雪の軌跡   作:玻璃

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のど風邪が鼻風邪にシフトチェンジしました。
いったい何が起きてんのこれ?

では、どうぞ。


学園祭の依頼と変態紳士

悪夢だった。

このところ、眠ると悪夢しか見ない気がする。

「…る…アル…」

ああ、またこの夢だ。

エステルが、工房長が、中央工房の人間が捕まっている。

そして、ティータが泣き叫んでいる。

王国兵が、エステル達に銃を向ける。

「…して…」

エステル達は、このままでは殺されてしまう。

けれど…

死んだのは、その王国兵の方。

「アル…!」

信じられないくらい冷たい目をしたヨシュアが、王国兵の首を掻っ切っていく。

周囲を取り囲んだ王国兵が、中央に向けて銃を向けて…

「…ねがい、殺さないでっ!」

「アルっ!?」

そこで、目が覚めた。

「はあはあ………エス、テル…?生きてる…」

「寝ぼけてるのかい?」

ああ、あれは夢だったのだと。

信じることが、出来ないでいる。

何度も繰り返し見た夢。

有り得ないと、何度も頭の中で繰り返したのに。

それは、もしかしたら、本当に起こるのかも知れなかった。

「…そー、みてー…ごめん、もーだいじょーぶだから…」

「動けそう、アル?」

気分を変えるために、今の状況を聞く。

「うん。…放火、どーなった?」

「あの赤毛がかっさらっていったわよっ!」

やはりか。

妥当な判断だ。

エステル達では、まだ荷が重い。

「…そっか。じゃ、アガットに負担が掛からねーよーに頑張らねーとね?」

「ガクッ…何でそうなんのよ!」

「落ち込んだって仕方ねーし。」

それに、危険に晒したくはなかった。

「でも…」

「兎に角下に降りよー。」

エステルの気分を変えるために、ギルドの一階へと降ろす。

そこには、受付のジャンと何故かクローディアがいた。

「大丈夫かい?」

「ご心配おかけしました。もーだいじょーぶです。」

「そうかい?なら良いけど…」

何かを考え込んでいたクローディアが、顔をあげた。

そして…

「…あの、ジャンさん。遊撃士は民間の行事にも協力して頂けるんですよね?」

「ああ。内容にもよるけど。学園祭の警備はうちだしね。」

「でしたら、エステルさん、ヨシュアさん、アルシェムさん。その延長で私達のお芝居を手伝って頂けないでしょうか?」

とんでもないことをのたまった。

「え…?」

「裏方ならって言いてーんだけど…どーもそーじゃなさそー…」

「あはは、お察しの通りです。毎年、学園祭の最後には講堂でお芝居を行っているんですが…とても重要な役が決まらなくて…」

やめた方が良い。

嫌な予感しかしない。

ということで…

「エステルとヨシュアに丸投げけってー。」

「ちょっとアル?」

「わたし大根だし…」

嘘ではある。

が、あまり乗り気でないのは確かだ。

「このままだと中止になってしまうんです。楽しみにしてくれているあの子達に申し訳なくて…生徒会長に話は通してあります。彼女がかなり乗り気で…一度連れてきて、と…」

「実は搦め手得意か…」

拙いが、感情を織り込んだ交渉だ。

断りにくくなっているが、やりたくないものはやりたくないのである。

「ど、どうしてあたし達なの?アルじゃないけど、お芝居なんてやったことないよ?」

「片方の女の子が演じる役が武術に通じている必要があって…エステルさんかアルシェムさんなら上手くこなせると思うんです。」

「な、成る程…」

女子が武術?

え、じゃあ男子はヘタレ?

気になったので聞いてみる。

「じゃーヨシュアは?」

「それを私の口から言うのは…」

「言うのは?」

「…恥ずかしい、です。」

それで見当がついた。

「え…」

きっと女装だ。

そんな電波を受信したから!

「…うん、ヨシュアなら出来る。」

「一石三鳥じゃない。こりゃ、やるっきゃないよね♪」

「…因みにジャンさん、アリですか?」

まあ、最後のあがきをしてみるが、無駄だろう。

「勿論、アリさ。アガットのお蔭でそれなりに余裕も出来たし…良かったら行ってくると良い。」

「やったね♪」

「ふう…何だか嫌な予感がするけど。頑張らせて貰うしかないか。」

やっぱりね。

けれど、人不足は解消できてはいないはず。

ここは…

「でも、ちょっとは掲示板を減らすほーがいーだろーし…」

「クローゼさん、付き合ってくれる?」

「あ、はい。」

いやいやいや、クローディアはダメだろう。

一応民間人…

じゃないな。

王族だし。

「じゃー…倉庫の鍵と整備鞄、探索の護衛は任せた。それ以外はやるから。」

「む、無茶じゃない?」

「そっちは3人、わたしは1人。問題なし。」

むしろ、どこが無茶なのか…

「1日で終わらないんじゃ…」

「終わったら手伝うから。」

「いや、あたし達じゃなくて!」

「?ああ。終わる終わる。じゃ、お先に。」

何故心配されているのかはわからなかったが、まあ、良しとしよう。

アルシェムは、依頼を始めた。

「まずは燭台かな。何かやな予感…」

ラングランド大橋を越え、ダルモア邸へと向かう。

門をくぐり、一応怪しい者ではないことをアピールするために庭師に話しかける。

「こんにちは。素敵なお庭ですね?」

「ああ、ありがとう。何の用だい?」

「準遊撃士です。ギルバートさんからの依頼で来ました。」

そういいながらバッジを見せる。

こういう時、遊撃士は便利だ。

「そうかい。中にいるからこのまま入んな。」

「ありがとうございます。」

庭師に背を向けて入ろうとすると、忠告を受けた。

「ああ、でも最近はやたらお偉方の出入りが増えたから来たら帰って貰うことになるかもだぞ。」

「…分かりました。」

お偉方、ねえ。

何でこの時期に市長邸に来るんだか。

屋敷の中に入り、すぐそこにいた秘書に話しかける。

「済みません、ギルバートさん。」

「ああ、遊撃士の…」

「燭台の件で来ました。状況をお教え願えますか?」

秘書は、大げさに台座を示した。

「ご覧の通りさ。至急、捜査をお願いしたいんだが…」

「お引き受けします。」

「ありがとう。…あれはダルモア家の家宝でね。もし売りに出されたら数百万ミラの値が付くだろうと言われるほどの名品さ。」

成程。

「…素人ではありませんね。手掛かりはありませんか?」

高額なものになればなるほど捌くルートが必要だ。

「ああ…これを見たまえ。」

「『今ここに巣くうのは獣よりも獣らしい獣等…』まさか…この言い回しって…やっぱり、『怪盗B』。」

…前言撤回。

捌くルートは必要ない。

こいつならば、家に飾ってキャッキャウフフするだろう。

「空になった台座の上に残されていたものだよ。」

「…ええ、大変参考になりました。では、失礼して…」

「…へ?ちょ、ちょっと…?」

良い機会だ。

ダルモア邸を探らせてもらおう。

「まずは家宅捜索からですね。」

「それはもうやった。だから探しに出てくれないか?」

ギルバートの目には、焦りと懇願の色が含まれていた。

…怪しい。

「…分かりました。」

そのまま外に出る。

すると、何故かそこには庭師と執事のような人物がいた。

「…え、良いんですかダリオさん?」

「はい。今日は交代もいませんし…少し休憩してきてください。」

「…はい!」

そして、庭師が去って行った。

「…怪盗B。…しょーじきにしょーたいみせねーと蜂の巣にすっぞ。」

「…これはこれは…いつから?」

ダリオの顔が、歪む。

…やはり…

「最初から。」

「言ってくれるね…もう記憶は戻ったのかな?」

「記憶…?」

そもそも、失ってはいない。

いぶかしげな顔の出来上がりだ。

「おや、これは失礼。」

「燭台、返してくれる?」

「君の慧眼に賞賛を込めて進呈しよう。」

気持ち悪っ!

「わたしのじゃねーよ。さっさと渡して。」

「無粋だな。」

そういいつつも、どこかから取り出した燭台を渡してくる。

「最初からこーしてりゃいーのに。さて…これで公然とぶっ飛ばすこーじつが出来たわけだけど?」

「おお怖い。失礼させて貰うよ、銀の吹雪。」

「失せろ変態仮面。」

ダリオもとい変態仮面が消えたところで、ダルモア邸へ戻る。

「…見つけましたよ。」

「流石遊撃士だな!」

「いえ、犯人は逃がしてしまったので。」

というか、恐らくまだこの中にいるのだろうが。

「いやいや、見つかって良かったよ!ありがとう。」

「犯人の手掛かり等を探すためにこちらを捜査させて貰えますか?」

とっ捕まえてもいいのだが…

「いや、それには及ばないよ。第一、私の依頼は犯人の逮捕ではなかったろう?」

これだ。

余程、立ち入られたくないらしい。

「…そーでしたね。では、もしも気になることがおありでしたら、遊撃士協会へお願いします。」

「うむ、そうするよ。」

「では、失礼します。」

怪しいことこの上ないダルモア邸から出て、次の依頼へと向かうことにしたアルシェムだった。




昨日まではのどが痛かった。
今日起きたら鼻がずるずる。
夜の間に何が起きたというの?
とっても不思議です。

では、また。

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