雪の軌跡   作:玻璃

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あのね。
やらかした。
だが、後悔はしていない!

では、どうぞ。


《紅蓮の塔》と毒

「…分かって…のか?」

微かに聞こえる、誰かの声。

「…わい。じゃが…わしは、アルシェムの可能性を信じておる。だからこそ、命を賭けられる。」

「…は…かせ…?」

何でそんな、意味の分からない提案を?

「アルシェム!」

そこで、完全に目が覚めた。

「…黒しょーぞく…じゃー、わたし…いたたたた!?」

「早くせい!」

「…仕方がない…」

黒装束が、アルシェムにティアラのアーツをかけていた。

「…え…ちょっ…博士!何で…」

「仕方あるまい。今お主を死なせたら、誰が次世代のオーブメントを開発するのじゃ。」

「…わたし、遊撃士なんだけど…あ、ここ紅蓮の塔か。」

傷を癒されたことで、状況がはっきりしてきた。

「相変わらずよく気が付くの。」

「いや、手配まじゅー退治によく来たから。」

「全く、ギルドの連中は…」

人手不足なんだからそんなこと言わないの。

こっそり博士に発信器を付けながら縄を完全に切れてしまわないように切る。

「…ま、置いといて。黒しょーぞく、あんた達は何が目的なの?」

「…調子に乗るなよ、遊撃士。」

「あー、はいはい。」

もう、情報は得られないか。

そろそろ潮時だし。

エステル達が、来る。

「…いたっ!」

「エステル、ヨシュア!博士は任せて!」

注意をこちらに引く。

戦いのときには思いきりあちらに引いてもらわないといけないのだから、どういう行動に出るかは伝えるべきだ。

「うるさい!」

「何という連中だ…」

「変装なんて手の込んだことして芸が細かいけど、ちょっと詰めが甘かったみたいね?」

「素直にラッセル博士とアルを解放して貰いましょうか?」

臨戦態勢は完璧。

アルシェムは、博士を助けるだけだ。

「く…」

「遊撃士規約に基づき、てめえらを逮捕・拘束する。あのスカした仮面野郎が見当たらねえのは残念だが、ま、てめえらで我慢してやるよ。」

「ふ、ふざけるな!」

アガットの態度を隠れ蓑に、エステルが飛び出す。

「…貰った!金剛撃!」

「ぐあっ!?」

「おらぁ!歯ぁ食いしばれっ!」

「何っ…」

さんざんエステル達が派手に戦闘してくれている間に、動かなければ。

「…っつ…博士、立てる?」

「済まん…」

「謝んねーでよ。しかし、マズい…かな…これ…」

だけど、何故か目がかすむ。

これは、まさか…

「アルシェム!?」

「だいじょーぶ…博士、行くよ…!」

動こうとするが、アルシェム自身が人質に取られてしまった。

「アル!」

「あんた達!往生際が悪すぎるわよっ!?」

「う、うるさい!」

「あ…や…ダメ…かも…」

やはり、これは毒…!

「おい…そいつにナニしやがった!?」

「っ…あ…アガット…ひ、ひこ…うあっ!」

情報を伝えようとしたのに、治しきれなかった傷を抉られてそれは叶わなかった。

「黙っていろ!」

「だが…形勢逆転だな!」

飛行艇が、やってきていた。

「エステル!」

「分かってるわよ!」

「クソ、ここまで大掛かりな組織なのか!?」

ふざけるな。

形振り構わないで、何が…

「さて…動くなよ?」

「くっ…」

「…かま…な…」

「下がっていろ…」

黒装束が博士を運び込もうとするが、それは叶わなかった。

「だ、ダメぇっ!」

「せい…や、あっ!」

ティータに気を取られた黒装束を蹴り飛ばす。

力尽きて立てる状況でもないため、転がるだけに留める。

「ティータ!」

「お、おじいちゃんを返してっ!返してくれなかったら…こ、こうなんだからああっ!」

「…ガキが…」

黒装束の1人が銃を向け…

ちょっと待て。

あの銃に入っている弾丸は…!

「ティータぁぁっ!」

「あ…」

「調子に乗るな!」

アルシェムでは、間に合わなかった。

「…チッ!」

だから、アガットが動いた。

「アガッ…ト…」

「おい!子供を撃とうとする奴がいるか!?」

「す、済まん、つい…」

「まあ良い…」

黒装束は、アルシェムに銃弾をお見舞いして飛行艇に飛び乗った。

「あぐっ…」

「アル!」

「撤収だ!」

「ちょっ…待ちなさいよ!」

「お、おじいちゃぁぁぁぁん!」

飛行艇は、無情にも飛び去ってしまった。

「ティータ…」

「…ティータ…博士…は、多分…殺され、ねー…か…ら…」

毒が…まわ、って…

「アル…!」

「これは…」

「マズい…死ねるかもー…」

「早くツァイスに!」

アガットがアルシェムを抱え、エステルがティータを抱えて走り出した。

塔の入り口で、アガットが立ち止まる。

「っ…」

「どうしたの!?」

「いや…」

「あ…がっ…と…毒…が…」

アガットに、毒が。

そう、伝えたいのに。

「…!喋るな。急ぐぞ!」

「ダメ…アガット…」

「うるせえ!」

その言葉を最後に、アルシェムの意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いてー…苦しー…」

体中が、痛い。

 

「嫌だ…止めて…」

もう、やめて。

何も、しないから。

何も、出来ないから。

 

「どーして…殺すの…死ぬの…死にたく、ねー…」

皆のためなんて、綺麗事じゃなくて。

ただ、誰かを助けたかっただけなのに。

 

「助けて…嫌だ…誰か…助けて…誰か…!」

誰か、助けて。

 

「…誰も、助けてくれねーの…?」

誰も、助けてくれるわけがなかった。

アルシェムは、罪人だから。




後悔?
してないです。
ご都合主義で動けるのも、すべては○○○が悪いんです。
責任転嫁しておきます。

では、また。

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