雪の軌跡 作:玻璃
市ではなく、地方に、ですがね。
副長が出て行ったあと、徐にアガットが言った。
「さてと…オッサンの子供達とヒヨッコだったか。」
「あ、一応わたしもカシウスさんのよーしだよ。」
一応、だ。
もしかしたら、ここでの異変が終わってしまえばそうでなくなる可能性もある。
というよりも、確実にそうなる。
「そ、そうか…何だってこんな場所に泊まってやがる?シェラザードはどうした?」
「シェラさんはロレントに帰りました。今は3人で旅をしています。」
場合によっては、異変が終わる前に…
「正遊撃士目指して王国各地を回ろうと思ってるの。修行を兼ねて自分の足だけでね。」
「正遊撃士?歩いて王国一周だぁ?随分と呑気なガキ共だな。」
呑気、ねえ…
呑気な訳ないんだけどな。
「あ、あんですってー!?」
「…その代わり異変についてはじっくり調べやすい。分かってんじゃねーの?」
「…お前等みたいなガキが簡単に正遊撃士になれるわけねえだろ?常識で考えろや、常識で。」
常識って覆すためにあると思うんだけど。
「なれるなれねーじゃねーの。なるんだよ。分かる?アガット。」
「そ、それにこれでもあたし達、空賊逮捕で活躍したんだから!推薦状だって貰ってるし、子供扱いしないでよねっ!」
「その話か。ルグラン爺さんから聞いてるぜ。それじゃあ聞くが…仮にお前等しかいなかったらその事件、解決出来たと思うか?シェラザードの手も借りずにお前等だけでだぞ?」
「そ、それは…」
むしろシェラザードがいないほうがやりやすかったかもしれない。
「出来ねーことはねーでしょ。ただ、人数の問題で人質脱出は難しーだろーけど。空賊だって1回倒した時に縛り上げてりゃ追撃はなかったハズだしね。」
「…本気か?」
「勝算がねーわけじゃなかったし。まあ、運もあるんだろーけど。最悪、1人で特攻も有り得たわけだし。」
その場合でも何とかできる自信がアルシェムにはあった。
まあ、自身は無傷では済まないだろうが、それでも何とかする自信はあった。
「そうだろうが。大体、無茶なんだよ。お前等は新米で、ガキだ。力もなけりゃ経験もない。咄嗟の判断も出来ねえはずだ。それを忘れて浮かれてると、いつか足元を掬われるぞ。」
「う、浮かれてなんか無いもん!あんたの方こそ、こんな時間に峠越えなんかしちゃ…」
「エステル、アガットのほーが経験はあるんじゃねーの?遊撃士なりにこの道を歩き慣れてもいるはず。それに文句をつけるのは良くねーんじゃねーかな?」
「お前に擁護される筋合いはない。それに俺の方は仕事だ。物見遊山の旅と一緒にするんじゃねえ。」
「物見遊山で済まねーとは思うんだけど…」
行く先々で異変に襲われてる気がするし。
この先も不穏だから…
「仕事?
「ああ、お前等のオヤジに強引に押し付けられた…」
「あー、成る程…」
恐らく、暗躍する奴らだろう。
正体、教えといた方がいいかな…?
「え…?」
「父さんが押し付けた?」
「…さてと、明日も早いしとっとと休ませて貰うぜ。お前等も喋ってないで寝ろや。」
「あー、誤魔化した!?」
「そこまで露骨すぎると余計に気になるんですけど…」
気にしたら負けである。
アガットはこういう駆け引きには弱いようだ。
「あーもう、うるせえな。ガキが余計なことに突っ込んだら火傷するぞ。」
「何そのふりょーみてーな…」
むしろ本当に不良だったのだが、今のアルシェムには知りようのないことである。
「とっととルーアンに行って掲示板の仕事でもしてやがれ。それが…ふぁあ…お前等にはお似合いだぜ…」
「ち、ちょっと…」
「もう寝ちゃったみたいだね。エステル並みに寝付きが良いなあ。」
「一緒にしないでってば!もー、何なのよコイツ!?喧嘩売ってるとしか思えないんですけどっ!?」
間違いなく喧嘩は売っているはずである。
不器用なりに、気遣ってはくれている…
「まあまあ、僕達が新米なのは確かだし。ひょっとしたら心配して…」
「それはねーんじゃねーの…?」
はずだが、どうも何とも言えないのであった。
「うん、あんまり自信ない。でも、そろそろ僕達も寝た方が良いのは確かだよ。明日も峠越えがあるんだし。」
「んじゃ、2人共ベッドで寝なよ。わたしは床でも気にしねー。」
「でも…」
「…エステルと一緒に寝たら身の危険感じるし。」
「あ、あんですってー!?」
あんですってー、じゃない。
冗談でなく、蹴り落とされるから。
「はいはい。…良いのかい?アル。」
「ヨシュアだってエステルと一緒に寝るとエステルが危ねーだろーし。」
「何でさ!?」
健全な男が何を言ってるんだか。
「にやにや。」
そして、アルシェム達は眠りについた。
深夜――
見張りの交代の時間。
「…?何でこんなに気配が…?」
周囲の気配が、ぽつぽつと増えていく。
「アル?」
「ぐるるる…」
これは…!
「…!アガット、起きて!何かあったみてー!」
「アル?…!今何か聞こえなかった!?」
「何かあったみたいだね。」
冷静に言っている場合じゃない。
「多分まじゅー。しかも複数っぽいかな。」
アガットが跳ね起き、剣を持って飛び出した。
「様子を見て来る。お前等はとっとと寝とけ。」
「あ…ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「念の為、僕達も行った方が良さそうだね。」
「うん、モチのロンよ!」
部屋から出る。
どうも、関所が包囲されているようだ…
「ボース側みたいだね。」
「…念の為、わたしはルーアン側を見とくよ。ボース側は任せた。」
流石に気配を読めとは言えない。
コレは、アルシェムと一握りの人間だけが出来る芸当だから。
周りにいるのは狼型魔獣。
「うん!」
ルーアン側に出る。
「…!狼、いや、統制が取れすぎてる…!不破・弾丸!」
「うう…」
「下がって!」
「す、済まない…」
導力銃を駆使して追い払おうとするが、数が多すぎる。
その上、後ろにいるのは腐っても兵士だ。
一掃する訳にもいかない。
「…く、キリがねー…っ!」
「うおりゃあ!」
アガットが突っ込み、叩き潰す。
「アガット!」
「す、凄い…!」
「噂以上の破壊力だね。」
破壊というよりも、今のところ粉砕のほうが合っているような気がしてならない。
「アガットには当てねーから思い切りやって!」
「ハッ、言われるまでもねえよ!…にしても、犬ッコロの癖に割と知恵が働くじゃねえか。」
犬ではなく狼である。
「…加勢するわよっ!」
エステル達がアガット包囲網(笑)の中に突っ込んでいく。
「コラ、引っ込んでろ!」
「ふ~んだ、あたし達の勝手だもんね。」
「邪魔にならないように手伝わせて貰いますから。」
アルシェムは兵士を背後にかばい、扉を背にして立った。
「侵入させねーよーにはする。だから…っ!増援が来る!気を付けて!…不破・弾丸っ!」
「チッ、勝手にしやがれ…精々俺の《重剣》に巻き込まれんじゃねえぞっ!」
そうして、戦闘が始まった。
そうして、戦闘が終わった。
次回、無事にルーアンへたどり着けるのか!?
では、また。