雪の軌跡 作:玻璃
ちょっと吃驚です。
では、どうぞ。
最終試験のために、4人は七耀教会の裏まで来た。
「さあ、研修も大詰めね。これから3人に認定試験を受けてもらうわ。今までの成果が発揮されることをとっても期待してるからね。」
「はい。」
「りょーかいです。…って、エステル?」
何故か放心状態のエステル。
「…ねぇシェラ姉。もしかして…試験って、ペーパーテストじゃないの?」
エステルはさっき何を見てたんだろう…
「はあ?エステル、あんたさっき掲示板を見たでしょうが。」
「うん…そうだけど。」
「あれが最終試験よ。」
その瞬間、エステルは盛大に息を吐き出した。
「…はああ~良かったぁ~。…ああ、空の女神さま…地下水路を作って下さった情け深いお心に感謝を捧げます。」
…なんて大袈裟な感謝…
「ひょっとして…筆記試験だと思ってたの?」
「ふっ、懐かしいわね。今となっては良い思い出だわ。」
すぐ調子に乗るのも、エステルの癖だ。
「はぁ…ちゃんと卒業出来るのかな…」
「どーかん…」
「な~によ、失礼しちゃうわね。」
と、会話が盛り上がりそうになったところでシェラザードが止めた。
「はいはい、3人ともお喋りはそこまで。試験前なんだから、もっと緊張感を持ちなさい。落第したらキツイ補習を受けてもらうわよ。」
「えへへ、大丈夫だってば。さ、早く試験しちゃいましょ!」
現金なものである。
流石エステル。
「ま、自信があるなら結果で証明してもらいましょうか。…さて、掲示板通り、地下水路内の捜索が試験よ。捜索対象は宝箱の中身で、それを回収するのが目的よ。…迷いはしないと思うけど…本物の魔獣が彷徨いてるから油断したら痛い目に遭うわよ。…だから、一応ティアの薬をいくつか渡しておくわ。それと、これも。」
シェラザードはティアの薬と手帳を差し出した。
「これは?」
「魔獣手帳よ。戦った相手の情報、特に敵の特性を記録すると良いわ。」
「成程…情報を制するものが戦いを制するということですね?」
「ふふ、良く分かってるじゃない。」
「へ~、良い物もらっちゃったわね。サンキュー、シェラ姉!」
「ありがたく使わせてもらいます。」
「同じく。」
…アルシェムにとっては、実は馴染み深いものだが、一応貰っておく。
アルシェムは、昔ツァイスに1年留学した時に、ギルドの協力員として活動していた。
その際にギルドから支給されたのだ。
今も持っているそれは、何だか用途がおかしくなっているので丁度良いといえば丁度良かった。
「よーしっ、2人とも、気合い入れていこっ!」
「そうだね。実戦だと思って慎重に行動しよう。」
「りょーかい。」
そして3人は地下水路に入った。
しばらく進むと、魔獣が出た。
「…出たわね。」
「2人とも、背後を取られないようにね。」
「わかった!」
「りょーかい。」
まずはエステルとヨシュアが突っ込む。
「せい!」
「やあっ!」
だが、倒しきれない。
「撃つよ!気を付けて!」
アルシェムの2丁導力銃が火(?)を吹き、魔獣を完全に沈黙させた。
「ふふん、思ったより楽勝ね。早く進みましょ!」
「そうだね。」
「あんまり無茶しねーよーにね。」
と言っているうちから魔獣が出る。
「先手ひっしょー!」
弾丸が飛び、魔獣を貫く。
「はあっ!」
「えい!」
しかし、エステル達の攻撃はすり抜けた。
「え?」
「仕方ねーな…下がって!…ヘル・ゲート!」
アルシェムのアーツが、魔獣を捉えた。
そして魔獣はセピスを残して消え去った。
途中開かない鉄格子があったものの、順調に進んでいく。
そして、目的の宝箱が見えた。
「あれが目的の宝箱かー。」
前にいた魔獣をサクサク片付け、宝箱を開ける。
「…小箱が3つ?」
「ね、ヨシュア、開けてみない?」
「やめといた方が良いと思うよ。」
「そーそー。今回の依頼はそーさくとかいしゅーだし、中身は見ねーほーがいーんじゃねーの?」
見たら確実に落第だろう。
エステルならやりかねないが、中身の詮索は依頼の中にはない。
「むー…アルは気にならないの?」
「ぜんっぜん気にならねー。落第したくねーしね。」
「落第ぃ?」
「そういう可能性もあるってことだよ。なにより、依頼人のプライバシーに関わることだからね。」
シェラザードの私物なら気になるが。
それにしても…
どうやったらあんなに酒が飲めるのか聞いてみたい…
まあ、それを言うならザルのアイナもだが。
一体彼女らの体の構造はどうなっているのか…
「じゃ、戻ろうか。帰りも慎重にね。」
「うん。」
「そーね。」
先に魔獣を一掃したから、すぐに魔獣が湧いてこない限り安全なはずだ。
しかし、その考えは甘かった。
出口に近づいた瞬間、後ろの鉄格子の方から霧のような魔獣が現れた。
「エステル!」
「きゃ!?」
ヨシュアの斬撃は、空を切った。
「…!もーちょい我慢!」
エステルに当たらないように時属性アーツを選んでオーブメントを駆動させた。
程なく、駆動が完了する。
「ソウルブラー!」
その隙にエステルは体勢を立て直した。
そして棒術具を振り回すが、当たる気配がない。
「ヨシュア、アーツしか当たらねーかも!」
「了解っ!」
「わたしが気を引くから、2人はアーツよろしく!」
言うや否や、アルシェムは床を蹴り壁を蹴って魔獣の後ろに回り込む。
そして射線を2人から逸らして魔獣を撃ち抜く。
どうやら、当たったようだ。
「ソウルブラー!」
「あ、アクアブリード!」
同時に2人のオーブメントがアーツを吐き出す。
「拙い、2人とも!この魔獣…強すぎる!」
「強かろーが何だろーがコイツを外には出せねーでしょっ!?何なら1回ひーて!」
2人は、引かなかった。
まあ、当然か。
「仕方ないわね!アクアブリード!」
「ソウルブラー!」
引いて欲しかったが、仕方がない。
「全くもー…ストーンハンマー!」
…かなり拙い。
アーツすら効いている様子が無いのだ。
アルシェムにはまだ切り札があるが…
使えば生き埋めになる。
なにより、まずはエステル達が死ぬ。
そもそもアルシェムのオーブメントには、火属性クオーツがセットされていないのだ。
1人ならどうにかなる。
が、2人の前では切り札は絶対に使えない。
使うわけにはいかない。
だが、使わなければかなり拙い。
使いたくない。
一体、どうすれば…!
と、そのとき。
密やかに、優雅に、アーツ発動のキーを発声した者がいた。
「…焔舞。」
瞬間、魔獣が燃え尽きた。
「な、何だったの今の…」
「さ、さあ…」
「…何だったんだろーね…」
誤魔化してはいるが、アルシェムにはこの火属性アーツを発動した人物が特定出来ていた。
内心では盛大溜め息を吐きたいところだったが、取り敢えず助かったので後でお礼を言っておこうと思った。
というか、もう1つのオーブメントを持ち歩くべきだと思った。
自分で開発した特殊オーブメント《LAYLA》。
アレは、かなり特殊だから出来れば持ち歩きたくなかったのだが、仕方がない。
取り敢えず地上に戻ると、3人は、シェラザードに出迎えられた。
「3人とも、お疲れ。一応、規則があるんで捜索対象を確認させてちょうだい。」
手に入れた小箱を渡す。
「…うん、本物ね。途中で開いた痕跡もなし、と。」
…エステルを止めて良かった…
「3人ともおめでとう。実技試験は合格よ。」
「ふふん、あのくらい楽勝…ってああっ!」
「どうしたのエステル?」
「し、シェラ姉、さっき…ちょっと手強い魔獣が出て…」
ああ、さっきの。
「…何ですって?」
「その、霧みたいな魔獣が…」
「攻撃は当たんねー、アーツも火属性以外はあんまり効かねーって奴が出たんですよ。倒しましたけどね。」
あまりこの話を長引かせたくない。
火属性アーツの主を探られるわけにはいかない。
「あー…アレね。鉄格子に近づいたら何故か出んのよ。言わなかったけど。」
「何で言ってくれなかったのよ?」
「これも実技試験の内だし、臨機応変にならなくちゃ遊撃士にはなれないわよ?」
いや、アレは遊撃士が云々以前の話…
かなり強い感じのやつ…
「むー…で、シェラ姉。その小箱には何が入ってるの?」
「それは研修が終わってからのお楽しみ。さ、お喋りはこれくらいにしましょう。まだ研修が終わった訳じゃないんだから。」
「あれ、そうなの?だって試験は合格なんでしょ?」
「…エステル、ほーこくも仕事の内じゃねーの?」
当たり前のことだが。
報告と、相談と、連絡は社会の基本だ。
「アルの言う通りよ。報告についての研修が残ってるわ。お疲れのとこ悪いけどこのままギルドに戻るわよ。」
「はぁ、まだあるのかぁ。でも、仕方ないわ。ここが踏ん張りどころね。」
「そうだね。あとちょっとみたいだし。」
そしてシェラザードと研修中の3人はギルドに戻った。
原作の大幅なコピーに当たらないかだけが心配です…
しばらく進めば原作から逸脱するのですがね。
さて、ここで少しばかり用語の説明をば。
特殊オーブメント《LAYLA》
七属性のアーツをそれぞれ1つずつ発動することができる。
身体能力の大幅な上昇に、常に補助アーツによる体力回復、更には駆動時間も最短となり、周りの導力を取り込むだけでなく七耀石を電池代わりに使うことで七耀石がなくならない限りオーブメントが動かなくなることはない。
ぶっちゃけ、チート性能のため、あまり使おうとはしていない。
デメリットは、適性のある人間が極端に少ないこと、あまりに強力すぎるために対人使用には向かないこと、作るのにかなりの時間がかかるために量産できないこと。
今、このオーブメントを所持しているのはアルシェム含め4人だけである。
お気に入り登録してくださった方、ありがとうございます。