雪の軌跡 作:玻璃
ああ、やだやだ。
では、どうぞ。
「は~、まさか親衛隊がアルセイユでご登場とはね…受付の仕事がなきゃ見に行きたかったんだけどな…」
「ジャンさんって意外とミーハーだったのね…」
「ジャンさん、連絡先はレイストンよーさい、リシャール大佐で間違ってねーよね?」
「ああ、そうだけど…何で親衛隊が来たのかは分からないかな。」
マジで何をやっているんだクローディアは。
「連絡系統にも色々あるんでしょうね…」
「あの…今回の事件で、ルーアンの行政はどうなってしまうんでしょうか?」
「市長が逮捕されちゃったしね…どうなの?ジャンさん。」
「取り敢えず市長代理の派遣、市長の有罪が確定し次第選挙かな。…ああ、そうそう、孤児院については正式な補償があると思うよ。」
いや、なかったらクローディアのしたことは無駄だから。
「良かった…これも皆、エステルさん達のおかげです。本当に…ありがとう御座います。」
「もう、水臭いこと言わないでよね。当然のことをしたまでなんだし。」
「僕達だけじゃなくアガットさんも…」
「そうだ、アガット!ねえジャンさん、アガットから連絡は…」
あからさまに残念な顔になったので連絡はないのだろう。
「ああ…残念ながら、黒装束は取り逃がしたらしいけど、切り抜けて今はそのままツァイスに向かうそうだよ。」
あったのか。
「な、何かハードね…」
「アガットなら出来るってカシウスさんが判断したんですよね?」
「えっ!?」
「アル、それどこで聞いたんだい!?」
済みません、ただのカマカケです。
「推測だよ。多分だけど、アガットはカシウスさんに更生させられたんだと思う。で、頭が上がらねー状態でカシウスさんにこき使われてると。」
「それは推測じゃなくて真実なんだけど…」
「それで突っ張ってると。いーめーわくだよね。」
主にこっちが。
「やっぱり父さんのとばっちりじゃないのよ!」
「クスクス…あ、エステルさん達のお父上といえば…」
「…あのオーブメントだね。」
黒塗りのオーブメント。
不可思議な現象を引き起こす、なぜか既視感のある代物。
「コレ、一体何なのかしら…」
「やっぱり、ラッセル博士に頼るしかねーかな…」
「珍しい色のオーブメントだけど…一体どうやって手に入れたんだい?」
「それがね…」
ジャンに説明する。
彼が結社と繋がっていないという保証はないが、仕方がない。
いずれにせよクローディアにも言わなければならないことだ。
そうこうしているうちに、エステルが事情を話し終えた。
「まあ…そうだったんですね。」
「ふむ、R博士にKか…まあ、博士の方はラッセル博士だろうけど…」
「博士、ちゃんとツァイスにいますよね?ジャンさん。…無事かどーかは別にして。」
爆発事故とかで死んでいないだろうか。
有り得そうだし。
「いや、生きてらっしゃるから。で、まあそれを調べるにはツァイスに行く必要がある…」
「そうだけど、あたし達、まだ…」
「ふっふっふ…受け取ってくれ。」
勿体つけずにさっさと渡せ、と言いたかったが、まあ複雑な気分だ。
「これって…!」
「推薦状!?」
「まさかだったけど…ありがとーございます。」
貰ったら、ツァイスに行かなくてはならなくなる。
「当然だよ。」
「え…」
「あれだけの大事件を解決されちゃあ、渡さないわけにはいかないからね。」
解決したのはアルセイユじゃないのだろうか。
「ありがとうございます。」
「えへへ…ありがとう、ジャンさん。」
「良かったですね、エステルさん、ヨシュアさん、アルさん…その…ちょっと、寂しくなってしまいますけど…」
一国の後継者候補がそれで良いのか。
「クローゼ…」
「…そうだね、僕達も名残惜しいよ。」
「ぜってーまた会えるから。」
その不甲斐ない一国の姫を守るために、動かなければならない時が来てしまうから。
「そう…ですよね。あの…出発の日が決まったら教えて貰えませんか?お見送りしたいので…」
そういうクローディアの声は、少しだけ虚無感をはらんでいた。
次の日。
「…やっぱりまだね。早すぎたかな?」
「そうだね…」
「そりゃ、30分前だしねー…どっかで時間潰す?」
早すぎる。
暇だ。
「ううん、風も気持ち良いし、ここで待ちましょ。」
「うん、分かった。」
だが、アルシェムの耳には聞こえていた。
鳥の声が。
「…待たなくていーかも。」
「へ?」
「ピューイ!」
ジークはアルシェムの額に直撃した。
「痛っ!?ちょっ、ジーク!刺さってる!刺さってるから!?」
なおもつつき続けるジークをクローディアが止める。
「こら、ジーク!ダメでしょう!?」
「ピュイ。」
ざくっと刺して、ジークは離れた。
痛い。
「最後にさっくり刺さねーでよ…」
「はあはあ…ごめんなさい、お待たせしましたか?」
「いや、エステルの気がはえーだけだから。」
むしろ早すぎるだけだから。
「慌てなくて良かったのに…」
「いえ、お見送りするのに遅れるわけには…」
「クローゼ…もーちょい利己的でもいーと思うよ?」
私の部分はね。
公の部分に出さないように、手綱を握っておいてもらわないと。
「はい?」
「ピューイ!」
ふざけんな!
と、ジークが襲い掛かってくる。
「いてーからね!?」
こっちがふざけんな!
である。
「き、気を取り直して出発しようか?」
「そ、そうね…」
最早諦められたようだ…
そう思いつつ、アルシェムはルーアンを出発した。
桜とかどうでも良いから花粉なんて飛ばないでほしい。
では、また。