雪の軌跡 作:玻璃
題名のセンスはないんで、勘弁願いたい。
では、どうぞ。
ギルドから出ると、夕陽が見えた。
「わあ、もう夕方かあ…スッゴくキレイな夕陽ねえ!」
「ここの夕陽は格別だな。白い町並みに良く映えてる。」
「流石気障ヨシュア。よくそんな恥ずかしーセリフを恥ずかしげもなく言えるねー…」
さらっと言えるのがなかなか凄い。
「アルシェムさん、それ何か違うような気がします…あ、そうだ、そろそろだと思いますよ。」
「え、何が?」
「もしかして、ラングランドおーはしの跳ね上げ?」
その推測は当たっていたようで、見物のために見やすい場所に移動したところで跳ね上げが始まる。
「はぁ~、何て言うか圧巻ね。あれ、どれくらいの間跳ね上がってるの?」
「30分くらいだと思います。早朝、昼前、夕方の3回、通る船がなくなるまでですね。」
「なる程、比較的人通りの少ない時間帯だね。」
「ごーり的ではあるかな。」
平穏な気持ちでいられたのはここまでだった。
クローディアの言葉を聞いた瞬間、アルシェムは凍りつくことになった。
「…あら?アルシェムさん、チョーカー…」
「…え…っ!」
「ほんとだ。」
あれは、とても大切なもので…
リボンも含めてなくしちゃいけないもの。
考えろ。
いつまではあった…?
「…マノリアでは着けてた。ルーアンに着いてからは…ねーな。じゃー…街道?いや…ごめん、エステル、ヨシュア。多分孤児院で落としたんだと思うから…取りに行くよ。」
「え?」
「その…明日じゃダメなのかい?」
ダメだ。
いつ、何が起こってしまうか分かったものじゃない。
早く取りに行かないと…!
「…アレは…昔から、持ってたもの…みてーだから…その…」
「…分かったよ。僕らも行こうか?」
「ううん、気にしねーで。先に休んでて。…クローゼさん、途中まで送るよ。ついでだし。」
「ありがとうございます、アルシェムさん。」
付いて来にくい空気を作り、前から気になっていたことを済ませてしまうためにクローディアにはついてきてもらうことにした。
そのまま海道に出る。
ヴィスタ林道の手前で、アルシェムは立ち止まって言った。
「…ごめんなさい。」
「アルシェムさん…?」
「ごめんなさい、クローディア・フォン・アウスレーゼ姫殿下。」
クローディアが、目に見えて動揺した。
「!?な、何のことでしょうか?」
そんなクローディアの揺れた瞳を真っ直ぐ見て、アルシェムは告げる。
「わたしは、貴女を殺そうとしました。怖がらせてしまった…本当に、ごめんなさい。」
自らの罪を。
「あの…話が読めないのですが…」
「2年前、ルーアンで。わたしは、貴女を殺そうとしました。」
犯してしまった過ちを。
その言葉で、クローディアの瞳に理解の色が浮かんだ。
「!貴女…あの時の…?」
「…はい。わたしは、とんでもないことをした。赦して貰えるとは思っていません。ですが…」
「…貴女は、意思を奪われていたと聞いています。私を殺そうとしたのは貴女じゃない。貴女を操っていた人です。」
毅然と、クローディアは告げた。
だが、それだけではダメなのだ。
「…ありがとうございます。」
「いえ…貴女はカシウスさんに引き取られたと聞きました。もしかして、エステルさん達は…」
「ええ。エステルはカシウスさんの娘です。ヨシュアは養子ですが…」
「そうだったんですか…」
何か、形あるもので償いを。
目に見える形で、罪の証を。
クローディアに身に着けていて貰いたかった。
「…クローディア殿下。殿下は、武術…いえ、レイピアの心得がおありですね?」
「え?ええ…」
「では、これを。」
もしも、再びクローディアを暗殺させられそうになってしまったら、それがストッパーとなるように。
「これは…」
「わたしなりの、償いです。」
「そんな、償いなんて…」
願わくは、その剣で裁きを受けられるように。
「いえ。わたしは、それだけのことをした。だから…」
「でも…」
「…殿下。そのレイピアを抜くときは…本当に守るべきモノを守るために…そして、その守るべきモノのために他人を傷付ける覚悟をなさって下さい。」
女王として、生きていくであろうクローディアのために。
「アルシェムさん…」
「誰かのためにやることで、その誰かに責任を押し付けるのは間違いだと思うのです。…だから、受け取って貰えないならわたしはリベールを去ります。」
この言葉を、この思いを、受け取って欲しい。
烏滸がましいことかもしれないけれど、それでも。
「…分かりました。確かに、お受け取りします。」
「…ありがとーございます…わたし、行きますね。殿下のこと…エステル達には黙ってますから。」
「はい。では…」
そこでクローディアと別れ、孤児院に向かう。
1つ、肩の荷が下りた。
さあ、次は大切なものを見つけに行こう。
孤児院の扉をたたき、声を掛ける。
「夜分遅くに済みません。」
「はい。…あら?アルシェムさん。何か…?」
「その…チョーカー、落ちてませんでしたか?」
その曖昧な質問にも、テレサは優しく応えてくれた。
「チョーカー、ですか。探してみるので、入って待っていて下さい。」
「いえ、一緒に探させて下さい。お願いします…!」
「分かりました。どうぞ…」
孤児院の中に入り、探す。
すると…
「あった…!」
程なく、見つかった。
何よりも大切な、チョーカー。
黒いリボンの、雪のチョーカー。
ナくすわけにはいかなかったのに…
ナくしてしまったもの。
「良かったですね。」
「はい…良かった…」
「あ、アルシェムさん!?」
それが見つかって、腰が抜けてしまった。
「済みません。安心しちゃって…」
見つからなければ、最終手段を使わなければならないところだった。
今使ってしまっては、意味がないというのに。
非難轟々な気がしますね。
ここまでやっちゃうのって感じです。
ええ、まだやりますとも。
まだまだかかわってもらいます。
それが、『アルシェム』が生まれた意義ですから。
では、また。