雪の軌跡   作:玻璃

61 / 269
お母さん、お母さん、どうしてそんなにくれいじぃな物が作れるの?

それはね、愛が詰まっているからさ。

ふざけんな。


では、どうぞ。


白き翼

ダルモアは、最後の力を使ってアルシェムを弾き飛ばした。

「くっ…だ、誰が捕まるものかぁっ!」

「へ…わきゃん!?」

体勢を崩した隙にダルモアに逃げられた。

まずい。

「アル!?」

「だいじょーぶ、追うよ!」

すぐに体勢を建て直し、走り出す。

「はい!」

ダルモア、ヨットで逃走

「ヨシュア、ボート!」

「分かってる!皆、乗って!」

「オッケー!」

「はいっ!」

全員が飛び乗り、ボートが走り出す。

ラングランド大橋を無理やりすり抜けて、ヨットが暴走する。

「うわっ、危ねーじゃねーの!止まれダルモア!」

一般市民に被害を出すな。

「くっ…しつこい奴らだ…誰が止まるかっ!喰らえっ!」

「とりゃあっ!」

「な、何い!?」

ナイス、エステル。

というか、どうやって弾いた。

初速とかどうなってるんだあの粗悪銃。

「ありがとー、エステル!止まれってーの!」

威嚇射撃を行う。

勿論、当てない軌道で。

「アル、当てないでよ!?」

「分かってる!右につけて!」

「了解。…あれっ?」

ヨットに引き離され始める。

風が、ヨットの味方をしている…!

「風が…」

「まずいな…こうなったらヨットの方が…」

「仕方ねー。喰らえ!」

アルシェムが放った弾丸は、ヨットに命中した。

「ちょっとアル!?」

「安心して、帆を外しただけだから。往生際がわりーのよ、ダルモア!」

「な…何だと!?」

何に驚いているのだか。

「…すぐに軍が来る!大人しく投降すりゃー、情状酌量の余地はあるかもだから!てか、投降しろ!」

そう言った瞬間。

 

「…来た。」

 

白い飛行船が、飛んできた。

「くっ…な…な、何ぃぃぃぃっ!?」

こっちが何ィ!?

である。

一体ナニを呼んじゃってくれているんだこの阿呆は。

そうして、白い飛行船は着水した。

「な、何だこの飛行船は…」

「王室親衛隊所属、高速巡洋艦《アルセイユ》。それがこの艦の名前だ。」

「蒼と白の軍服…親衛隊だと!?」

見たら分かる。

本当に、何をしてくれているんだ…!

「その通り。自分は中隊長のユリア・シュバルツという。ルーアン市長、モーリス・ダルモア殿。放火、強盗、横領等の容疑で貴殿を逮捕する。」

「これは夢だ…夢に決まってるんだ…」

「夢な訳ねーでしょーに。さて、シュバルツ中隊長ドノ?後はお任せしても?」

精一杯の皮肉を込めて、名を呼ぶ。

「勿論だ。諸君等の協力を感謝する。」

通じてはいなかったが。

小舟を元の場所に戻し、ルーアンの発着場まで移動する。

「さて。ダルモア殿だが…」

「どうだったの?」

「ああ、どうやら記憶が曖昧になっているようで、犯行もぼんやりとしか覚えていないらしい。」

…やっぱり、薬か。

「そ、そうなんだ…」

「空賊の首領といい、あの黒装束といい、何か関係があるかも知れないね。」

「あるんだろーね。」

主に、蛇とか。

「まあ、記憶が曖昧だろうが罪は明白だからな…秘書共々、厳重な取り調べが行われるだろう。何か分かればそちらにもお知らせする。」

「助かります。」

ナイアルがアルセイユに乗りたいと交渉しているが、あっさり決裂していた。

それよりも問題なのは…

「…で、シュバルツ中隊長ドノ?」

「何かね?」

「分かってねーの…?」

「は?」

何で本気で分かっていないような顔をする。

「終わったことだけど、違和感ありすぎ。迂闊過ぎるんじゃねーの?」

「…何のことかな?」

「…まーいーか。自分で自分の首絞めてるのに気づかねーんだし。」

この中隊長殿は、自分で自分の主の首を絞めているようなものだ。

まだ正体を隠す気なのに。

「それは、どういう…」

「お手柄だったね、シュバルツ中尉。」

そう言いながらあらわれるこの男に、弱みを握られたとも知らないで。

女狐にも、きっと気づかれた。

「こ、これは大佐殿…」

「ああっ!」

「リシャール大佐…」

宣戦布告、しておこう。

「ほう、いつぞやの…」

「お久しぶりです、リシャール大佐。わざわざ駆け付けて頂いた上に徒労に終わることになり申し訳なく思います。」

「いや、事件が解決しただけ良かったよ。ただ…シュバルツ中尉、陛下をお守りする親衛隊がこのような瑣事に関わるのは感心しないね。後は我々が引き継ごう。レイストン要塞で身柄を預からせて貰おうか。」

そうして都合の良いように事実を歪曲する、か。

軍人というよりは政治屋、かな。

「は…了解しました。」

「我々はこれで失礼するよ。親衛隊に遊撃士諸君、それから、制服のお嬢さん…機会があればまた会うこともあるだろう。それでは、さらばだ。」

「フフ、ご機嫌よう。」

リシャールとアマルティアが去る。

「気のせいかも知れないけど…今、リシャール大佐、クローゼの方見てなかった?」

「珍しかったんじゃねーの?この場にがくせーがいるのは不自然だし。」

フォローはするが、自業自得だ。

「あ、あはは…ちょっと反省です…」

「うーん、そんな雰囲気じゃなかったような…」

「自分に言わせれば君達も充分珍しいよ。幾ら遊撃士とはいえ、その若さでここまでとは…出来れば親衛隊にスカウトしたいくらいさ。」

…脳筋?

典型的な脳筋なの?

「いや、無理だと思うけど…物理的に。」

「?どうしてかな?」

「エステルは落ち着きがねーし。ヨシュアはヨシュアで、もー守るたいしょーは絞ってるし。わたしに至っては身元の問題かな。きちんと明かされるとなると…」

絶対に不可能だ。

「ふむ…まあ、冗談なのだが。」

冗談なのか。

真面目に答えたのに。

「シュバルツ隊長!出航の準備が整いました!」

「ああ、分かった。…エステル君、ヨシュア君、アルシェム君。…それとクローゼ君。そろそろ我々は失礼するよ。機会があればまた会おう。」

帰れバター王。

「あ、はい!」

「その時は宜しくお願いします。」

「右に同じ。」

「…ありがとう御座いました。」

そうして、隊員が整列して…

って、ちょっと待て。

「…隊員一同、敬礼!」

「わわっ…」

「…やりすぎ…」

「王室親衛隊所属艦《アルセイユ》、離陸!」

後先考えずに、アルセイユが飛び去って行った。

「は~っ、敬礼しながらファンファーレなんて…何か圧倒されっぱなしだわ。」

「そうだね…」

「ねー…エステル、ヨシュア…シュバルツ中尉って…女?」

いろんな意味で。

「…へ?」

「女性じゃないのかい?」

「わたしより胸がねー女は女じゃねー!」

というか、胸筋がない!

どう見てもない!

「あ、アル…」

「流石にそれは失礼だよ…」

「だってぺったん!わたしよりぺったんだよ!?エステルですらわたしよりあるのに!」

…だから、レイピアなのか?

力がないから、軽い得物を?

「クスクス…」

謎は深まるばかりだった。




絶賛ため息をつきたいなあ。

では、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。