雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
そして、エステル達は、クワノ老人の情報を元に川蝉亭に向かい、《釣公師団》のロイドから情報を聞いて夜まで体を休めつつ英気を養うのだった。
エステルは釣り。
ヨシュアは読書。
シェラザードとオリビエは酒盛り…
やがてオリビエは酔い潰されるものの、それぞれが充分に休息できた。
そして。
キール、ジョゼット兄妹が川蝉亭を訪れ、奥の桟橋で怪しい奴等と密談していた。
エステル達はそれが終わる前に飛空挺を見つけ出し、潜り込んで空賊のアジトへと向かうのだった。
飛空艇が止まるのを確認し、ゆっくりと外に出る。
無論、戦闘の準備だけは万端だ。
「ふわあ…」
「何だよ、ライル。眠いのか?」
「だって完全に昼夜逆転だし、忙しいしよ…」
チャンスだ、とエステル達は思った。
「グチグチ言うなよ。…まあ、最近のドルン兄貴は何か変だけど…これさえ終われば休めるぜ?」
今だ。
エステル達は砦に降り立ち、空賊の背後から声をかけた。
「今すぐ休んでもオッケーだけど?」
「あ。」
「お前達は…!」
「遅いってば!」
反応が遅かったため、エステルとヨシュアに一瞬で伸される。
「よ~し、上出来!」
「エステル、ちょっとは静かにしなよ…」
「おっと。そうね。」
流石に弁える。
ここで見つかれば、人質が危ないのだ。
「フッ…無事、潜入出来たようだね。」
「全く…こんなに上手く行くとはね。今回ばかりはあんたに感謝しなくちゃいけないわね。」
「で、でもさ~、メチャメチャ焦ったわよ。隠れてるとこを見つかったらどうするつもりだったの?」
実際、どこかの誰かさんがたてた小さな物音に空賊が反応していたのだが。
その時は見つからずに済んだものの、見つかっていてもおかしくなかった。
「いや、発見されたとしてもその時は飛空艇を制圧すれば良い。飛空艇の内部は狭いから多数との戦いにも有利だしね。オリビエさん…そこまで考えてたんですか?」
「いや、全く。敵地潜入というシチュエーションが単に面白そうだと思っただけさ~。ボクは面白いものには目がないからね!」
「あ、あんたねえ…」
勿論、冗談である。
オリヴァルトはちゃんとそこまで考えていた。
ただ出さないだけで、実はかなり頭は回るほうなのだ。
まあ、言動が台無しにするのだが。
「まあ、良いじゃない。こうして無事、潜入出来たんだし。それよりも…やっぱりここは霧降り峡谷みたいね。」
「そっか…だから外が白く霞んでるのか。」
「アルの情報とシェラさんの推測通りですね。」
というか、そうじゃなければアルシェムは今どこで何をしているということになってしまう。
「そうね。さてと…あまりグズグズは出来ないわ。空賊達を制圧しつつ人質の安全を確保するわよ。勿論…カシウス先生も、アルもね。」
「うん…!」
「了解です!」
魔獣を退治しつつ奥に進む。
すると、小部屋を見つけた。
中から話し声がするため、部屋に突入する。
「あん…?何だ、新入りか?」
この男、間違いなくボケ担当だろう。
「ガクッ…そんな訳ないでしょ!緊張感のない連中ねぇ。」
「え、でもよ…それ以外に誰がいるって…あの、まさか侵入者?」
「ピンポン♪」
「遊撃士協会の者です。降伏した方が身のためですよ?」
まあ、約1名は違うが。
建前というものが必要である。
「じ、冗談じゃねえ!」
「返り討ちにしてやらあ!」
「冗談じゃないのはこっちだってーのよ!」
エステルが割と本気で空賊達をぶちのめす。
「はっ!はあああああああああっ!はあっ!やっ!烈波!無双撃!」
その鬼気迫る表情に怯えて空賊が逃げ惑ったのだが、それはさておき。
「ううう…」
「ちょっと!人質はどこにいるの!?正直に言わないと酷い目に遭わすわよ!」
既にボロボロである。
これ以上酷い目に合わせたら過剰防衛になりかねないのだが、誰も気付いてはいない。
「か、勝手にしやがれ。誰が喋るもんかよ…」
「あーら、そう。エステル、どいてなさい。」
「う、うん…」
シェラザードは、おもむろに鞭を取り出して空賊の1人を吹き飛ばした。
過剰防衛でもないったらないのである。
「ぎゃっ…!」
「ふふ、手加減してるから、簡単には気絶できないでしょ…?素直に話してくれればゆっくり寝かせたげるわ。」
「ひ、ひいいい…こ、この下の階だ!そこにお仲間もいるっ!」
この光景に、同情した男2人がいたとかいなかったとか。
「素直で宜しい。キールとジョゼットはどこにいるの?」
「ふ、ふざけるなっ!誰がそこまで喋るかよっ!」
「ふーん、人質はともかく自分達のボスは売れないか。仕方ない、勘弁してあげるわ。」
もう一回吹き飛ばして空賊を気絶させた。
「うっわ~…容赦ないわね…」
「失礼ね、手加減はしてるのよ?手加減は、ね。」
手加減以外はしているそうだ。
恐ろしい…
「確かに、そこはかとなく気持ちよさそうではあるね。」
「あら、試してみる?」
「いや、またの機会に。」
というか、試そうが試すまいが国際問題である。
と、ここでボケ殺しが発動する。
「人質は下の階みたいですね。急ぎましょう。」
一行は階段で下に降りる。
「それにしても、ここって何なのかな?彼奴等が造ったんじゃなさそうだけど。」
もし彼らが作っていたとしたら、軍は何をしていたという話である。
国防とかそういう問題でもない気がする…
「大昔の隠し砦なんじゃないかしら?」
「《大崩壊》から暫く戦乱が続いたそうだからねぇ。こういうのが残っていても不思議ではないだろう。」
「しかし、発見されにくいとはいえ、悪趣味だわね。魔獣まで彷徨いてるし…男所帯なんてこんなモノかしら?」
そう言うシェラザードの家はどうなのだろうか。
酒瓶が転がっていそうである。
それも、某虹の劇団所属の太陽の姫が真っ青になるレベルの。
「あの、シェラさん…」
「それは激しく違うと思うよ。」
多大なる誤解と若干の緊張が入り混じる中で、彼らは奥へと進んでいった…
次回、突っ込みどころが多いはずなのにどうしようもないじゃない回。
一体どうしろと。
では、また。