雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
「き、キリカ、臨時司書終わった。」
般若の形相のキリカに、報告する。
「…アルシェム。いつもこんなペースなの?昼御飯、忘れていたんじゃない?」
「…あ。」
「はあ…全く。今日はもう休みなさい。」
気遣いは嬉しいのだが、懸念がある。
「…いや、やっぱり何か起こる気がするから、博士の所にいるよ。今ツァイスで事件を起こすとしたら、わたしなら博士を狙う。」
今博士に何かあったら…!
「…そうね。過敏になりすぎている…とは言えない。頼むわ。暫くは掲示板もウォンだけで捌けるだろうし。」
「ごめん、キリカ。」
「いえ。あなたは正遊撃士に劣らぬ活躍をしてくれたと思うわ。」
これで正遊撃士とか。
正遊撃士サボりすぎなんじゃ…
「買い被りすぎじゃねーの?…じゃ、行ってくるね!」
「ええ。」
居酒屋フォーゲルで昼ご飯代わりにニガトマトサンドを買う。
「ってこれ…」
何でこんな苦そうなんだ…
「遊撃士の嬢ちゃんが持ってきてくれたんだ!」
「…エステル…もーちょいいーものあったでしょーに…」
工作室へと向かうと、博士が黒のオーブメントを頑張って解体していた。
「博士!」
「おお、アルシェム。もうちょっとで解体出来るぞい!」
「…成る程。その手があったか…」
オーブメントを使わなければ発動しない。
だからガソリンと内燃機関か…
「ふんぬぬぬぬ…ぬおおおお…」
「…博士、お腹空きません?そろそろゆーがたですよ?」
「む…」
どうやら、博士も夕食を忘れていたようだった。
「はい、サンドイッチ。」
ついでに機械を止める。
煩いと食べている気にならないから。
「おお、ありがたい。もむもむ…」
「…ぱく。」
「「…苦っ!?」」
思わず絶叫するほど、ソレは苦かった。
というかこれ、食べられるものじゃない…
「ぜってーレイさん作だ…後でレイさん締める…」
「だが、元気がでるぞい!」
「体にはいーんだろーけどさー…」
どんな強力青汁だ…
「あ、飲み物忘れたー…」
「コーヒーを入れてきてくれんか?泥のように濃い奴。」
「はいはい。」
アルシェム特製コーヒーと自分用に紅茶を入れる。
「はい、博士。」
「おお、これこ…ブフォア!?」
「汚ねー!?ちょ、博士!?」
濃いのっていったから濃くしたのに!?
「アルシェム…どうやってこの濃ゆいコーヒーを…」
「まずコーヒー作って更にそれでコーヒー作った。動作×3。」
「…流石に濃ゆいぞ…」
というか、最早泥だ。
「あ、やっぱり?」
「お主…はぁ…」
話を逸らそう…
「博士、切れそー?」
「いや…これがなかなかに硬くての…」
「…ふ…ん…ちょっとどいて、博士。」
「む?…うむ。」
黒のオーブメントの前から退いた博士を尻目に、アルシェムは背から剣を抜いて一閃した。
「…せぇい!」
「うおっ!?危ないじゃろうが!?」
結果は惨敗。
「…っあー…かってー…ゼムリア石よりかてーってどーなの…」
思いっきり手が痺れた…
「ゼムリア石じゃと!?どこでそれを…」
「手配まじゅーが落としていった。」
「あー…成る程のう…」
遠い目をしないで欲しい。
あの時は強くなるために必死だったから。
「流石に余ってねーし…うーん…」
「ま、地道にやるかの。」
「そーですねー…」
そのまま立ちながらアルシェムは仮眠をとった。
ふと、不穏な気配を感じてアルシェムは目を覚ました。
「…むむむむむっ…」
「…博士ー?」
「もう少し…もう少しなんじゃ…」
「…っ!?博士!」
博士の背後から前へと飛び出す。
同時に響く発砲音。
「…むお?」
「…ぐ…動かねーで、博士っ!」
銃弾は、右肩に埋まっていた。
「ちっ…外したか。」
「運の良い奴だ…」
「だが、右腕が使えぬ遊撃士なぞ、置物に過ぎぬ。」
誰が置物だ。
舐めるのも大概にしてもらおう…!
「舐めるな、黒装束。博士は連れて行かせない。」
「…ほう。」
「無茶じゃ、アルシェム!」
「博士…わたし、左利きだよ?…屈んでて。当たる。」
左腕で棒術具を組み立てながら、博士に避難を促す。
「そういう意味じゃないわい!お主は…」
「わたしは、銃だけしか使えないわけじゃない…っと、話しちゅーだよ!」
棒術具を回転させ、撃たれた弾丸を弾き飛ばす。
「ば、バカな…」
「紛れだ!撃てっ!」
「…っぐ…っ、は…」
弾き飛ばせる量と範囲には限りがある。
次第に、棒術具を抜いてくる弾丸。
「アルシェム!」
「だい、じょーぶ…だか、ら…」
「…ほう。」
まだ、いける。
「う…は、あああああっ!」
「な…!」
「怯むな、撃ち続けろ!」
棒術具が跳ね飛ばされるが、咄嗟に剣を抜く。
「はあっ…雪月華…!まだ…まだ、死ねねーのよ…!」
「いいや…」
朦朧としていたのか、背後を取られてしまう。
「あっ…ぐ…」
「アルシェムっ!?しっかりせい!」
「…大人しくしてて頂きましょう、博士。」
このままだと、人質にされてしまう…
「…ぐっ…」
「…は…か、せ…」
抵抗しようとして…
「しぶとい。」
「カハッ…」
黒装束に、意識を落とされてしまった。
だが、必死に起きなければと念じたお蔭なのか…
比較的すぐに目が覚めた。
「…る…」
「…う…?」
「アルシェムさん!」
ティータだ。
「…っつ…っ!博士…博士はっ!?」
「いや…アル、何があったんだい?」
そんな呑気なことを言っている場合じゃない…!
「黒装束が…博士、連れてく気だ…!っ、いるなら多分カペルの所…!良いから行って!」
「分かった…!」
「アガットさん!」
「ああ…急ぐぞ!」
エステル達は5階へと行った。
アルシェムに出来ることは…
「…た、ぶん…エレ、ベーター…使う…から…」
エレベーターの下ボタンを押し、止める。
開いた隙に、自分の体を滑り込ませた。
「ん…?」
「な…!?バカな…!?」
「博士…を、返…して…」
体が、動かない。
「…ちっ…」
「…っ!」
そこで、意識が落ちてしまった。
うん、滅多打ち。
動けるはずないって?
ご都合主義をなめるな。
では、また。