雪の軌跡   作:玻璃

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アルシェム視点に戻ります。

では、どうぞ。


脱出と出来すぎた策略

飛空挺が飛び立ち、帰ってきた。

「…!来た。」

縄を引きちぎり、装備を確かめる。

剣がないだけなのに武器をもう持っていないと思われて何も取られていないことが幸いした。

ちょうど折り畳み式の棒術具が一番手っ取り早そうだったので組み立てる。

耳を澄ますと、遠くからエステル達の声がする。

「お、お前達は!?」

「遊撃士共!?ど、どこから入って来た!?」

「どうやら、その奥に人質がいるみたいね。」

この声は、シェラザードだ。

間違いない。

アルシェムは戸口に立つと怒鳴った。

「皆さん、遊撃士が来ました。空賊が来たら撃退しますので、下がっていて下さい。…シェラさーん!遠慮いらねー、ぶちかましてやって下せー!」

「あら、好都合ね?大人しく降伏すればよし、さもなくば…」

「ふ、ふざけるな!」

「やっちまえ!」

戦闘は一瞬で片が付いた。

理由は簡単だ。

ぶち切れた猛獣状態のエステルを止められるのはカシウスしかいない…

問答無用でぶちのめされた空賊は、白目をむいて気絶していた…

そして、扉が開いた。

「皆、無事!?」

「遊撃士協会の者よ。皆さんを助けに来たわ。…アル、あんたもね。」

結論から言おう。

シェラザードが怒っていない訳が無かった…

目が笑っていない。

恐ろしいことこの上ない。

どうしてくれというのだろうか…

「ごめん、心配かけた。結論からゆーと皆無事で、カシウスさんは乗ってなかった。」

「ハッハッハッ、それは重畳。」

オリビエを黙らせたいところではあるが、流石に自重した。

「ち、ちょっと待ってよ…それじゃ、父さんは何してるわけ?どうして連絡も寄越さないの!?」

「落ち着いて、エステル。今はそれ所じゃないよ。…アル、怪我はないかい?」

唯一の救いはヨシュアがいることくらいか…

「ねーわけじゃねーけど、動けなくはねー。…一番下に首領の部屋があります。急いで押さえて下さい。わたしは、ここで空賊が来たら取り押さえますので。」

「…分かったわ。行くわよ、エステル、ヨシュア。あとオリビエも。」

「フッ…そうしようか。」

待て。

何故そこでお前が仕切る…

「ちょーしに乗んじゃねーよ。てか、何でいんのあんた。」

「フッ、成り行きでね。」

「…もーいー…」

これ以上何を聞いても無駄な気がしたので諦める。

エステル達は慎重に下に向かった。

だが、空賊がぶちのめされるのも時間の問題だろう。

「もう帰れますから、荷物を纏めて下さい。恐らく軍も来ますので。」

さっき飛空挺の音がしたし。

ぱらぱらと用意し終わった頃、エステル達が駆け上がって行った。

「待ちなさいよ、こらあっ!」

…下に気配はなし。

ということは、上に向かって逃げているのだろう。

ご愁傷様。

「行きましょー。もう安全です。」

伸された空賊を縛りつつ上に上がる。

一番上まで上ると、そこには軍の飛行艇が待っていた。

「…!軍の方、人質を全員護送しました。どうぞご確認下さい。」

「悪いね。ところで君は…?」

「準遊撃士、アルシェム・ブライトです。あなたは?」

半ば分かっていながら、質問せざるを得なかった。

知っているとは言えなかったから。

「初めまして、アルシェム君。情報部のリシャール大佐だ。協力、感謝する。」

タマネギ…!

それに、女狐も…!

「や、捕まってただけですし。他の空賊達は縛って転がしときました。」

「そうか…いや、本当にご苦労だった。人質や積荷等、後のことは我々に任せて欲しい。」

それは、情報部に良い様に改変するという解釈で良いのだろうか?

そう思わず言いたくなったアルシェムだった。

「大佐。わたし、いちおー人質だったんですけど…話した方がいーですか?」

「ふむ…いや、気にしないで欲しい。遊撃士は人不足なのだろう?」

「…そーですね。」

タマネギは女狐に声をかけた。

「行くぞ、アマルティア大尉。」

「承知しましたわ。」

そして、飛行艇の奥に消えていった。

「あ、ちょっと大佐!…悪いが、今回ばかりはあっちが優先だ。機会があれば、宜しく頼むぜ!」

「まったね~!」

ナイアル達も奥に消えた。

…待て、何故ここにいる…

突っ込みどころが沢山あったが、気にしたら負けな気がしたのでやめた。

「いやはや、美味しい所を根こそぎ持って行かれた気分だね。」

「うーん、確かに…」

「…出来過ぎてる、かな?」

出来過ぎなんてものではない。

これは立派に策略の範疇だ。

ここまでやってのけるとは…

「フフ、良いじゃないの。遊撃士の本分は縁の下の力持ちなんだから。」

「確かにそうですね。父さんも気を配ってたみたいですし。」

「あれ、そうだっけ?…ああっ、父さん!」

流石は元カシウスの副官。

侮れない…

「うん…その問題を考えなくちゃね。父さんが今どこにいて何をしているのか…どうして連絡をくれないのか。」

「うん…」

「ここであたし達が出来ることはもう無さそうね。取り敢えずボースに戻って報告しましょ。先生のことを考えるのはそれからよ。」

一行はボースに戻った。

どうやって戻ったかって?

一番奥の抜け道を軍に知らせてそこから抜け出したとだけ言っておこう。




ちゃんと終わらせるつもりはあります。
続編が出たらまた頑張るかもしれませんが、基本的にアルシェムは閃には直接関わりません。
自分の中では出来上がっているんですがね。
いつ、すべてが明かされるのかを決めかねているだけです。

では、また。

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