雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
道中色々あったが、兎に角アルシェムはルーアン市までたどり着いた。
「
ルーアンを散策していると、いかにも不良っぽい奴等がシスターをナンパしていた。
「…やめて下さい。急いでいると言っているでしょう。」
「良いじゃんかー。」
取り敢えず、割って入ることにする。
どうも、シスターはメルのようだから。
「良くねーよ。って…メルせんせ?」
「ああ、アルシェム。もうここまで来たのですね。てっきり、もう少し遅くに着くと思っていましたが。」
それには二重の意味が込められていた。
話をぶった切る意図と。
もうここまで来なければならなかったのだという意味が。
「な、良いだろシスターさん。」
中々に空気の読めない不良君…
便宜的に赤いの、とでもしておこう。
赤いのがメルの肩に手を回そうとするので、その手をつかむ。
「メルせんせーに手を出したら…魚のエサにでもしちゃおーかな。」
「ああ?」
「粋がってんじゃねえぞガキ。」
ホウレンソウに睨まれても謎紫に睨まれても怖くないのが遊撃士。
このくらいで怯えるような人間に遊撃士は向いていない。
「…確かに精神年齢はわたしのほーが上だと思うけど。陳腐ね。」
「な、何だと!?」
「さ、帰ろー。」
そういって、メルの体を半分隠す形でラングランド大橋へと向かう。
「待ちやがれ!」
「ひつよーせーを感じねーので却下。」
その時だった。
「何をしているんだ、君達!」
誰も接近している気配を感じなかったのに、突然男の声がした。
「!?」
「さあ、行きましょう。」
平然としているメルを見る限り、まあ気にしなくても良いのだろう。
「…メルせんせ…腹話術とか得意なんだ…」
アルシェムはそうぼやきながら歩き始める。
すると、奥の方から誰かがやってきたようだ。
「待ちな、嬢ちゃん達。」
「え、あたし達?」
訂正。
誰かではない。
エステル達が、さっきの不良に絡まれていた。
「おっと、こりゃあ確かにアタリみたいだな。」
「さっきのシスター達とは段違いだぜ。」
クローディアが心細げに質問する。
「あの、何か御用でしょうか?」
が、それは逆効果だろう…
「へへへ、さっきからブラついてるからさ。暇なんだったら俺達と遊ばないかな~って。」
「え、あの…」
「…ほーちは出来ねーな…てーか、命知らず?」
このままジークにつつかれるまで見守っても良かったが、流石に看過できないので止めに入ることに決めた。
「何よ、今時ナンパ~?。悪いけど今ルーアン見物の…」
「エステル、関わっちゃダメ。めんどくせーから。」
「あ、アル。…ゲッ、メル先生っ!?」
エステルがあからさまに引いた。
「ゲッ、ではありません。全く…」
「ゲッ、さっきの…」
不良達も若干引いた。
うら若い乙女たちに向かってゲッはないだろう…
「ヨシュア、ほーちしたら?」
「お前もそんな生っちろい小僧なんか…」
めげずに謎紫がエステルに声をかけるが、それはアウトだ。
「お黙り。こいつが本気になったらあんた達ごとき、3秒でノックアウトだよ。諦めたほーがいーんじゃねーの?」
「そ、そうよ!」
「良いよ、エステル、アル。別に気にしてないから。君達が怒っても仕方ないだろ?」
いや、本気になったらのくだりは否定してくれないのか。
恐ろしや、ヨシュア。
「で、でも…」
「なに、このボク…余裕かましてくれてんじゃん。」
「ま、よゆーだろーしねー。」
事実ではあるが、これ以上はもうダメか…
「ムカつくガキだぜ…上玉4人とイチャつきやがって。」
「別にあたしはイチャついて等いませんが。仮にもシスターですよ?」
「へへ、世間の厳しさって奴を…」
人の話を聞け。
「ちょ、ちょっと…!」
「や、止めて下さい…!」
「だいじょーぶ、こいつらよえーから。」
腹いせに宣言してやる。
「な、何ぃ!?」
こいつらは、恐らくクローディア1人でも何とかなるだろう。
それくらいよわっちい。
…いや、クローディアが強いか。
「…僕の態度が気に入らなかったら謝りますけど。彼女達に手を出したら…手加減、しませんよ。」
「…ヨシュア、それはこいつらが本気で死ぬから。じごーじとくとかでもねーから。」
「なっ…」
「な、なんだコイツ…」
取り敢えず舐められているようなので、こっそり抜こうとしている不良君達の獲物を抜き取ってみる。
「は、ハッタリだハッタ…りぃ!?」
「引く?引かねー?」
そうして、その場が硬直してしまった時だった。
「お前達、何をしているんだ!」
さっきの声と寸分違わぬ声が聞こえた。
「…メルせんせ?」
「あたしじゃありませんよ。」
「ゲッ…」
「うるせえ奴が来やがったな…」
ラングランド大橋の奥から青髪の男と偉そうな男がやってくる。
「また懲りもせず騒動を起こしたりして…いい歳をして恥ずかしいとは思わないのか!」
「う、うるせえ!てめぇの知ったことかよ!」
「市長の腰巾着が…」
「何だと…」
その何だかヘタレそうな男が切れそうになった時だった。
「…おや、呼んだかね?」
男が、そういった。
どうやらこの男がダルモア市長らしかった。
「だ、ダルモア!?」
「あら、昨日ぶりですね。ダルモア市長。ギルバートさんも。」
偉そうな男はダルモアで、ヘタレそうな青髪の男はギルバートというようだ。
どうにも胡散臭い。
前に調べた時に出てきた物凄い借金はどうにかなったんだろうか?
「おお、シスター・メルか。巻き込んでしまって済まないね。」
「いえ。お気遣いなく。」
「そうかい?…さて、このルーアンは自由と伝統の街だ。服装や言動についてはとやかく文句を言うつもりはない。しかし他人に迷惑を掛けるというなら話は別だ。」
何だろう。
この男は、威厳があるというよりも、むしろ…
「けっ、うるせえや。この貴族崩れの金満市長が。てめぇに説教される覚えはねえ。」
「ぶ、無礼な口を利くんじゃない。いい加減にしないとまた遊撃士協会に…」
いや、気付いてなかったのか…
「遊撃士3人お待ちー。まー、まだ困ってねーけど、暴れるなら排除するよ?」
「な、何ぃ?」
「はぁ~、この期に及んでこの紋章に気付かないなんてね。あんた達、目が悪いんじゃない?」
同感だ。
こんな目立つところについているはずなのに、どうやら見えなかったことにしているようだ。
視野が狭いというか何というか。
「さ、3人ってことは、こっちの小僧も…」
「そういうことになりますね。」
にっこりと笑って言ったヨシュアに危機感を覚えたのか、不良君達は顔を真っ青にした。
「…っ、きょ、今日の所は見逃してやらあ!」
「今度会ったらタダじゃおかねえ!」
「ケッ、あばよ!」
そしてそのまま倉庫街の方へと逃げて行った。
彼らは果たして年内にギルドにたどり着けるのか!?
…たぶん無理ですすみません。
では、また。
あと1回は年内に投稿する予定です。