雪の軌跡   作:玻璃

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おはようございました。

まだしばらくは原作通りに進みますよー。
細部は違いますが、ね。


緊急事態

家に帰ろうとすると、アイナに呼び止められた。

「ああ、丁度良かった。」

「あれ、アイナさん?」

アルシェムはその感情に焦りが混じっているように感じたので取り敢えず聞いてみた。

「何かあったんですね?何がどーなったんです?」

「その、カシウスさん、自宅にいらっしゃるかしら?」

「うん、いるはずだけど。」

というか、書類整理を放置して出かけはしないだろう。

報告でも、今日はまだ出かけていないらしいし。

「ユニちゃんが教えてくれたんだけど、ルックとパットが《翡翠の塔》に行ったらしいのよ。」

翡翠の塔…って。

「あそこ、確か魔獣の住処になってなかったっけ!?」

「ええ。シェラザードも出掛けてるし、カシウスさんに保護を…」

「何言ってんのアイナさん!今すぐあたし達が追いかけるよ!」

さっきのタイミングで翡翠の塔に行ったんだとすれば…

今からでは間に合わないかも知れない。

一刻も早く行かなくては…!

「でもねぇ、あなた達は…」

「じゃーわたしを信じて下さい。たった1年のギルド協力員じゃアテにならねーかもですけど、早くしねーと手遅れになります。手遅れになってこーかいしたくねーんです。念の為、カシウスさんにも連絡願います。」

流石に、放置できない。

時間がない…!

「…わかったわ、責任は私が持ちます。遊撃士協会(ブレイサーギルド)からの緊急要請よ。一刻も早く子供達の安全を確保して。」

「了解ッ!」

「わかりました。」

「りょーかいです!」

アイナは真剣な顔で続けた。

「私はギルドで待機しています。何かあったら連絡して頂戴。」

「はい。」

そしてアイナはギルドに戻って行った。

「早速の初仕事ね…ヨシュア、アル、急ぎましょ!」

「ああ!」

「うん!」

3人は市の北からマルガ山道に出た。

「…せんこーしたほーがいーかな?」

「そうだね…僕はエステルと行く。アルは魔獣は放置して良いから、一刻も早く2人に追いついて欲しい。」

「りょーかい。」

アルシェムは駆け出した。

完全に2人が視界外になると、更に速度を上げつつ魔獣の急所を1発ずつ撃ち抜いていく。

程なく、翡翠の塔に着いたがまだルックとパットは見えない。

中に入り、2階まで駆け上がると…

「チ…ルック、パット!動くなっ!」

魔獣に取り囲まれているルックとパットがいた。

魔獣を軽く威嚇して注意を向けさせる。

「アルねーちゃん!?」

「不破・弾丸!」

導力で包まれた弾丸が魔獣を蹂躙した。

結果も見ずに魔獣を飛び越えて2人の側に立つ。

「下がってて!」

「う、うん!」

手配魔獣程強くはないが、数が多い。

「く…」

一匹ずつ着実に仕留めていくが、それでもキリがない。

それにしびれを切らしたのか…

「アルお姉ちゃん!」

「あ、バカっ!」

「うおおおっ!」

ルックが駆け出した。

魔獣は襲いかかってくるが、この際無視だ。

それに…

多分、増援が間に合う。

「ルックっ!」

ルックを襲おうとしていた魔獣を蹴り飛ばし、ルックを捕まえてパットの元へ戻す。

すると…

「ヨシュア!」

「了解!」

「うりゃあああっ!」

そこにエステル達が突っ込んできた。

「エステル!?」

「ヨシュア兄ちゃんだぁ!」

「ナイス!2人とも!」

顔だけ振り返ってエステルが言い放つ。

「あんた達、じっとしてなさいよ!」

「すぐに片付けるからね!」

こうなればもう魔獣たちは狩られるしかない。

数に押されていただけで、その気になれば一掃できたが怪我をさせるリスクを負いたくなかったがために単発攻撃だけで攻撃していただけのこと。

掩護する人たちが来さえすれば、すぐに解決だ。

「ストーンインパクト!」

そのアーツの一撃で、魔獣はやっと一掃された。

「よっしゃ、片付いたわね。」

「うん、皆無事で良かった。」

「ほんとーにね…」

無事でいさせるためにどれだけ神経を使ったことか…

「お、終わったの…?」

「すっげえっ!エステル、結構強いんだぁ!オンナのくせに…」

ルックははしゃいでいるが、エステルは烈火のごとく怒っていた。

「このおバカ!」

言葉と共にルックに拳骨を落とす。

「いってー!何すんだよー!」

そしてルックを捕まえる。

ルックは逃げようとするものだから、もみくちゃになっていた。

「ルック!乗り気じゃないパットまで連れてきたりして…反・省・し・な・さ・い!」

「いたた、やめろってば!暴力オンナ!馬鹿エステル!ゴー○キー!」

だから、エステル達は気付かなかった。

だが、アルシェムは気付いた。

「っ!エステル避けて!」

その言葉に、エステルが振り向く。

そこには、何故か海辺にしか生息しないはずの魚型魔獣がいた。

しかも、攻撃力がかなり高い種族。

「え…やば…」

「…ちいッ!」

ヨシュアが駆けだそうとするが、間に合わない。

 

1発の銃撃音と1つの打撃音が響き、魔獣が消滅した。

 

「良かった、来てくれたんだ。」

そこには、カシウスが自らの青い棒術具と共に立っていた。

「まだまだ甘いな、エステル。見えざる脅威に備えるため常に感覚を研ぎ澄ませておくのが遊撃士(ブレイサー)の心得だぞ。」

「と、父さん!?どうして…」

「何、アイナから聞いてな。行動力と判断は評価出来るが…まだまだ詰めが甘かったようだな?」

それを聞いて、エステルが落ち込む。

「うう、面目ないです…」

まあ、それはそうだろう。

ルックを叱るためとはいえ、危険に晒したことに変わりはないのだから。

「助かったよ、父さん。」

「礼ならアルシェムに言うんだな。」

やはり、気付かれていたか。

「大したことじゃねーし、あれじゃ仕留めきれねーかもだったし…」

何しろ、エステルが邪魔で通常ならば導力銃ではどうしようもなかったところを跳弾で魔獣に当てたのだ。

いや、当たったかどうかは分からないが、カシウスの口ぶりからすると当たっていたのだろう。

「そんなことはないさ。…それでは帰るとしよう。おーし坊主共、歩けるな?」

「は、はい…!」

「か、かっくいい…エステルの何倍もかっくいいよカシウスおじさん!」

そりゃあ、天下のカシウス・ブライトだから。

「はっはっは、当たり前だ。それじゃあ町に戻るぞ。」

「うん!」

カシウスがルック達2人を連れて歩き出す。

「む~…助けてくれたのは感謝するけど、何で良いとこ全部父さんが持ってっちゃうのよ~っ!?納得いかなーい!」

エステルが絶叫するが…

「はは、それは仕方ないよ。何と言っても…カシウス・ブライトだからね。」

何とも便利な言葉である。

カシウスはエステル達に報告を任せ、さっさと帰って行った。

エステル達はギルドまで報告に行き、アイナに感謝されつつも何故かもやもやした気持ちを抱えて帰路についた。

アルシェムはまあ、悩むことなどなかったのだが。

だが、エステルは違ったようだ。

「ね、ヨシュア…」

「ん、何さ?」

エステルが立ち止ってヨシュアに話しかけた。

「…あたし…遊撃士に向いてるのかな…」

「…まあ、父さん譲りの武術の腕もそれなりだと思うし、お節介野次馬根性な性格にも合ってると思うけど。」

普段ならここでツッコミが入るところなのだが…

「えへへ、そっか…」

というだけで元気がない。

「ひょっとして、塔での出来事を気にしてるのかい?」

「うん…あの時、あたしの不注意でルックまで巻き込むところだった。もし、父さんが来てくれなかったら…ルックは…っこれから先、こんな調子でやってけるのかな…」

かなり落ち込んでいるが、エステルのフォローにはヨシュアが一番なのでアルシェムは黙っておくことにした。

「…何、らしくないこと言ってるかな。」

「えっ…」

「明日より先を考えて尻込みするなんて君らしくもないよ。ずっと遊撃士(ブレイサー)に憧れてたんだろ?この程度でへこたれてどうすんのさ。」

「ヨシュア…うん、そうだよね。こんなの、あたしらしくないよね!」

…流石ヨシュア…

「そうそう、エステルは深刻な顔してるより能天気に明るく笑ってる方が良いよ。」

これだけでエステルの元気を取り戻した。

「って、どういう意味よっ!全く、一言多いんだから…」

同感である。

「それがヨシュアだし、仕方ねーんじゃねーの?」

「まあいいや…ありがと、元気付けてくれて。それじゃあ、早く家に帰りましょ!何か急にお腹が減って来ちゃった。」

「…色気より食い気か…」

まあ、この辺りがエステルらしいというかなんというか。

3人はそのままブライト家に帰り着いた。




カシウス・ブライト イズ チート親父。

この世界ではきっとカシウスが3人いれば国一つくらい堕とせるんでしょうね…

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