雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
飛行船公社の受付の言葉を聞いて、エステルが絶叫した。
「ええっ!?」
「僕達がそうですけど…」
「ああ、丁度良かった!いや、ロレント支部の方からこちらに来ていると聞きまして。こちらがエステルさんとヨシュア宛ての。で、こちらがアルシェムさん宛てのものです。」
受付の人から受け取る。
これは…
「うん、父さんの字だわ。宛先はロレント支部のあたしとヨシュアになってる。」
「どうやら船を降りる直前に書いたみたいだね。父さん、ちゃんと僕達に連絡するつもりだったんだよ。」
「そっか…」
何だろう。
嫌な予感しかしない…
「ふふ、良かったわね。そっちの小包も先生から?」
「ううん、他の誰かが父さんに送った物みたい…あれ、おっかしいなぁ?」
「うん…差出人がどこにも書いてないね。」
小包からも、尋常でないほどの嫌な感じを受ける。
「では、確かにお渡ししましたよ。…ああそれと、空賊逮捕、本当にご苦労様です。いやぁ、流石遊撃士ですねぇ。」
受付の人はそのまま去った。
「まさかリンデ号の積荷に手掛かりがあったとはのう。ここで読むのも何じゃ。2階の休憩所を使うと良い。」
「ありがと、ルグラン爺さん!」
「フッ、それでは早速中身を拝見させて貰おうか。」
2階に上がる。
何故かオリヴァルトがここにいるのは愛嬌である。
「…内容次第では窓から放り出すかもよ?オリビエ。」
「いやぁ、このまま内容が分からなかったら気になって夜も眠れないぢゃないか。」
「そ、そんなこと言われても。」
むしろ眠るな。
「ああ、一緒に冒険し」
「わたしはしてねー。」
ここで挫けないのがオリヴァルトクオリティである。
「あ、アジトに潜入出来たのは誰のお陰だったかな~っと。」
「うぐっ…」
「全く、タチが悪い男だこと。」
むしろスッポン…
「仕方ありませんね…アルじゃありませんが、内容次第では席を外して貰いますよ?」
「フッ、勿論だとも。」
「まずはそっちから開けなよ。」
こっちは、見せられない可能性のほうが高いから。
「ありがと、アル。気を取り直して…」
エステルは手紙の封を切った。
『エステル、ヨシュアへ
そろそろ代理の仕事を終わらせただろうか?
最初は躓くこともあるだろうが少しずつ確実にこなせば良い。
お前達ならば必ず出来るはずだ。
さて、こちらの仕事の方だが、少々困ったことが起こってな。
女王生誕祭が終わる頃まで家に帰れないと考えてくれ。
俺が戻るまでどう過ごすかは自分で決めると良い。
16歳という実り多き季節を悔いなく過ごしてくれ。
シェラザードとアイナに宜しく伝えておいてくれ。
カシウス・ブライト』
「先生らしい文面ね。」
「うん…」
「そうですね…」
というか、何故手紙を別にしたのかこれではっきりした。
エステル達には見せられない内容だ。
恐らく、今の状況とか。
「ふむ、女王生誕祭か。暫く先のようだね?」
「2、3ヶ月は先よ。確かにちょっとした旅行なら出来そうだけど…本当に、一体どこで何をしてらっしゃるのかしら。」
「それは兎も角…そちらの小包はどうだい?」
「差出人ふめーだし、ちょっと気を付けたほーが良さそーだけど。」
むしろ気になるだけだろうお前は。
「確かに気になるけど。父さん宛てなのに勝手に開けるのもちょっと…」
「しかし考えてもみたまえ。父上の失踪と時を同じくして」
「黙れ。あんたが気になるだけでしょーが。もし秘密で頼んだ変態な本とかだったらどーすんの。」
まあ、あったらエステルに…
「このサイズでそれはないと思うけど…」
「もしそうだったらギタギタのパーだけどねっ!」
…やっぱり。
「ま、まあ本かどうかは別にして、父さんの手掛かりかも知れないしね。ずっと放置しておくのも何だし…調べた方が良いかも知れないよ?」
ヨシュアもフォローする必要はない。
…まあ、開けざるを得ない状況に追い込みたいのなら別だが。
「…分かった、調べてみよ!」
エステルは小包を開いた。
そこには…
「最近造られたスロットすらない使途不明の黒いオーブメント…しかもキャリバーなしと来たか…」
「何か分かるの?アル。」
「や、今言ったことだけ。ツァイスの知り合いなら分かるかもだけど…」
分かるには分かるだろうが、分解されそうだ。
特にラッセル博士とかに。
「メモには、『例の集団が運んでいた品を確保したので保管をお願いする。機会を見てR博士に解析を依頼して頂きたい。K』ってあるけど…」
「こ、これだけ?」
「うん…シェラさん、このKとかR博士という人に心当たりはありませんか?」
「うーん…アルは?」
「Kは兎も角R博士なら分かるよ?ゆーめーじゃねーの。アルバート・ラッセル博士。」
まあ、Kはもしかしたらヘタレ緑かもしれないけどね。
「誰?」
「エステル…かなりの有名人だよ?日曜学校でも習ったじゃないか。導力革命の父じゃないか。でもどうしてアルが…」
「ツァイスにりゅーがくしてた時、いそーろーさせて貰ってたの。多分間違いねーと思う。」
というか、その他にいない…
「じゃあ、その博士に会いに行った方が良いのかな?」
「『機会を見て』ってことは急がなくてもいーんじゃない?ここからツァイスに行くならルーアンも通るし、そこで推薦状を貰ってからでも遅くねーとは思うよ?」
むしろ今はまだツァイスに近づきたくないというのが本音だ。
あそこにはレイストン要塞がある。
下手に近づけば撃たれる…
「あ…」
「このまま、旅を続けるってことかい?」
「カシウスさんも手紙で言ってるじゃねーの。どうするかは自分で決めろって。つまり、正遊撃士目指しながら旅しても何ら問題はねーの。」
というか、直接行くのは勘弁してマジで。
「う、うん…それはそうだけど。」
「正遊撃士になるためにはルーアン、ツァイス、グランセルの3支部で推薦状を貰わなきゃいけねー。」
「成る程、その旅で手掛かりを探すんだね?」
「あ…成る程。」
流石、ヨシュアは理解が早い。
「…父さんの実力を考えたら余計な心配だとは思うし、外国に行ってる可能性もあるんだけど…ただ待ってるよりは遙かにマシなんじゃないかな。それに、Kさんも見つかるかも知れないしね。」
エステルは暫く沈黙した後、叫んだ。
「ねえ…アル、ヨシュア…2人共、天才!」
「ちょ、エステル?」
「それ、一石二鳥どころか十鳥くらいあるじゃない!」
「いや、物理的に無理だからそれ。無茶ゆーなよ…」
というか、どんな天才が成しえるんだ…
幻の分裂魔球とかならいけるかもしれないが。
「もー、憎たらしいくらいに冴えてるんだから!」
「誉めてねーでしょ…」
「賛成ってことなんじゃないかな。」
これで反対だったら驚愕である。
「賛成、賛成、大賛成っ!正遊撃士目指して修行しながらリベール中を歩き回って…ついでにあの不良中年が何をしてるのか暴いてやるわ!」
「あの…微妙に目的がズレてない?」
「ふふ…完全に調子が戻ったみたいね。」
戻られても疲れるのだが、エステルだから仕方がない。
「そうだ、アルのは何て書いてるの?」
「今開けるね。…はっ!?」
「どうしたんだい、アルシェム君。怖い顔をして…折角の美人が台無しだよ?」
しかし、アルシェムにはそれに突っ込む余裕すらなかった。
手紙の中身は、それほどまでに衝撃的だったから。
次回、カシウス暗躍回。
…嘘です。
では、また。