雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
前日、稽古を終えた後は手伝いに奔走した。
「これで良しっと…」
あらかた手伝いを終え、休憩しようとしているとエステル達が近づいてきた。
「あれ、アル?」
「あ、エステル、クローゼ、ジル。どーしたの?」
「今から夕食会をしようと思うんですけど…」
「あー、行ってもいーなら行くよ?」
一線は引いておく。
いずれ、会わなくなる人たちなのだから。
「モチ、良いに決まってんでしょ。てか来なさい。」
「あはは…」
アルシェムは、強制的にクラブハウスへ連行された。
「お待たせ~。」
「ふ~、みんなお疲れ~。」
「お疲れ様、ジルさん。」
「早速料理を注文するか。」
料理を注文し、待っている間に話す。
「あ~、もう疲れたわよ…」
「お疲れ様、ジル。でも今日で終わりなんじゃねーの?」
「そうよ。ホント、気合い入れ直さなきゃ。新しい仕事も出来たことだしね。」
「新しい仕事?」
…手伝えることなら手伝っておこう。
それが、遊撃士だから。
「後で相談するわ。…じゃ、エステル、アル、ヨシュア君。明日は宜しく頼むわね!」
「うん、任せて!」
「精一杯頑張らせて貰うよ。」
「右に同じ。じゃージル、乾杯の音頭でも取ってみねー?」
話を長引かせたくなかったし、何よりも飲み物が来たので話を中断させた。
「そうね。カンパーイ!」
「乾杯。」
思いっきり騒いで、ソフトドリンクを呑んで。
疲れ切った皆は、眠りについた。
だけど…
アルシェムは、眠れなかった。
「…アルさん…?眠れないんですか?」
クローディアはなぜか起きていたようだ。
まあ、気になったのだろう。
「はい…まだ…信じられなくて…寝たら、醒めちゃうんじゃないかって…」
「醒める…ですか?」
「だって…おかしいでしょ?犯罪組織にいたはずの人間が…こんな、幸せな夢を見られるなんて…嘘だとしか思えない…」
一瞬後で、殺されていてもおかしくない世界で生きていたのに。
皆が平和すぎて。
泣きたく、なった。
「嘘なんかじゃありませんよ。アルさんが掴み取った平和です。」
「平和…ですか…?」
「…え?」
平和なんて、一時的なもの。
すぐに、混沌と混乱が待ち受けている。
「今に、大変なことが起こる…そんな気がしてならないんです。」
「…それは。」
「…わたしから言えるのは1つだけです。…情報部に、気を付けて下さい。」
一番キナ臭くて、伝えられるのはそこだけだから。
「…!」
「助けに行けるなら、行きますから。だから…捕まらないで下さい。」
「…分かりました。肝に銘じます。…もう、遅いですし寝て下さい、アルさん。」
優しいのか、偽善なのか。
嘘でも良いから、優しさであって欲しかった。
「はい。…おやすみなさい、クローゼ…」
学園祭当日、用意を済ませた後は、自由行動にさせてもらった。
集団で回るのは慣れないのだ。
「…アイツは…まさか、ゲオルグ…?…まさかね、こんなとこにいる訳ねーよね…」
ふと目を逸らすと、そこには白銀の髪の…
「…まさか、か…レオン兄。」
「?…少し聞きたいことがあるのだが。」
「何ですか?」
どうして、話しかけてくるんだろう。
今は敵なのに。
「お前の記憶は戻っているか?」
「…?何のことですか?」
それは、こちらのセリフだ。
「いや…良い。急に済まなかった。ではな。」
「…はー…待って下せーね?記憶はさておき、お礼くらいはさせて下さいませんか?」
「…何のことだ?」
しらばっくれるつもりか。
でも、そうはいかない。
「孤児院の火事。あの場にいたあなたにはじじょーを聞くひつよーがあるんですよ?」
「…聞くな。」
「答えられねー、ですか。…はあ。これ、あげます。」
「…何だ?」
お守りだ。
発信機付きの。
「お守りです。あなたのばーい、めんどくせーことに首を突っ込みたがりそーですからね。」
「…否定は出来ないな。」
「じゃー、また会いましょー。何時か何処かで、機会があるのなら。」
すぐに壊されるのかもしれなくても。
少しだけでも、繋がっていたかったから。
「…ああ。」
レオン兄が去った後、劇の準備を知らせるアナウンスが流れた。
「行くか…」
控え室に行き、更衣室で手早く着替える。
「お待たせ。」
「何でギリギリなの!?もう…」
「…少し…考え事してた。」
とても、酷い顔をしていたようで。
エステルに心配そうな顔をされてしまった。
「…もしかして…記憶が?」
「後で話すから…きーて?」
「うん…」
そうして、皆が位置につき…
緞帳が、上がった。
おお、今回は短かった。
次回から、三部作「白き花のマドリガル」開幕です。
表記方法にちょっと問題ありかもしれないです。
では、また。