雪の軌跡 作:玻璃
脚本:ハンス
演出:ハンス
音響・照明:出演していない人たち。
キャスト
ナレーター:ジル・リードナー
紅騎士ユリウス:エステル・ブライト(遊撃士協会による協力)
蒼騎士オスカー:クローゼ・リンツ
白の姫セシリア:ヨシュア・ブライト(遊撃士協会による協力)
紫騎士ブラッド:アルシェム・ブライト(遊撃士協会による協力)
その他もろもろ:名前忘れたごめん。フラッセさんとかしかわかんない。
用語
上手:舞台を客席から見て右側。
下手:舞台を客席から見て左側。
サスペンションライト:いわゆるスポットライト。上からあたる光。
あたるときは正面からの光も一緒に照らされている。
地明かり:いわゆる普通に舞台に照明が当たっている状態。
シーリングライト:正面から顔が見えるようにあてる光。
場転:場面転換の略、だったと思う。
では、どうぞ。
緞帳が上がり、ナレーター:ジルがゆっくりと話し始めた。
「時は、七耀暦1100年代…約100年前のリベールでは、未だに貴族制が残されていました。その一方で商人達を中心とした平民勢力の台頭も著しく、彼らと貴族の対立は日増しに激化し…王家と教会による仲裁も効を奏さなかった…そんな時代。時の国王が病で崩御され、1年程過ぎた頃。早春の夜のグランセル城の空中庭園からこの物語は始まります…」
そこまで話し、ジルは動くサスペンションライトを引き連れて舞台袖に消えた。
そして、照明がつく。
舞台上には、
「街の光は、人々の輝き…あのそれぞれに幸せがあるのですね…ああ、それなのにわたくしは…」
そこで、
「…姫、ここにいらっしゃったか。そろそろお休みなさい。良き年頃の姫君が夜更かしなぞするものではありませぬぞ。」
「ブラッド様の仰る通りですわ、姫様。」
「お身体に障ります。」
「良いのです。わたくしなど、病にかかってしまえば…」
おだまりわがまま姫。
と思わず言いそうになるのをこらえて、セリフを続ける。
「良くなどありませぬ。セシリア様はリベールの至宝…王国を統べる方なのですからな。」
「ブラッド殿…ですが、わたくし…このままでは争いの火種となってしまいます。そうなるくらいなら、いっそ…」
「姫には幸せになる権利がおありだ。愛してくれる男が2人もいらっしゃる。」
そっくりそのまま言ってやりたいくらいだ。
幸せになる権利があるのだと。
「かの帝国を退けた猛将オスカー様と…」
「近衛騎士団長のユリウス様…」
「「はあ~、どちらも素敵ですわ♪」」
どうでも良いことだが…
このメイド、キモい。
「…オスカー…ユリウス…わたくしは、どちらを選べば良いのでしょう…?」
暗転し、役者、舞台装置ともに動く。
まずは
「覚えているか、オスカー?幼き日、棒切れを手にしてこの路地を駆け回ったことを。」
次に、
「ユリウス…忘れることなど出来ようか?君と、セシリア様と無邪気に過ごしたあの日々…掛け替えのない宝だ。」
「ふふ、あの時は驚いたものだ。まさかお忍びで来ていたのは私だけではなかったとはな…」
「舞い散る桜の如き可憐さと清水の如き潔さを兼ね備えた少女…セシリア様はまさに自分達にとって太陽だった。」
どんな少女だ。
突っ込みを入れたいのをこらえ、出番を待つ。
なんでこんなクレイジーな舞台装置を作ったんだこいつらは。
「だが、その輝きは日増しに陰りを帯びている…貴族と平民の対立はもはや避けられぬ…姫の嘆きも無理はない…」
「そして…ああ…何と言うことだろう。その嘆きを深くしているのが他ならぬ我らの存在だとは…」
…来た。
「…オスカー、ユリウス。」
「ブラッド殿!」
「まさか一緒にいるとは思わなかったぞ。…オスカー。」
さあ、引き離そう。
ややこしいことにならないうちに。
「はい、ブラッド殿。」
「クロード議長が貴殿のことを探していたぞ。早く行ってやると良い。…ユリウス。」
「はい。」
「お父上…もとい、ラドー公爵から伝言だ。…可及的速やかに帰って来いとな。」
「いっ…はい!」
「急げ。立ち止まるな。」
同時に2人にあたっていたサスペンションライトが消える。
「…立ち止まれば、後はないのだ…顧みることすら赦されず、戦うしか道は残されぬ…女神よ。彼らに慈悲を…」
暗転、上手に公爵と
まずは上手だけに地明かりとシーリングライトが当たる。
激しく言い争う2人。
聞いていても仕方がないので、台本を読み直す。
下手にあたった地明かりとシーリングライトが消えると同時に、上手にスタンバイ。
照明が、当たる。
「…帝国を止めた騎士よ。黎明の騎士ブラッドよ。貴男は…迷わないのか…?」
「久方振りにその名で呼ばれたな…いや、迷わぬよ。オレの道は常にオレの前にある。今のオレの道は、セシリア様に続く道だ。」
「そう…ですか…」
「迷うなユリウス。己が信ずる道を行け。…迷ったなら…オレがいくらでも聞いてやる。」
うわあ、痛々しい。
「ブラッド殿…はい。」
上手から下手へ移動、照明も切り替わる。
「…オスカー。」
「ブラッド殿…自分は…く…」
「…どうした、オスカー?」
「いえ、何でもありません。」
クローディアは将来狸に化けるかもしれない。
まあ、ずっと先だが。
「…ラドー公爵も卑怯な真似を。」
「…え?」
「ユリウスとの決闘のことは聞いている。オレは立会人をせよと議長と公爵から頼まれた。…何故不正を言い出さぬのだ?」
みっともないからだと。
分かっていて問う。
「…騎士たる者、不覚を取ることは赦されません。…自分の責任です。」
「騎士たる者の悲しき性だな…呑んでおけ、オスカー。」
「これは…ティアの薬…?」
※ちなみに本物です。
「安心しろ。対立が始まる前に手に入れたものだ。誰かの意志に毒されてはおらん。」
痛々しい発言の修正を求めます。
まあ、全部ジルに却下されたのだが。
「…ありがたく頂きます。」
「…迷っているのか、オスカー。」
「…はい。どうして…こうなってしまったのだ…」
今客席を見て思ったことだ。
なんだか、キノコ頭の機嫌が悪い…
不味いかも知れない。
「起きたこと、過ぎたことは悔やんでも結果を変えられはせぬよ。だから、迷うなオスカー。それではユリウスどころか不逞の輩にも劣るぞ。」
「…はい。肝に銘じます。」
暗転、サスペンションライトがジルにあたる。
後ろでは絶賛場転中。
間に合え。
と、全員が思っていた。
無茶すぎる。
無理やり感が半端ない。
でも、三部作です。
きっと分かる人はいると思うんですよね。
『ブラッド』の相手が誰なのか。
では、また。