雪の軌跡 作:玻璃
新成人の皆さんおめでとうごぜえやす。
新成人だからって、未成年じゃないわけじゃない。
お酒を飲むならお気を付けを。
では、どうぞ。
そこに、見覚えのある赤毛がやってきた。
「…そこまでにしとけや。」
「あ、アガット。こいつ等吹っ飛ばしていー?」
「好きにしろ。」
許可がもらえたので、潔く吹き飛ばすことにした。
「サンクス。寸頸!」
「ぎゃあっ!?」
そして必死でエステル達のところに戻る。
「あ、アガットの兄貴!?」
「き、来てたんすか…」
「ど、どうしてあんたが…ていうか、知り合い!?」
アガットはその言葉に耳を貸さず、赤いのに近づいた。
「…レイス…」
「は、はい、何でしょう?…ふぎゃっ!」
どうやらレイスというらしい男を豪快パンチで吹き飛ばす。
どんな腕力してんだコイツ。
「お前等…何やってんだ?女に絡むわガキを殴るわ…ちょっと弛み過ぎじゃねえか?」
「う、うるせえな!チームを抜けた…ほぎゃっ!」
「…何か言ったか?」
…察するに、アガットは昔ここにいたらしい…
これだけの暴力で、不良をすっかり黙らせてしまった。
「全く、乱暴なんだから…第一、どうしてあんたがタイミング良く現れるわけ?」
「ジャンの奴に聞いただけだ。どこぞのヒヨッコ共が放火事件を捜査してるってな。さてと…おい、坊主。」
アガットは、クラムの方へと向き直った。
「な、何だよ…?」
「1人で乗り込んで来るたあ、なかなか気合いの入ったガキだが…少々、無茶したようだな。あんまりおっ母さんに心配掛けんじゃねえぞ。」
「え…」
クラムが扉の方を向くと、そこにはテレサがいた。
「クラム…」
「せ、先生!?」
「どうしてここが…」
様子を見るに、怒ってはいなさそうだ。
あくまで怒っては、だが。
「ギルドで事情を伺って案内していただきました。クラム、あなたという子は…」
「こ、今度だけはオイラ、謝んないからな!火をつけた犯人を絶対に…」
「クラム!」
テレサの様子を見たクローディアが止めに入る。
「テレサ先生…どうか叱らないであげて下さい。」
「いいえ、叱っているのではありませんよ。…ねえ、クラム…あなたの気持ちは良く分かります。皆で一緒に暮らしたかけがえのない家でしたものね。でもね…あなたが犯人に仕返ししても、燃えてしまった家は戻らないわ。」
「あ…」
それは、当然のことで。
物語のように都合よくすべてが元通りになることはなくて。
だからこそ、テレサはクラムに伝えるのだ。
「あなた達さえ無事なら、もうそれだけで良いの。他には何も望まないから…お願いだから…危ないことはしないで頂戴。」
それだけが、テレサの幸せなのだと。
「せ、先生…ううううううっ…うわああーん!」
「グス…こういうのには弱いかも…」
「はい…本当に、無事で良かった…」
本当に、無事に助けられて良かった。
幸い、アルシェムの怪我はそこまで酷くはない。
体力が、もう保たないだけで。
「ったく…これだから女子供って奴は。おい、小僧。皆を連れてさっさと引き上げろや。どうもこういうのは苦手でな。」
「構いませんけど…アガットさんは?」
「決まってんだろ…このバカ共が犯人かどうか締め上げて確かめてやるんだよ。たっぷりと灸を据えてからな。」
だけどそれでも、この義親子にはそれを悟られたくなかったから。
必死で、意識を保っていた。
「ひええええっ、か、勘弁して下さいよ~!」
「成る程…そういうことなら邪魔したら悪そうですね。」
そのまま、テレサとクラムは孤児院へと帰ることになった。
エステル達は、テレサとクラムの見送りに出ていた。
「本当に、ありがとうございました。何とお礼を言って良いやら…」
「お礼なんか良いですってば。これも仕事の内ですから。」
「いーんですか?マノリアまで送らなくて…」
少しでも話すのは、違和感を無くす為。
意識が飛びそうなのを、隠して。
「ええ、メーヴェ海道は私の庭ですから。これ以上何かして頂くわけには…」
「気にしなくても良いのに…」
「先生…せめて私だけでも。」
それでも、襲ってくる眩暈を振り払いつつ。
「ふふ、あなたは学園祭の準備に専念して頂戴。皆楽しみにしていますよ?」
「…はい。」
ヨシュアが戻ってきたのにも、気付けずにいた。
「良かった、間に合ったか。ボートは返してきたよ。」
「あ、サンキュ☆」
「済みません…お一人で行かせてしまって。」
声で判断することは出来ても…
今は、気配を読んでいられる状況ではなかった。
「気にしないで。大した手間じゃなかったし。」
「ヨシュアさんも…本当にありがとうございます。」
「クローゼ姉ちゃん…それと、エステル姉ちゃんとアルシェム姉ちゃん、ヨシュア兄ちゃん…今日はありがとな。オイラなんか助けてくれてさ。」
クラムの言葉に、精一杯の虚勢を張って応える。
心配をかけるわけにはいかないから。
「気にしねーの。気持ちは分からねーでもねーから。弱かろうが立ち向かえるのは、すげーことだよ。今度からは絶対に自分で出来る範囲でやればいー。」
「アルシェム姉ちゃん…」
「例えば皆を支えたりとか、ね?出来ねーことやって心配かけるよりはずっといーことだよ。」
「…うん。」
自分が途轍もなく気持ち悪い戯言を吐いているのが聞こえる。
「犯人を捕まえるのはわたし達遊撃士に任せて。こんな時のためにいるんだから。クラムは、クラムにしか出来ないことをやってほしーな。」
「オイラにしか出来ないこと…うん、姉ちゃんの言いたいこと、何か分かったような気がするよ。」
何とか言い終わって。
もう、何もしなくてもいいかな?
「…ふふ、本当に、何から何までありがとう。それでは皆さん、私達はこれで失礼します。」
「あ、クローゼ姉ちゃん!お芝居、楽しみにしてるぜ!」
「うん、頑張っちゃうから皆で一緒に見に来てね。」
「あったり前だよ!またな、姉ちゃん達!」
そして、やっと立ち去ってくれた。
…やっと、立ち去ってくれた。
「は~、良かったぁ。」
「ふふ、吃驚しました。あんなに元気になるなんて…」
「あ、落ちる。」
ああ、もう、ダメだ。
「…え?」
「多分…一時間、程…目が、覚めねー…かも、だけど…心配、しねーで…」
「ちょっとアルっ!?」
気が抜けて、そのまま意識が消えていった。
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ありがたやありがたや。
では、また。