ。

「発見。」

「きゃっ…」

「何奴…って、アルシェム君?」

気を抜き過ぎだ。

「急いでグランセルに入って。このままじゃ捕まる。」

「…分かった。私が陽動に出よう。殿下は君に任せる。」

「…はい。じゃー、殿下。男装して下せー。『クローゼ・リンツ』では捕まります。」

だって、もうばれているんだから。

なのに何故まだその格好でいる…

馬鹿か。

「…分かりました。」

手早くズボンをはかせ、コートを被せる。

「偽名は…」

「『クロウ・フォーゼ』でどーです?」

「…分かりました。ではクロウとお呼び捨て下さい。」

当たり前だ。

「…わたしは、『シェル・マオ』と名乗ります。クロウはシェルの従僕ということにしましょー。」

「…はい。」

長髪のヘアピースをつけ、ロングスカートをはく。

深く息を吸って、声色を変える。

「…では、行きますわよ、クロウ。」

「はい、シェル様。」

ここからが、正念場。

2人はそのまま歩いてグランセルへと向かった。

だが、アルシェムの判断は間違っていたのかもしれなかった。

出来るだけ早く遊撃士協会(ギルド)に逃げ込むべきだったのだ。

特に、手負いの身では。

「…しまった…!」

「どうなさいました?…!特務艇!?」

「背後は赤ヘルム、か。」

完全に布陣を終えたうえで、リシャール大佐が話しかけてきた。

「…やあ、このようなところを護衛無しに出歩くものではありませんよ。」

「…あらあら、初めまして、ですわね?わたくしはシェル・マオと申します。こちらが護衛のクロウ。以後お見知り置き下さいませ。」

「ほう…」

見定めるように、こちらを見てくる。

もう、ダメか。

「通して頂けませんか?出来れば、ホテルを取りたいんですの。」

「茶番だな?」

「何のお話ですの?」

ごり押しでも、通れない。

「ベルガー少尉、やりたまえ。」

「…フッ!」

「っ!」

「…!」

彼の、奥義を辛うじていなす。

クローディアに被害がいかないように。

「…鬼炎斬!」

「くっ…つうっ!」

まあ、アルシェムの身が無事では済まなくなったが。

「…シェル様!」

「茶番は終わりにしましょう、殿下。…連れていけ。」

「…は…」

そして、2人は捕らわれたのだった。




というわけで、次回は残酷な描写が入ります。
なので、見れないよ!苦手だよ!という方がいらっしゃいましたら、全力で飛ばしてくださいね。

では。

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