雪の軌跡 作:玻璃
駄文なのにね…
ではでは、どうぞ。
3人は、ブライト家に帰り着いた。
「ただいま~、父さん。報告、終わらせてきたわよ。」
「うむ、ご苦労だった。これからも忘れずに報告するんだぞ?」
「分かってますって。…あ、そうだ父さん、はい、リベール通信とギルドからの預かり物。」
エステルはリベール通信と手紙をカシウスに渡した。
「ふむ、手紙か…」
「それじゃ、あたしは夕飯の支度するね。…今日は危ないとこ、助けてくれてありがと。」
「ほう、いつになく殊勝だな?さあ、遠慮するな。どーんと父の胸に飛び込んでくると良い。可愛がってや…」
「調子に乗んないの!まったく…」
そう言ってエステルはカシウスの書斎から出た。
「思ったより落ち込んでないようだが…」
「ヨシュアがフォローしたし。」
というか、それを確かめるためにふざけたことを言わなくてもいいと思う…
「大したことはしてないよ。ちょっと発破をかけただけさ。もともと強い子だからね。」
まあ、ブライト家内で怒らせてはならない人物カーストではレナ>エステル>カシウス>ヨシュア>アルシェムだから、強いと言えば強いのだが。
因みに、誰を怒らせても視線だけで人間を精神的に氷漬けに出来るのだけは確かだ。
「ふん、まだまださ。遊撃士稼業をしていれば迷うことなどザラだぞ。それを乗り越えてこそ一人前だ。」
「くす、相変わらず娘思いだね。」
そのとき。
「あっちゃあ~…ううん、料理はぁぁぁっ、気合いよぉぉぉぉっ!何っ度でも挑戦あるのみぃっ!」
という世にも恐ろしい言葉が聞こえてきた。
「まったく…落ち着きのないやつだ。」
「少し手伝ってくるよ。」
それが正解だろう。
まあ、邪魔になるからやらないが。
「…わたしは、もう少し外にいますね。」
アルシェムは外に出て気配を完全に消し、カシウスの部屋から直通の扉の前に屈んだ。
「ふむ…帝国方面からの連絡か……何だと…っ!バカな…」
帝国方面は、確かに猟兵団が怪しい動きをしているという情報がある。
それも、実力のないごろつき猟兵団が、だ。
《赤い星座》や《西風の旅団》ならともかく、《ジェスター猟兵団》なる猟兵団がギルドを襲撃できるわけがない。
なら、裏に誰かがいる。
それを可能にできるだけの、誰かが。
扉から離れ、棒術具の素振りをする。
アルシェムは導力銃だけでなく、棒術具も操ることが出来るのだ。
他にも槍や剣を扱うこともある。
最悪素手でも戦えるのだ。
鍛錬を続けていると、玄関が開きエステルが顔をのぞかせた。
「アル、ご飯よ!」
「りょーかい。…まともなりょーり、だよね?」
「当たり前でしょっ!?」
鍛錬をやめて、中に入った。
そして、手を洗って席に着く。
「ほう、これは驚いたな…旨そうだ。見た目は。」
…本当に。
そこには、エステルが作ったとは思えないほど素敵なオムライスがあった。
「見た目はって何よぅ。エステル特製パーゼル農園の親子オムライストマトソースがけ!心して味わいなさいよねっ♪」
「うん、美味しく出来てるよ。やるじゃない、エステル。」
「わたし、これ好きかも。」
そもそも、アルシェムは卵が好きなのでオムライスなどにはかなりうるさい。
それでも美味しいと言えるほど今日は上出来だった。
「ふふん、これが真の実力よ♪やー、色々あったけど、今日はすごく良い1日だったわね♪」
「ふむ、初めて作った割には喰えるな。覚悟してたのに拍子抜けだ。」
まあ、見た目だけではないのは確かだ。
「失礼ね~、素直に美味しいって言ってよ。」
美味しいです。
「いや、こんな上出来なものが出発前に喰えるとは思わなかった。やるじゃないか、エステル。うん、励みになるな。」
…出発。
というと、さっきの件でエレボニアに…?
「…どこかに行くんですか?」
「うむ、急に大きな仕事が入ってな。暫く家を留守にするぞ。」
恐らくそうだろう。
だが、ここでカシウスに付いて行くわけにはいかない。
どうするか…
「ちょ、ちょっと待ってよ!それって、いつからなの?」
「明日からだ。」
「あ、あ、あ、あんですって~っ!?」
アルシェムも全力でそう思った。
いきなりすぎる。
人員のアテはあるが、あまりやりたくなかったことが実現しそうだ。
「さっきの手紙だね…何か事件でも?」
「なに…単なる調査だ。色々な場所を回るから1ヶ月くらいはかかるだろう。留守は頼んだぞ。」
「何が『留守は頼んだぞ』よ!まったくもう…この不良中年は…」
膨れるエステルをヨシュアがたしなめる。
「仕方ないよエステル。頼まれたらそれに応えるのが遊撃士の仕事なんだから。」
「分かってるけど…ね、父さん。ロレントの仕事はどうするの?」
そもそも、カシウスが最近受けていた仕事はあまりなかった記憶がある。
受けていても、すぐに終わらせてしまうのだが。
「それについて考えたんだが…お前達、俺の代わりに幾つか依頼を受けてみないか?」
「えっ…」
「新米のお前達でもやれそうな仕事を回す。難しいのはシェラザードに頼むことにする。どうだ?」
そのカシウスの提案に、エステルは若干後ろ向きな答えを返した。
「やってみたいけど…本当に、あたし達みたいな新人でも出来るような仕事なの?」
「比較的簡単なものばかりだが、中には人の命を預かる仕事もある。強制はしない。よく考えてみるんだな。」
まあ、手配魔獣狩りをやってたアルシェムでもあるまいし、当然のことだ。
「…ヨシュアはどう思う?」
「僕は賛成だよ。アルは?」
「右に同じ。けーけんはしないと糧にはなんないしね。」
人の命を預かる仕事は、出来ればやっておきたい。
…まあ、カシウスの監視をどうするかだが…
「…3人もいれば一人前にはなるんじゃないかな。」
「…そうだよね。うん、父さん、あたしやってみるよ!」
「決まりだな。明日、ギルドに話は通しておこう。ヨシュア、アルシェム、フォローは頼んだぞ。」
一段落したところで、ヨシュアが話題転換を試みた。
「…ところで父さん、明日はどっちの飛行船に乗るの?」
「王都行きだ。朝10時に出発だな。」
ということは、リンデ号に乗るのか。
それに人員を入れないと…
まあ、バレそうな気はするが、仕方ないだろう。
「だったら明日はちょっと早起きしなくちゃね。」
そして片付けを終え、エステルは眠りについた。
明日への期待と、若干の寂しさを感じながら。
アルシェムさんが怪しい伏線を張っているようですね。
詳しいことは次話で明らかになります。
…たぶん。