雪の軌跡   作:玻璃

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時系列は狂っていません。
念のため。

では、どうぞ。


事情聴取

遊撃士協会(ギルド)に戻り、報告を済ませる。

「終わりました。」

「…言ってた奴、全部かい?」

「はい。」

しれっと答えると、ジャンの顔が異様に引きつっていた。

「で、出鱈目だ…」

「こんなものですよ。」

実際、そんなに時間はかけていないとアルシェムは思っている。

あくまでアルシェム基準なので他人が見れば…

まあ、ジャンと同じ反応をするとだけ言っておこう。

「いやー…助かるけど…無茶、してないかい?」

「はい、だいじょーぶです。」

そこに、何故か赤毛がやってきた。

「…驚いたぜ。まさか本当に終わらせてくるとはな…」

「あー、アガット。そーいえば、じじょーちょーしゅしなくていーんですか?」

「…今からやるんだよ。おら、2階行くぞ。」

「はい。」

アガットに腕を引っ張られて2階へと上がる。

事情を大雑把に話すと、

「…そうか。」

とだけ言った。

「恐らく、『あの場所に孤児院があること』が不都合な人によるはんこーだと思います。じゃなきゃ、遊び半分であんなとーそつの取れた集団使わねー。」

というか、ぶっちゃけあれって情報部なんじゃないかとアルシェムは睨んでいる。

推測ではなく、確信の域で。

「愉快犯じゃねえってことか…」

「これで動機がありそーな人物は絞れますよ。」

怪しいのは、ダルモア。

ギルバートに…

他は、該当しそうにない。

「ああ、権力者共はああいうのを嫌うからな…」

「…これはまだ裏付けを取ってねーんですが…最近、ダルモア邸にお偉方が来ることが増えたそーです。」

「…臭いな。」

同感である。

ナニをしているかは知らないが、これだけでも洗う理由になる。

追加で情報を投下しておく。

メルから教えて貰った情報だ。

「それに、ダルモア市長には借金があるという情報があります。やっぱり裏付けはまだですが…時間の問題でしょーね。」

「よし、その方向も視野に入れておく。勝手に動くんじゃねえぞ。」

シェラザードよりはアガットの方が頼りになるな。

まあ、見下されてはいるのだろうが。

「分かってますよ。ですが…」

「まだ気になることがあんのか?」

「あの集団です。…何故あんなエグい集団が…」

十中八九情報部の連中だが、あれが正規軍からの引き抜きだけで構成されているとは到底思えないのだ。

何人かは絶対に猟兵団から引き抜かれているに違いない。

「エグい?」

「手際が良すぎるんですよ…油を撒いて、火属性アーツ。狙ったところを外さず炎上させ、辛うじて形が残るくらいに抑える…」

「…狙ってたんなら、プロだな。」

そんなプロは、求めてはいない。

計算ずくで進めるこの方法は…

恐らく…

「更に、執拗なまでの荒らし様。猟兵団と言われても、おかしくないような所業です。何であんな連中がリベールに…」

「…誰かが招き入れたってのか?」

「はい。そうじゃなきゃ、あんな連中がリベールで検挙されてないわけがないんです。…カシウスさんがいたら、絶対見逃さない。」

「まあ、あのオッサンも腐ってもS級だしな…」

腐ってはいない。

まだまだ現役の恐ろしい御仁だ。

「それに…タイミングが…」

「…タイミングだと?」

「はい。カシウスさんがいない間に大きな事件が起きている気がしてならないんです。」

気のせいではないと思いたい。

だが、気のせいと考えるにしては、あまりにも出来すぎていた。

「…まさか…考え過ぎじゃねえか?」

「そう思いたいんですけどね…カシウスさんも、何もないにしては遅すぎる…何かあったのなら問題だけど…」

「ったく、あの親父は…」

心配掛けやがって、だろうか?

だが、心配しているわけではない。

早く帰ってきてくれないと、アルシェムだけでは対処できなくなってしまう…

「…済みませんね、アガット。カシウスさんが面倒な仕事を押し付けたでしょー?」

「…何でお前が謝る?」

「一応、戸籍上は親なので。」

戸籍上は、と強調する。

だって、カシウスはアルシェムの親なんかじゃないから。

だけど、本当の親と言える人間が存在するのかどうか…

アルシェムには、まだ分かっていない。

「ああ…そういやお前、確か養子だったな?本当の親はどうした。」

「…分からねーんですよ。」

「…何?」

「気付いた時には、もういませんでしたから。」

気付いた時には、捨てられていた。

雪の中で、埋もれかけて。

あの人に拾ってもらえていなければ、アルシェムは今ここにはいない。

「…悪かった。」

「いえ…でも…ちゃんと…家族は、いたんです…アレさえ、なければ…今だって、一緒にいられたはずなのに…」

「…百日戦役か?」

「…厳密に言えば違いますが…言えません。」

《ハーメル》の一件は国家間で黙認することが決まってしまっている。

言えるわけがなかった。

…言えるわけが、なかった。

「口止めでもされてんのか?」

「…そのよーなものです。…済みません。」

「謝るこたぁないさ。…俺はそろそろ行く。あんたも早く立てよ。」

「…はい。」

そして、アガットは遊撃士協会(ギルド)から出て行った。

 

「…分かってる…言われなくたって、分かってる…!あんたには言われたくねーよ…!」

あんただって立ってはいないくせに。

まだ、立ち上がれてもいないくせに。

 

あまり時間をかけるわけにはいかなかったので、色々と呑みこんで下に降りる。

「あ、アルシェム君。」

そこには、ジャンしかいなかった。

「…エステル達はまだですか?」

「ああ…もう報告を終えて出たよ。」

いつの間に行ったのか、アルシェムには分からなかったが知らないうちに出ていたらしい。

「そーですか。じゃ、わたしも行きますね。」

「楽しんでおいで。」

「…はい。」

楽しむことなど、本当にできるのだろうか。

ちょっとした不安を抱えつつも、ジェニス学園へと向かうアルシェムだった。




アガットが忘れてたとか、そういうわけじゃないですよ?
単純に、時間がなかっただけなんです。

では、また。

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