雪の軌跡 作:玻璃
3年くらい。
就活って怖い。
では、どうぞ。
ふと見上げると、屋敷の窓からダルモアの口がデュナン、と動いているのが見えた。
「…あ、キノコ頭。」
「ふえっ!?」
「いや…何でもねーよ?」
「何そのフラグ…」
玄関に入ると、メイドが対応してくれた。
「ルーアン市長邸へようこそ。申し訳ありませんが、只今市長は接客中でして…また来て頂けませんか?」
「その来客のことならしょーちしています。デュナンこーしゃく閣下ですよね?」
「え…」
驚くまでもない。
上に、いる。
「まあ、その通りですわ。もしや皆様も…?」
「はい、市長から直々に。お邪魔して構いませんか?」
って、ちょっと待て。
いつ招待された…
「…どうぞ。市長と閣下は2階の広間にいらっしゃいますわ。」
「分かりました。親切にありがとうございます。」
「…そ、そうだわ、お客様が増えるのだったら、お茶を…」
「あー、お気遣いなく。では、上がらせて頂きます。」
メイドが去っていく。
いや、案内しなくても良いのか?
兎に角侵入する。
「…何でデュナン公爵だって分かったんだい?アル。」
「窓際に立ったダルモアしちょーが口パクでデュナンって言ってたから。」
「どんな目してんのよ…」
広間に向かう途中、ヨシュアにも聞こえないように言う。
「…執事。…いや、変態仮面。」
確か、ダリオ…とかいったか。
「ほう…まさか分かるとはな…」
「気配だだ漏れ。わたしを欺けると思うな。…何もしないでいろ。」
「フフ…今は何もしないよ。」
疑わしい。
変態紳士のくせに。
警戒しつつも広間に入る。
「君達は…」
「ヒック…ヒキャッ!?お、お、お、お前は…!」
「おお、いつぞやの…」
そんなに怖がられても…
「…アル…あんたね…」
「誤解だって…ほんとーに。」
「困るな君達…遊撃士ならば礼儀くらい…」
「放火事件の犯人が分かったんですよ。」
端的に、述べる。
さあ、終わりの時間だ。
「その件か…仕方あるまい。閣下、しばし席を外しても宜しいでしょうか?」
「ヒック…いや、興味がある。ここで話すと良い。」
「し、しかし…」
「良いじゃない♪公爵さんもああ言ってるし、聞かれて困る話でもないでしょ?」
エステル、人が悪い。
が…
退避させたほうが良いのではなかろうか。
「まあ、それはそうだが…そういえば、またもやテレサ院長が襲われたそうだな。放火事件と同一犯だったのかね?」
「はい、その可能性は高そうです。残念ながら、実行犯の一部は逃亡中ですが…」
「そうか…だが、犯人が分かっただけでも良しとしなければならんな。…因みに、犯人は誰だね?」
おお、探りを入れている。
汚い根性が丸見えだ。
気持ち悪い。
「ダルモアしちょーが良く知る人物です。」
「そうか…残念だよ。いつか彼等を更正させられると思っていたのだが、単なる思い上がりに過ぎなかったようだな…」
「あれ?市長さん、誰のことを言ってるの?」
「誰って君…《レイヴン》の連中に…」
押し付ける気満々だ。
まあ、わかりきったことだが。
「《レイヴン》は犯人ではありません。アリバイがありますし、何より今回に限り被害者ですからね?」
「な、何!?」
「今回の事件の犯人は…市長秘書ギルバート・スタイン!そして黒幕はダルモア市長、あんたよっ!」
「な…!」
はい、良いとこ独り占め。
エステルがびしっと指を突き付けている。
なかなかに失礼である。
「ギルバートは既に現行犯で逮捕しました。あなたが実行犯を雇って孤児院放火と寄付金強奪を指示したという証言も取れています。間違いはありませんか?」
「で、出鱈目だ!そんな黒装束の連中など知らん!!」
「…黒装束とは誰も言ってないよ。語るに落ちたね、モーリス・ダルモア。」
ここに、証拠がある。
最初から、彼に逃げ道などないのだ。
「ぐっ…知らん!全て秘書が…」
「高級別荘地の為に孤児院が邪魔だと聞いています。これでもまだ…」
「しつこいぞっ!確かに、随分前から計画はあったが、それはルーアンの今後を考えた事業の一環だ!何故罪を犯してまで性急に事を進める必要が…」
あ。
「…莫大な借金を抱えているからでしょう?」
ナイアルが、入ってきた。
え、ちょ、メイド?
何で通してるの?
「な、ナイアル!?」
「いやあ、一部始終聞かせて貰ったぜ♪あ、初めまして、《リベール通信》の記者ナイアル・バーンズと申します。いきなりですが…ダルモア市長、あなた…市の予算を使い込んでますなぁ?」
へえ、良い情報。
まだ見てはいないが、この情報の証拠はある。
「そ、それは…別荘地造成の…」
「工事は一切始まってませんしな、それは通じませんぜ。で、あなた、1年程前に共和国に度々いらしてますねぇ?観光は名目で、相場に手を出して大火傷したんでしょう?…約1億ミラも消えちゃあ、犯罪にでも手を出さなきゃどうしようもないですな…?」
「ヒック…1億とはな…私もミラ使いは荒いが流石に完敗だぞ。」
「そ、そこ争うとこ?」
「くっ…ど、どこにそんな証拠が…」
目の前に突きつけてやる。
「これ、何だと思う?ダルモアしちょー。」
「これは…まさか…ダルモア家の帳簿だと!?」
「当たり♪」
え、そうだったの?
という疑問は放置する。
どうやって手に入れたんだろう、メル。
「おいおい、アルシェムだったか?どこからそんな…」
「秘密♪」
教えてたまるか。
というか、教えられるか。
「ぐっ…ま、まあそんなわけで、借金を返すのに市の予算を使い込んだは良いが、問題を先送りにしただけだ。まさか、放火や強盗までやらせるとはねぇ。」
「…ふん、そんな証拠がどこに…」
「もー忘れたの?これ、じゅーぶんしょーこになるよ?」
状況証拠としては充分だ。
「ぐっ…し、市長の私を逮捕する権限はギルドにはないはずだ!今すぐ消えるが良い!」
「む、やっぱり…」
「流石に特権は分かってるか…」
まあ、こういう輩は怒らせれば何とかなるのがオチだ。
「…市長、お伺いしても宜しいですか?」
「何だね君…は…うっ…」
クローディア、視線でダルモアを黙らせるな。
「何故、ご自分の財産で借金を返そうとしなかったんですか?確かに1億ミラは大金ですが…ダルモア家の資産があれば何とか返せる額だと思います。例えば…この屋敷ならそのくらいで売れそう…」
「馬鹿を言うな!この屋敷は先祖代々受け継いだダルモア家の誇りだ!売り払うことなぞ出来るものか!」
「そんな馬鹿らしー誇りなんてまじゅーにでも喰わせれば?」
空虚な誇り。
そんなもの、捨ててしまえば良い。
「あの孤児院だって同じです。多くの想いが育まれてきた思い出深く愛おしい場所…その思いを壊す権利なんて誰にもないのに…どうして…どうして、貴方は…あんなことが出来たんですか…?」
「あ、あのみすぼらしい建、も…」
「確かにこの屋敷は欲だらけでみすぼらしーよね。あの孤児院のほーが数億倍マシ。」
怒らせて、手を出させる。
勿論、
「な、何だと…!?」
「貴方は結局、自分自身が可愛いだけ…ルーアン市長として、ダルモア家当主としての自分を愛しているに過ぎません。可哀想な人…」
「…ふ…ふふふ…よくぞ言った、小娘が…」
ってちょ、クローディア、やりすぎ…
あ。
ま、魔獣の気配が…!?
「…!フィリップさん、閣下を連れて退避!この屋敷から離れて!ナイアルだっけ?あんたも!」
「は…はっ!」
「こんなスクープ見逃せるかっ!」
フィリップ、デュナンを引きずって逃げる。
…まあ、もしメイドが敵でもフィリップなら大丈夫だろう。
「こうなったら…ファンゴ!ブロンコ!餌の時間だ!」
「な、何なの…」
「獣の臭い…!」
「ふえーせーじゃねーの。かわいそー。」
飼うのは良いが、飼育はちゃんとしろ。
「信じられません…魔獣を飼ってるなんて…」
「くくく…お前達を皆殺しにすれば事実を知る者は…」
「フィリップさんとか閣下とかいるんじゃねーの?」
「うるさい、小娘が!やれ!」
そうして、ファンゴ氏とブロンゴ氏との戦闘が始まった。