雪の軌跡   作:玻璃

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ようやくルーアンです。

では、どうぞ。


第二章~白き花のマドリガル~
灯台にて


「わぁっ…!」

「エステル?」

「見て見てヨシュア、アル!海よ海!」

「はいはい、言われなくても分かってるよ。」

眼前に広がる青い海。

この海の名は、テティス海。

魚が豊富にいて、豊かな海であると言える。

「青くてキラキラしてめちゃめちゃ広いわね~!それに潮騒の音と一面に漂う潮の香り…うーん、これぞ海って感じよね。」

「エステル、海を見るのは初めて?」

「このはんのーはそーでしょ。」

というか、違ったらどれだけ海が好きなんだという話である。

「昔、父さんと定期船に乗ったときちらっとみた記憶はあるんだけど…こんなに間近で見るのはひょっとしたら初めてかも。」

「そっか…僕も海は久しぶりだな…アルは?」

「ん…分かんねー。見たことあるかもなんだけど…覚えてねーのよね…」

忘れぬうちに記憶喪失の演技。

まあ、見たことはないのだが。

「そっか…」

「アルは確か記憶喪失なんだったわよね?」

「うん、といっても日常生活に全然支障がねーから気にしちゃいねーんだけどね。ま、初めて気分が一杯味わえるからそーゆー意味ではお得かも?」

「そ、そういう問題なの?」

そういう問題ではない。

名前が思い出せないのは、かなり致命的だ。

「だって今更騒いでも思い出せるとは限らねーし。楽しんだほーが得じゃねー?」

「あはは、アルらしいわね。」

魔獣を蹴散らしながら進み、マノリアに近づいたところで灯台が見えた。

「灯台か…登らせてくれるかな?」

「登ってみたいの?」

「いや、けっこー絶景なんじゃねーかなっと。建て前はどんな人が管理してるのか見に行っといた方がいーかな、みたいな。」

「行ってみようか?」

「そうね!」

絶景を楽しみつつ灯台まで進む。

「わ、おっきいわね…」

「入り口にいる人が管理人さんかな?」

十中八九そうだろう。

が…

何故、下に降りているのか?

「…ふむ、さてどうしたもんかの?」

何かあった…

あ。

この気配は…魔獣?

「…何かお困りですか?」

「…何じゃ、お前さん達は?」

「準遊撃士のアルシェムです。お困りのようですが、何か出来ることはありませんか?」

「そうか!最近の若い遊撃士は腕力ばかりで気配りを知らんと思っておったが…そうでもなさそうじゃ。まあ、あの壮年の遊撃士にはまだまだ適わんがの。あれはもう、そうじゃな、7、8年ほど前になるか…」

語り始めようとする老人に釘をさす。

「もしもし?困ってるんでしょ?」

「…うん?ああ、そうじゃそうじゃ。実はのう、草刈りをするときにうっかり扉を閉め忘れてのう…魔獣共が灯台の中に入り込んでしまったのじゃ。このままでは中に戻ることすら出来んわい。」

「まじゅー退治ですね。任せて下さい。」

「何匹いるのか分からんでな。注意してくれ。」

約10匹だろう。

それ以上はいない。

「うーん、でも何で魔獣は灯台の中に?」

「灯台には特大のオーブメントが使われてるから。七耀石に引き寄せられたんじゃねーかな。」

「うむ、その通りじゃ。前も上の方に集まっておったからの。」

「あ、成る程。」

だが、一番上の階には気配がない。

魔獣避けが弱まっているのかな…?

「じゃあ、すぐに取り掛かりますね。」

「定期点検の時期も近いんじゃ、早いとこ何とかしてくれ。すばしっこい魔獣じゃからの、見落とさんようにな。」

「了解しました。」

「それじゃ行きますか。」

中に入り、魔獣を狩る。

「はっ!」

「とりゃあっ!」

エステルとヨシュアもかなり強くなったようで、この魔獣に手こずることもなさそうだった。

「はい、終わり。次行こー。あんまり周りに被害行きそうな攻撃は控えてね。」

「何で?」

「灯台の壁とか弁償したくねーでしょ?」

「た、確かに…」

それだけのミラを稼ぐのにどれだけかかる事やら。

「せい!」

「やっ!」

「よいしょっと。…あれ、この階いねー。上かな?」

まあ、分かっていた事だけど。

上の階には少しだけ強い魔獣が闊歩しているようだ。

「わ、まだいるわね!金剛撃!」

「おおおっ、魔眼!」

「張り切り過ぎじゃねーの?…お、この階には…いねーか。」

これで、全部だ。

「ねえねえ、あの扉は?」

「見てみよっか。」

いかにも外に通じているっぽい扉を開くと、そこには…

「うわあ…!確かに絶景ね!」

「うん、綺麗な景色だ。」

一面に広がる海。

絵葉書にでもしたら売れるんじゃないかというくらい綺麗な景色が広がっていた。

「あんまり見てると灯台守さんにおせーって怒られるよ?」

見とれていることを悟られたくなくて。

そういってエステル達を促す。

「…それは嫌ね。」

「もう本当にいないか、確認しながら降りよう。」

本当に美しいものを見た時、わたしは自らの醜さを自覚してしまった。

もう、見ていられなかった。

だけど、目が離せなくて。

それを断ち切ることが出来たら、前に進める気がした。

下まで降り、老人に報告する。

「おう、首尾はどうじゃ?」

「えへへっ、もうバッチリよ。」

「魔獣は退治しました。もう大丈夫です。」

これからは、草刈りをするときに扉を閉めてやってほしい。

「おお、やってくれたか!やれやれ、これで一安心じゃ。お前さん達もご苦労じゃった。これからは気配りの心を忘れんようにな。」

「はい。…もう、お困りのことはありませんか?街への言伝とかも承りますよ。」

「うむ、ないぞ。しかし…あの壮年の遊撃士の去り際もまた見事じゃった。まだまだじゃな。」

これは…

やっぱり、あの人だろう。

「そーですね。多分、その人には当分適わないでしょうから。」

「アル?」

「大体、その壮年の遊撃士ってどんな奴なの?」

あなたのお父さんです。

とはいえず、黙って聞く。

「7、8年ほど前に世話になった遊撃士でな。残念ながら名前も知らぬ。だが、お前さん達とは比べものにならんほど立派な男じゃった。お前さん達と似てるところがあるとすれば、そっちの娘の髪の色くらいか。ちょうどそんな赤みがかった茶色じゃったからな。うむ、何じゃ?よく見れば瞳の色まで似ておるのう。」

「赤みがかった髪にエステルと同じ瞳の色?」

「そ、その遊撃士って…」

間違いなくカシウスだ。

「お前さん達にも是非彼の域に達して欲しいのじゃが…理想が高すぎて簡単には無理かも知れんのう。ま、兎も角今後も精進を欠かさぬようにな。では、世話になったのう。くれぐれも気配りを忘れずにな。」

老人は、灯台の上に戻って行った。

「…ねえ、どう思う?」

「どーもこーも、カシウスさんでしょ。」

「まあ、考えられなくはないね。時期的にも合うし。」

その時期にヨシュアはブライト家にはいなかったはずである。

何故知っているのかは言うまでもない。

「やっぱりそうなのかな。」

「かもしれないね。…だとしたら、比べられても少し困るかな。」

「何と言っても、カシウス・ブライトだしねー…」

「全くよ。ま、でも今は同じ遊撃士なんだし比べられても文句言えないわね。」

お。

エステルも漸くカシウスの凄さを自覚したか。

「少しでも追いつけるように毎日頑張るしかないね。…ちょっとばかし相手が悪いような気もするけど。」

「ちょっと?かなりじゃねーの?」

「あはは…でも、いつか追い越せるって信じるしかないわよ。さ、行きましょ。サボってるわけには行かないしね。」

「うん、そうだね。」

「行こーか。」

それで追い越せる気がしたのは、きっと気のせいだろう。

一行は、マノリアへ向かって歩き出した。




今週は投稿します。

今週は、ね。

では、また。

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