雪の軌跡 作:玻璃
まだ待っててくださる人がいてくだされば幸いです。
というか、意地張らずに予約投稿すれば良いんですよね。
では、どうぞ。
片づけまで終わり、控え室にて。
「いや~、ほんとお疲れ!最高だったわよ!」
「…ジル、ちょっといー?」
「どうしたの、アル?」
いや、そんなに不思議そうな顔をされても。
「いや、ちょっと、やりすぎたから…ね?デュナン公爵に謝ってくる…」
「あ…」
「…私も行こうか?」
いや、連れていけない。
「いや、完全にわたしの独断だし…ごめんね、行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
今から、アルシェムは二重の意味で謝りに行くのだから。
ルーアンまでフィリップを追いかける。
「…追い付いた。」
「おお、先程の…」
「済みませんでした。その…あのままだと生徒に被害が出てたかも知れなかったので…」
その言い回しで、フィリップは気づいたようだ。
アルシェムが、生徒などではない、と。
「…失礼ながら…お嬢様は、生徒では…?」
「あの芝居のために協力せよとの依頼を受けておりました。準遊撃士…いえ、こう申し上げた方が分かりやすいですね。アルシェム・ブライトと申します。…お久しぶりですね。」
「…!いつぞやの…!」
彼とは、一度だけ会ったことがあった。
あの時、女王宮で。
「その節は、大変失礼致しました。わたし如きの謝罪なぞ受け入れて貰えるとは…」
「受け入れましょうぞ。」
「…え?」
耳を疑った。
有り得ない。
どうして…?
「お嬢様は、生徒を守ろうとなさっていらっしゃった。それに…閣下も吹き飛ばしただけで傷一つ付けられなんだ。…信じまする。」
「…ありがとう…ございます…」
「…アルシェム殿…」
信じるといわれたことが、これほど自分に影響するのだとは思わなかった。
「あは…やだな…こんなの…みっともない…」
「みっともなくなぞありませぬ。」
「…もう…時間が、アレなんで、失礼します…」
涙を、隠すように。
アルシェムは、後ろを向いた。
「お気をつけて…」
そして、一気に駈け出す。
振り切るように。
そのまま学園に戻ろうとするが、メーヴェ海道が不穏なことに気付いた。
何故か、黒装束が誰かを取り囲んでいて…
「…!待てってーのっ!」
「!アルシェム姉ちゃんっ!?」
「アルシェム!?」
敵に集中しろ。
やられる…!
「カルナさん、前!テレサ院長は下がって!」
「…ち、新手か!」
「ずーずーしく居座ってんじゃねーよ!消えやがれっ!」
言葉と同時に、蹴り飛ばす。
「何っ!?」
「カルナさん!」
「分かってるよ!」
カルナはテレサ達をマノリアまで連れて行こうとするが…
囲まれている。
「くそっ!…く…」
「カルナさん!?」
まずは、カルナがやられて。
「皆、下がって!」
「あ、テレサ院長ッ!?」
「…あ…」
次に、子供達を守ろうとしたテレサがやられて。
「…後は小娘だけだ。」
「殺すなよ。後が面倒だ。」
「…やめろおおっ!」
「クラム!逃げ…!しまっ…」
そして、クラムをかばって…
アルシェムの意識は断絶した。
混濁した意識の中で。
忌々しいあの碧い、碧い…
ダメだ。
受け入れるわけにはいかない。
だけど、拒めなくて。
アルシェムは、その碧に囚われてしまった。
意識がはっきりしたとき…
目の前には、エステル達と何故かアガットがいた。
「お前達の相手は、こいつだ!」
「…あ…れ…?」
体が、自由に動かない。
どうして…
「アル!?」
「アルさんっ!」
「エス…テル…ッ!?これ…!」
唐突に、気づいた。
あるはずのないものが、ここにある。
床に威嚇射撃させられ、エステル達を威嚇してしまう。
「わわっ…」
「や…やだ…逃げて…!」
嫌だ。
「逃げてどうなる!」
「アガット…!?お願い…逃げて!」
嫌だ。
「皆殺しにしろ。」
「嫌…!…誰も…誰も殺したくなんかない…!」
もう、誰も。
「あんた達…アルに何したのよっ!?」
「…エステル避けて!」
手が動いて、発砲してしまう。
「きゃっ!?」
「せい!」
それを、ヨシュアが運よく弾き返してくれる。
でも、いつまでも持つわけがない…!
「エステル…!ダメ…させて…たまるか…」
「…何?」
「何をする気だ!?」
抵抗、は、できる。
まだ、生きて、いられる。
だから、アルシェムは。
「わたしを舐めんじゃねーよっ!」
絶叫して、自らの右肩を撃ち抜いた。
「…っ…」
「アル!?何してんのよ!?」
「…っ、目が、覚めた。」
もう、操られたりしない。
「ば…バカな…今までの3倍以上の効果はあったはずだぞ!?」
「…語るに落ちたね。…動くな。少しでも妙な真似をしたら撃つ。」
「く…」
正直、アルシェムはキレていた。
「銃を捨てろ。」
「これで…っ!?」
少しでも不穏な動きをする敵に発砲するくらいには。
「ねぇ、ふざけてんの?撃つって言ったよ、わたしは。」
「くそ…」
「さて…一応宣言しとこーかな。孤児院の放火、灯台の不当占拠、未成年略取。諸々の現行犯で取り押さえる。大人しくお縄に着いたら?変態共、市長秘書ギルバート・スタイン。」
なぜここにいるかは分からないが、首謀者にほど近いだろう。
主に、市長の関係者だし。
「ま、待ってくれ!僕は…ぎゃああっ!?」
「なっ…」
「下がれ。」
銃をこちらに向けて威嚇してくるが、どうでも良い。
「嫌。」
「…何?」
「わたしは動かねーよ。」
撃たれたら避けるが。
「ほう…?」
「それに、チェックを掛けてんのはこっちの方だし。」
「そうかな?」
煙幕。
「くっ…」
「させるか…っ!?」
視界を奪われた中で、避けられるレベルの発砲を避ける。
「それでは、さらばだ。」
「ケホッケホッ…ま、待ちなさいってーの!」
「逃がすか、オラアッ!」
灯台の管理用に設置された扉から外を見る。
「な…脱出用のワイヤーロープ!?」
「止まれ!」
ワイヤーロープを切らないように、発砲。
「おい!?」
「ちゃんと足狙ってるよ。掠っただけだけど…」
足止めにもならない。
「そうか…アルシェム、秘書野郎とバカ共は任せた。」
「りょーかいです。」
「俺はこのまま連中を追う。」
「ジャンさんの指示を仰ぎます。安心してくだせー。」
アガット、ワイヤーロープで滑り降りる。
「きゃっ…」
「な、何て無茶な奴…ねえ、あたし達も追おうか?」
「いや…アガットさんが言ってただろ?秘書とレイヴンを放置出来ないよ。」
「そうですね…」
というか、そこまで考えているから任されたのだ。
「むー…そうね、悔しいけど、あの連中はアガットに任せるしかないか…」
「…あ、そうだ!アルさん…怪我!」
「…自分でやった奴だし、何処を撃てば一番被害が少ねーかは分かってるよ。だいじょーぶ。…その、ごめん…」
傷つけようとしてしまって。
「…?何のこと?」
「もう少しで、エステルを撃ち殺すとこだった…皆も、怪我させちゃったかも知れない…」
だから、ごめんなさい。
「こーら。」
「…へ?」
「アルは操られてただけでしょ?それに…自分で止めたじゃない。」
そんな。
あれは、偶然。
「けど…あれは偶然で…」
偶然あの薬に耐性があっただけで。
「あーもう!悪いのはあの黒装束!アルじゃないでしょ!?」
「そうだよ。操られてたにしても、誰も傷つけちゃいないじゃないか。」
「エステル…ヨシュア…」
そうでなければ、きっと撃ち殺してしまっていた。
もっとも、その前にアルシェムが殺されているだろうが。
「…そうですよ。好きでやろうとしたわけじゃないでしょう?」
「当たり前じゃない…誰が好き好んで大切な人達を傷付けたがるよ…」
「じゃあ、アルさんは悪くないですよ。」
「クロー…ゼ…ありがとー…」
思わずクローディアといいそうになった。
偽善でもよかった。
ただ、救われたかった。
その後、市長秘書やレイヴンをマノリアの風車小屋に拘禁した。
さあ、やってみよう。
では、また。