雪の軌跡 作:玻璃
それはね、間違ってバター餅を入れちゃったからだよ。
あはは、そっかー…って、喰えるかーっ!
な、お正月を過ごしたことがあります。
では、どうぞ。
開口一番、メルはアルシェムを叱りつけた。
「いい加減になさいアルシェム!まだ動いてはいけないと言っているでしょう!」
「それどころじゃねーのよ…どいて、メルせんせー。行かなきゃ…」
アルシェムの様子に疑問を覚えたエステルが聞いてくる。
「どうしたのよ、アル?」
「子供が1人…さっき、話を止めたときに外で聞いてた。で、走って行ったみたい。」
「あ、あんですって~!?」
「一番足が速いのはわたし。動けねーんじゃねーから、行く。」
ベッドから起き上がり、装備を整える。
「アルシェム…」
「エステル、ヨシュア。行くよ。」
「ああ!」
急いで外に出ると、マリィが駆け寄ってきた。
「クローゼお姉ちゃん!」
「マリィちゃん、どうしたの?」
「あのね、あのね!クラムのやつが、飛び出して行っちゃった…!」
半泣きで、クローディアにしがみ付いている。
「やっぱり!」
「心配しないで、マリィちゃん。クラム君は必ず連れ戻すから。マリィちゃんは他の子達の面倒を見てあげてね。」
「うん…お願いね、クローゼお姉ちゃん!」
マリィはそう言って、《白の木蓮亭》の中に入って行った。
「急いでルーアンまで引き返しましょ!」
「はい…!」
「先行するよ。…無茶はしない程度に。」
「気を付けてね。」
アルシェムは、エステル達を置いて走り出した。
節々が痛む。
けれど、行かなければ。
「くっ…やっぱり無理かな…でも、行かなきゃ…」
最悪の事態が考えられる限りは、急がなければ。
ルーアンに入り、何セルジュか先にクラムを見つける。
「クラム!」
叫ぶが、聞こえていないようだ。
ラングランド大橋をクラムが越えたところで、橋が上がり始めた。
「く…間に合えっ!」
勢いをつけて駆け通し、橋を飛び越して転がる。
「いってー…待って、クラム!」
少し眩暈がするが、構っていられない。
クラムとほぼ同時に、倉庫に駆け込むことが出来た。
「捕まえたっ!」
声と同時に、クラムを抱きしめる。
もう、どこにも行かないように。
「放せよ、アルシェム姉ちゃん!」
クラムが暴れて、頭が揺れる。
マズい。
眩暈が、再発した。
「…っ待って、クラム…落ち着いて!」
「…アルシェム姉ちゃん?」
「てめえは昨日の!?」
不良が何かを言おうとしているが、それどころではない。
「…クラム、帰るよ。」
「何でだよ!?だって、」
「違う。間違いないよ。こいつ等じゃない…こいつ等じゃ、ない。」
「じゃあ、誰なんだよっ!?」
クラムが暴れる。
アルシェムは意識が飛びそうになるのを堪えながらクラムに説明した。
「動きが…違いすぎる。温い。それに…こいつ等にそんな度胸はないよ。楽しいから燃やすなんて考えもしない。」
「お前…舐めてやがんのか?」
「うん、舐めてる。だってバカだし。」
ゆっくりと、眩暈が引いてくる。
それに合わせて、ゆっくりと立ち上がる。
「何だと!?」
「さて質問。マーシアっていえば?」
「知らねーよ。」
「市長が懇意にしてる人は?」
お願い。
クラムに、この言葉が届きますように。
「…コンイって何だ?」
「コインじゃねえの?」
がっくり来そうになるが、それでもまだ質問し続ける。
「…市長と仲のいー人は?」
「腰巾着じゃねえの?」
「ギルバート抜きで。」
「じゃあスタイン?」
いや、そうじゃない。
そうじゃないから…
「ばっか、秘書に決まってんだろ?」
「…ダメだこいつ等…」
もう、微笑ましいくらいの可愛らしさだ…
「さあて、お仕置きタイムといくか?」
「じょーだんじゃねー。クラム、行こ…っ!」
急に方向転換してしまったため、再び眩暈を起こしてしまう。
「あ、アルシェム姉ちゃん!?」
「くそっ…こんな、時に…!」
蹲って、必死に眩暈を追い払おうとするが上手くいかない。
「ひゃはは、チャンス到来?」
赤いのが、スタンバトンを振り翳す。
咄嗟にクラムを庇うが…
「クラムっ!…ぐ…」
位置が、悪かった。
「アルシェム姉ちゃん!…しっかりしてくれよ、アルシェム姉ちゃん!」
体が言うことを聞かない。
だけど…
「…は…っ…ま…け、るかぁっ!」
クラムを、危険な目に合わせるわけにはいかない!
そこに、息を切らせたエステル達が駆け付けた。
「止めて下さい!」
「お、お前達は…」
「く、クローゼ姉ちゃん…?」
「ナイスタイミング…いつつ…」
クローディアも、レイピアを持ってきていた。
「アルシェムさん…」
全力でクラムを庇えるように、意識を集中する。
「女子供相手に、遊び半分で暴力を振るうなんて…最低です。恥ずかしくないんですか?」
「な、何だとぉ!?」
「ようよう、お嬢ちゃん。ちょっとばかり可愛いからって…」
思わず突っ込みたくなったので突っ込む。
「あれが恥ずかしー大人の例だよ。真似しちゃダメだからね、クラム。」
「ま、真似なんかするもんか!」
「ふざけてんじゃねえ!いくら遊撃士だろうが、この数相手に勝てると思うか…?」
謎紫が凄むが、別に怖くない。
「わたしだけでじゅーぶん。」
「いや、アル…無茶じゃないかな…」
「クローゼさん、下がってて!」
エステルが威勢よく言うが、それは無駄だった。
「いいえ…私にも戦わせて下さい。」
「へ…」
「本当は使いたくありませんでしたけど…剣は、人を守るために振るうよう教わりました。…誰かを傷つけても、守らなくちゃいけないものがあります。今が、きっとその時です。」
クローディアは…
すらり、とつい昨日渡したレイピアを抜き放った。
「ええっ!?」
「業物のレイピア?」
「アルシェムさん達を放して下さい。さもなくば…実力行使させていただきます!」
凛、と言い放ったクローディアに…
「か、かっこいい…」
「…可憐だ…」
不良達は見とれた。
「可憐だ、じゃねえだろ!」
「事実は認めたら?」
「うっせえ!こんなアマにまで舐められてたまるか!俺達《レイヴン》の恐ろしさを思い知らせてやる!」
恥ずかしさを隠して言っているが、もう勝敗は決まったようなものだ。
エステルが
「旋風輪!」
で不良達を吹き飛ばし…
クローディアが
「はっ、はっ、はっ、やあっ!」
と、気合を入れて露払いをしてくれたおかげで、隙が出来た。
「こ、こいつ等化け物か…」
アルシェムは、一番近くにいた不良を吹き飛ばした。
「…寸頸!」
「ぐはっ!?」
壁にぶつかり、気絶する。
「…やりすぎたかな…はい、クラム。もうだいじょーぶだよ。」
クラムをクローディアのところに避難させる。
「す、凄いや姉ちゃん達!」
「ひゅーっ!やる~っ!」
だが、まだ立ち上がれない。
それを悟られる前に…
何とかしなくては、と思った時だった。
なんだかレイヴンの不良君たちが不良(笑)に…
愛すべきおバカ達ですよね?
では、また来週(多分)。