雪の軌跡 作:玻璃
はっはっは。
では、どうぞ。
夜が、明ける。
「さてと…連中と寄付金はあたしが見張っておくよ。あんた達はジャンに報告を頼む。」
「それは構わないけど…カルナさん、もう大丈夫なの?」
「あたしは眠らされただけだから何ともない。念のために来てくれたシスターのお墨付きさ。…それよりアルシェム、あんたは大丈夫かい?」
あんたは姉御か。
「はい。ご心配を…」
「ああ、そういうのは良いよ。もしかしたらあたしがあんたみたいにされてた可能性もあるんだ。…先輩なのに、守れなくて申し訳ないね。」
「いえ…わたしも、まだまだ未熟なんだって分かりましたから…お気になさらず。」
不覚を取った。
けれど、本気だったら?
誰も、守らなくても良かったなら…?
考えても、仕方のないことだ。
「はは…ま、そういうなら。…しかし、アガットは単独であの連中を追ったのか…あいつの腕は知っているけど流石にちょっと心配だねぇ。」
「う、うん…返り討ちにあったりしたら…」
「や、有り得ねーから。だってアガットだよ?」
粗削りだが、技術だけは確かだ。
心が問題なだけで。
「うーん…そうかもね…激しく分かる気はするわ…」
「あはは…」
「い、今はアガットさんを信じよう。」
なぜ声が引きつる。
「うん…そうだよね。あたし達は、あたし達の出来ることをするしかないか。」
「そうだね、その通りだ。…さ、時間が惜しい。さっさとケリをつけてきな。」
「はい。」
「それじゃあ、レッツ・ゴー!」
だが、そうは問屋がおろさなかった。
「…アルシェム?」
「ゲッ…こ、この声…め、メルせんせ?」
「…言いたいことは山程ありますが…取り敢えず来なさい。」
お冠のようだ。
怖いことこの上ない。
「せ、せっきょーは後に…」
「何か言いましたか…?」
「の、ノーマム!エステル、ヨシュア、クローゼ、先行ってて!追いつくから!」
「あはは…分かったわよ。」
エステル達が消える。
風車小屋の裏へ周り、メルが法術で結界を張った。
「…アルシェム…あなたって人は…強がりすぎです。」
「…やっぱり…分かった?」
本当は、立っているだけで限界だった。
誤魔化してはいたけど。
「当たり前でしょう!…もう…じっとしていて下さい。…ホーリーブレス。」
「…ふー…ありがとー、メル。…しりょーは?」
少しだけ、楽になった。
さあ、仕事の時間だ。
「持ってきています。が、罰としてあたしをルーアンまで護衛して下さい。」
「それは…しちょー逮捕に関わるなってこと?」
「いいえ。」
…渡す気、あるのかな。
「…分かった。じゃー、行こーか。」
「はい。」
ルーアンを出る。
人目を避けて、端っこでメルにお願いする。
「しりょー渡して。」
「はい、アルシェム。」
よし。
これで…
「じゃ…」
「ふえっ!?」
メルを抱え上げる。
「舌、噛まねーでね♪」
「ちょっ…」
警告はした。
アルシェムは、メルを抱えたままメーヴェ海道を爆走した。
「嘘でしょおおおっ!?」
「…きゃっ!?」
ききぃっ、と音が聞こえた気がするが気のせいだろう。
急停止して、クローディアのほうを見る。
「あ、クローゼ。」
「あ、アルさん…!?それに…シスター・メル!?」
「ちょーど良かった。今エステル達は?」
「ギルドにいらっしゃると思いますけど…」
頼む、引くな。
「クローゼは、どーするの?」
「私は…エステルさん達と一緒に行こうと思います。」
「…そー。じゃ、行こーか♪」
罰の前払いだ。
この目立ちたがりやめ。
「へ…?」
再び、爆走。
「アルさん!?ちょ…はや…待っ…きゃあああっ!?」
さながら、暴走馬のように。
アルシェムは、駆けた。
そして、
「はい、クローゼとメルせんせ、お待ち!」
「出前じゃないわよ!?」
「…はっ!?」
「あ、気が付いた。」
気絶していたようだ。
気づかなかった。
「…アルさん!いきなりは危ないでしょう!?」
「ちゃんと宣言したでしょーに。」
「それにしても規格外過ぎます!」
というか、舌は噛まなかっただろうか。
この様子だと大丈夫そうだが。
「そのほーが早かったし…」
「言い訳はなしです!」
「ハイ…」
クローディア、強し。
「クローゼさんの言うとおりですよ、アルシェム。」
「ハイ…はんせーシマス…」
「…で、エステルさん…どういうことになりました?」
流石黒ーディア。
ナチュラルスルーは健在デスネ。
「丁度市長の所に乗り込むって話をしてたのよ。軍の連中が来るまで時間稼ぎするの。」
「あ…そうですか…余計なことをしたかしら…」
「?えっと、クローゼも来るよね?」
「あ、はい、どうかご一緒させて下さい。」
まさか、親衛隊呼んだんじゃ…
いや、そんな時間はないはず…
と、信じたいな。
希望的観測ではあるが。
「ジャンさん、連絡の方宜しくお願いします。」
「ああ、任せておいてくれ!」
ギルドを出て、メルと別れる。
「…メル先生は教会に戻っていて下さい。」
「ええ、そのつもりですよ。…あなた方に空の女神の加護があらんことを。」
「ありがとう、メル先生!」
そうして。
エステル達は、ダルモア邸に乗り込んだ。
健康診断。
血を抜いたら不健康になりそうな気がするのは、わたしだけ?
では、また。