雪の軌跡 作:玻璃
今回は、まわりの人がどう動いているかという説明回です。
では、どうぞ。
早朝。
エステル達が釈放される数時間前。
「え、新人ちゃんの1人が行方不明…ですか?」
新人正遊撃士アネラス・エルフィードはルグランから依頼とも呼べない世間話を聞いていた。
「うむ。昨日から連絡が取れんのじゃ。アガットの奴はルーアンに向かう準備とかで忙しいらしいしのう…」
「何か手掛かりとかありますか?」
「最後に見たときは霧降り峡谷の手配魔獣を倒しに行くと言っておったはずじゃが。」
それを聞くや否や、アネラスは決断した。
「…分かりました。丁度霧降り峡谷に行こうと思ってたところです。ついでに探してきます!」
「アネラス!?」
ルグランの制止(のような声)もむなしく、アネラスは
そのまま東ボース街道を抜け、霧降り峡谷に入った。
「えっと…こっちは行って帰って来たみたいだから違うね。ついでにジャイアントフット狩りしとこうかな。」
西側は違うと踏んだのだが、近くにクオーツを落とすことがあるジャイアントフットが棲息していることを知っていたので少しだけ侵入する。
案の定、ジャイアントフットがいたので背後から襲いかかる。
「行くよ!まだまだまだまだぁっ…とどめぇっ!八葉滅殺!」
その後、通常攻撃を幾度か繰り返してダメージをほぼ受けることなく倒した。
「残念…クオーツは手に入らなかったかぁ…」
まあ、それが目的なのではない。
最初の分岐に戻り、もう一度地面を調べる。
「東の方に入ったみたいだね…」
何度か分岐があるものの、その度に地面を調べてどんどん奥に分け入る。
そして、ついに。
「…あれ?あれって…」
アネラスは導力銃を見つけた。
紙を取り、中身を読む。
「この、上って…嘘でしょ?」
どう考えても登れるような高さではない。
「…と、取り敢えず持って帰ろ…」
アネラスは取り敢えず導力銃を懐に仕舞い、ボースへと戻るのだった。
その頃。
「え、アルが帰って来てない!?」
軍から解放されたエステル達は、早朝のアネラスと同じくアルシェムについての情報を聞いていた。
「昨日から連絡が取れん。…あれだけの速度で依頼をこなすあの子が、これほど手間取るとは思えんのじゃ。」
「確かにそうね…ルグラン爺さん、アルが最後に行くって言ってた依頼は?」
探しに行きたいのに探しに行けない。
シェラザードからはそんな雰囲気がにじみ出ていた。
「霧降り峡谷の手配魔獣を倒しに行ったはずじゃ。」
「…確か、アネラスがいたはずよね?…あたし達は探しには行けないわ。南街区の強盗事件の聞き込みに行くから、アネラスに探しに行って貰えるかしら…」
そもそも、この言葉は無用である。
アネラスは既に霧降り峡谷でアルシェムを探している途中なのだから。
「フッ、何なら二手に分かれるかい?」
「いえ、僕等だけで聞き込みするのも探しに行くのも不安材料が多すぎますよ。」
色々な意味で。
エステルとヨシュアだけで聞き込みは出来ないが、探しには行ける。
逆にシェラザードとオリビエだけでも聞き込みは出来ないし、探しにも行けない。
一応はオリビエを一般人認定しているために、彼らは動くことが出来ないのだ。
「そうかい?何ならボクとヨシュア君、シェラ君とエステル君の組み合わせでも…」
「…とか何とか言って、ヨシュアに何かしようってんじゃないでしょうね?」
無論、そんな組み合わせは論外である。
「おお、そんな疑り深い目で見ないでくれたまえ。ボクのピュアなガラスのハートが粉々にブロークン…」
「うっさい。」
エステルに冗談を粉砕されて落ち込むオリヴァルト。
一応、この男は皇族である。
皇族である。
信じてはもらえないだろうが、皇族ったら皇族なのだ。
「シクシク…」
威厳も糞もあったもんじゃないが。
「ゴホン…アネラスがそっち方面に向かう依頼があるとかで、もう探しに行っては貰っておる。すぐに戻って来るはずじゃから、聞き込みに行ってくれ。」
「…そうですね、人手があれば探しに行きたいところですが…足りませんからね…」
「だから二手に…」
「お黙り。」
今度はシェラザードに冗談を粉砕される。
「シクシク…」
「ルグラン爺さん、アネラスが帰ってきたら待ってるように伝えてくれる?」
「…分かった。」
エステル達は南街区の聞き込みに向かったが、軍に邪魔された挙げ句脅迫紛いの忠告を受けた。
しかし、リシャール大佐が取りなしてくれたため、聞き込みを始めることが出来た。
そしてクワノ老人からロイドの話を聞き、報告がてら
「…という訳なのよ。」
「ふむ…」
そこに、アネラスが駆け込んで来た。
「ルグラン爺さん!見付けましたっ!」
「アネラス!?」
その声に反応して、アネラスがシェラザードの方に向き直る。
「あれ?シェラ先輩。どうかしたんですか?」
「あんたを待ってたのよ。アルのこと…何か分かった?」
「…これが霧降り峡谷の東の突き当たりに落ちてました。新人ちゃんは…見付けられませんでした。」
目に見えて落ち込むアネラスを慰める。
「そう落ち込まないの。手掛かりがあるだけ良いじゃない。…これって…あら?」
シェラザードは導力銃に結び付けられていた紙を見た。
「フム、ボクにも見せてくれたまえ。」
「後にしなさい。」
「懲りないですね、ホント…」
その場にいた一同は、シェラザードの顔が般若に変わる様を見てしまった…
「…あんのバカ!何で空賊のアジトが手配魔獣に襲われてるからって助けに行くのよ!?バカじゃないの!?バカなの!?バカなのね!?そうなのね!?」
「シェ、シェラ君!?お、落ち着きたまえ。折角の美人が台無しだよ?」
「お・だ・ま・り!今はそれ所じゃないのよ!」
場の空気を和ませようとするものの、見事に失敗するオリヴァルト。
「シクシク…」
「あの、シェラ先輩…あの真上、かなり無理しないと登れすらしませんけど…新人ちゃん、どんだけ無茶な子なんですか?」
少しだけ冷静になってシェラザードが答える。
「…聞いた話よ?ツァイスで、1日に4種類の手配魔獣を20匹倒したらしいわ。」
「20っ!?無茶を通り過ぎてスゴ過ぎですよそれ…ほんとなんですか?」
「フム、それは凄いね。」
凄いどころではない。
そもそも1日に手配魔獣が4種類も、しかも20匹もいる状況があまりない。
もしあったとしても普通は何人かで手分けするものである。
「…ツァイス支部のキリカに直接聞いたから確かじゃよ。わしも耳を疑ったが…
「…あはは…私も負けてられないね!兎に角、私は掲示板を片付けます!」
乾いた笑いを浮かべた後、アネラスは依頼を果たすべく飛び出していった。
「フム…かなり可愛らしいね…思わず抱きしめたくなってしまうぢゃないか。」
「アネラスさん逃ーげーてー!?」
「うるさいわよあんた達!」
まさに一刀両断である。
「ハイ…」
「はあ…アネラスらしいといえばアネラスらしいけど。…まあ良いわ。兎に角問題はこのメモよ。」
強く握り締め過ぎてクシャクシャになったメモを広げながらそのメモをにらみつける。
「急いで走り書きしたのは分かりますけど…これじゃあアルの言う通り軍と協力するか奴等の飛空挺を奪うしか無さそうですね。」
無論、不可能に近い所業である。
「そうよね~…無事かな、アル…」
「無事に決まってるじゃないか。だってアルだよ?」
「そうとも、あのアルシェム君が空賊に屈する訳がないじゃないか。」
「何か、ミョーに説得力があるのよね、それ…」
その時砦ではアルシェムがくしゃみをしていたとかしていなかったとか。
「…取り敢えずあたし達は川蝉亭に行くわよ。もし奴等が来てるんなら、近くに飛空挺があるかも知れないわ。」
「そうね!」
そして、エステル達はヴァレリア湖に向かった。
地味にボースにいるはずのアネラスさん。
動いていても良いと思うんだ。
というわけで、ちょっとしたオリジナル展開です。
次回、アルシェムさんは出てくるのか(笑)
では、また。