雪の軌跡   作:玻璃

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はい、というわけでやらかしました。
こんなの有り得るか!とか公式には乗ってねえぞ!とか言わないで下さい。
独自解釈・オリジナル設定などなどが猛威を振るっています。

では、どうぞ。


~愚かなる偽神~
教皇、盟主、そして(S.1205/01/12)


 この日、アルコーン達はアルテリアに潜入していた。メンバーはアルコーン、リーシャ、レン、カリン、そして何故かヴァルドである。ほぼ顔の割れているメンツばかりではあるが、変装して情報収集を行う分には何ら問題はないのである。リーシャは気を操って体型を変え、カツラをかぶって男性風の格好になっている。ついでにヴァルドとつるむという暴挙に出ているが、ヴァルドはリーシャのことを全く意識していなかった。レンは変装することは出来るが、したところで情報収集をする子供など不審過ぎるので潜伏組だ。同じく潜入が絶対にばれてはいけないアルコーンと顔が売れすぎたカリンも潜伏組である。潜伏組はアルテリアにある宿で暇を持て余していた。

 と、そこに上手く気配を殺した人物が扉の前に立った。残念ながらヴァルドでもリーシャでもない。見覚えのある気配ではあるが、誰だか特定することは出来なかった。つまりは、潜伏がバレた可能性があるということである。アルコーン達は武器を手に取り、室内で待機した。そして、扉が叩かれて声が掛けられる。

「ルームサービスをお持ちしたのですわ」

 その声にアルコーンは頭を押さえた。レンも同様である。その声に聴き覚えがあったのだ。それも、つい最近に。声の主は返事を待つことなく扉をピッキングして開け、数名を引き入れてから扉を閉めた。そして、再び口を開く。

「全く……警戒するのは良いと思いますけれど、流石にこの戦力で取り囲まれるのはいい気はしませんわよ?」

「何故ここにいる?デュバリィ」

 そう、声の主はデュバリィだった。そして、招き入れられた数名とはエンネアとアイネス、それにアリアンロードだった。彼女らは何故かメイド服に身を包み(アリアンロードも含む)、ワゴンを引いて来ていた。ワゴンをわきにのけると、デュバリィはアリアンロードの後ろへと下がった。そして、アリアンロードが口を開いた。

「久しぶりですね。今はアルコーンと呼べば良いですね?何だか会うたびに名前が変わっている気がして仕方がないのですが」

「ああ、久し振りだリアン師匠。名前が変わっているのは気のせいではないよ」

 アルコーンは苦笑してそう答えた。実際にアリアンロードと久しぶりに会うたびに名前が変わっている。最初はシエルであったし、次はアルシェムであった。ストレイの時もあったし、今はアルコーンである。節操がないというか名前を変える必要性が本当にあったのかとかは聞いてはいけないのである。アルコーンはアリアンロードに問いかけた。

「どうしてここに?」

「教皇を……いえ、盟主を討つためです。そのために協力を要請しに来ました」

 アリアンロードの眼には確かな焔が宿っていた。アルコーンには何故ここまで感情を表に出しているのかは分からなかった。しかし、アリアンロード本人がその答えを返してくれた。

「私の可愛いデュバリィを過労死寸前までこき使ってくれた返礼とでも言えば良いでしょうか?無論、それだけではないですが」

「……リアン師匠、もしかしてそっちのケが……」

「ありません。私が愛するのはドライケルスだけですから」

 そうアリアンロードが言ってからはっと口を抑えた。その反応でバレバレである。この場にいる全員の共通認識として、アリアンロード=リアンヌ・サンドロット説が確定した。通りで『リアン』と呼ばせるはずだ。元の名と同じ響きをもつあだ名で呼ばせることで自分への違和感を無くそうとした結果だろう。

 それは今どうでも良いことなので、アルコーンは街中に情報収集に出ていたリーシャ達を呼び戻した。そして、作戦会議を始める。その結果、教皇と相対するのはアルコーンで、その間に星杯騎士団の連中を相手するのはアリアンロード達とリーシャ達と相成った。

 そして、彼女らはアルテリア大聖堂に潜入した。目指すは教皇の居室である。大聖堂中枢に位置するその部屋に辿り着くのは、実は難しいことではなかった。星杯騎士にのみ教えられたルートとアリアンロードだけが知っているルートを重ね合わせればあら不思議、最短距離で行ける方法が浮かび上がってきたのである。なお、アリアンロードが知っていたのはこの場所が《身喰らう蛇》の本拠地であるとアルコーンが告げたからである。《身喰らう蛇》の本拠地は地下から侵入し、曲がりくねった迷路を通って辿り着く為に場所の把握が出来ないようになっているのだ。故にアリアンロードも薄々そうではないかと思っていたが確信は持てなかった。余談ではあるが、アリアンロード達は既に目立たない格好――この場では法衣がそうである――に着替えていた。

 途中で何度か一般の騎士に会うこともあったが、気配を消してさえいれば全員がすり抜けられた。無論ヴァルドもである。ヴァルドが気配を消せる理由は、特殊オーブメントのおかげである。気配が消せるというよりも姿が見えないだけなのだが。

 そして、一行はとうとう教皇の自室にまで潜入した。教皇はベッドに腰掛けて待ち受けていた。そして、彼女は口を開いた。

「……案外、早かったわね。もっと後かと思っちゃったわ、リアンヌもアルシェムも」

「予想していたのですか、盟主?」

「ええ、気付かれることなんて想定内。だけど、もっと後だとは思ってたわ」

 教皇エリザベト・ウリエルは、予想に反して幼い印象を受けた。ただし、姿かたちはきちんとした大人の女性である。まるで精神の年齢だけをどこかに忘れて来たかのような、そんな印象を受けた。エリザベトはベッドから立ち上がってこう告げる。

「ねえ、全部至宝は集まった?世界を平和にするためには全部の至宝が必要なの。どれが欠けてしまってもいけないわ、だってアレは世界を作ったものだから」

「今日ここに来たのは至宝を受け渡すためではありません、盟主」

 アリアンロードが感情を感じさせない声でそう告げた。すると、エリザベトは眼を見開き、次いで首を傾げた。そして、問うた。

「どうして?世界が平和になったら、みんなみんな幸せでいられるんだよ?どうして至宝を持ってきてくれないの?」

「至宝がすべてそろったとして、その後本当に幸せな世界を作り出せるとは私にはもう思えないからです」

 言いながら、アリアンロードは言い知れぬ不安を感じていた。あるいは違和感とでも言いかえるべきか。とにかく、目の前の女性からは盟主らしさが何処にもない。理念は同じかもしれないが、こんな子供のような発言をする人間ではなかったはずだ。

 アリアンロードの疑念を裏付けるかのようにエリザベトは振る舞っていた。それも、意図的にである。その目的は、時間稼ぎ。何のための、とは明示しないが、それでもエリザベトは時間を稼いでいた。自分の考える世界の安寧のために。そして、その時間稼ぎは――成った。

 廊下から足音がしてエリザベトの自室の前で止まる。その気配にアルコーンは覚えがあった。それは最も危険にしてこの場で相手にしてはいけない人物。彼女は扉を打ち抜いてエリザベトの自室へと侵入した。

「ご無事ですか、教皇聖下……何?」

「案外早かったな、アイン・セルナート」

 彼女の名はアイン・セルナート。星杯騎士団の総長にして守護騎士の第一位《紅耀石》。彼女と彼女の連れる星杯騎士たちがエリザベトの自室を取り囲んでいた。アインはアルコーンがその場にいることに違和感を覚えた。彼女の記憶が正しければ、アルコーンは今クロスベルに釘付けになっていなければならないはずの人物である。凍りついた空間の中、最初に口を開いたのは意外にもアリアンロードだった。

「アルコーン、盟主は任せます。……彼女らは、私達が押さえましょう」

「恩に着る、リアン師匠」

 アリアンロードはエリザベトに背を向けてアインに向きなおった。アインは一瞬眉をひそめたもののその正体が誰であるかすぐに看破した。そしてハンドサインで他の星杯騎士を下がらせる。そんなアインを見ながら、エリザベトは口を開いた。

「構いません、アイン。今は話の途中です。最後まで弁明を聞いてからでも遅くはないでしょう」

 そう言ってアインを下がらせるエリザベト。その光景にアリアンロードは少しだけ安堵した。この雰囲気こそが、盟主が盟主たる所以。何物をも超越したかのような語りは、何故か従わざるを得ないような雰囲気を醸し出していた。

「それで……何か、申し開きはありますか?この場で私を襲おうとしたことについての弁明は」

「……敢えて言うならば、今の貴様を引き出すためだ。先ほどまでのような童女の如き貴様ではなく、な」

 アルコーンは辛うじてその言葉を絞り出した。先ほどまでアリアンロードが感じていた不安を、アルコーンもまた感じていた。その違和感は今、決定的になった。ここにいるエリザベトは先ほどまでのエリザベトではない。まるで、別人のよう。

 否、まさしく別人であった。先ほどまでアルコーンと問答をしていたエリザベトと現在アルコーンの目の前にいるエリザベトは、身体は同じでも中身が違ったのだ。先ほどまでのエリザベトを『エリザベト』と称するならば、今のエリザベトは――

「……よくぞ見抜きましたね、デミウルゴスの娘よ」

「どの口でそれを言う、空の女神」

 これは七耀教会の内部の、それも中枢のほんの一握りしか知らぬことであるが、教皇と成れる人物にはある特徴を備えていることが求められる。それは、即ち空の女神との交信を行うことが出来る一種の巫女的存在。ただし、これにも裏話がある。教皇と成れる存在が発見されるのは先代が亡くなった直後であり、その先代の亡骸は発見されることはない。ただ次期教皇が先代の死を告げるだけである。そうして、不老不死の彼女は怪しまれることなく昔からずっと教皇の座に収まっていたのだ。自らの内に生まれた人格に、『エリザベト』と名をつけた時から。

 アルコーンはその背に聖痕を浮かべた。以前とは違い、その形は変容してしまっている。六枚の花弁をもつ蒼銀の雪紋様だったそれは、いつしか六枚の蒼い花弁と六枚の銀の花弁をもつそれへと変化していた。

 アルコーンが展開したそれを見て、アインは顔を引きつらせた。何故ならば、そこに内包された力の圧を感じ取ってしまったからである。それは、人間の扱える量を既に凌駕してしまっていた。そんなアインの内心もいざ知らず、アルコーンは口を開いた。

「さて、今までさんざんコケにしてくれた返礼をしに来たのだが……大人しく受けるつもりはあるか?教皇エリザベト・ウリエルにして盟主エリザたる空の女神よ」

「待て、アルシェム……お前、何を言っている?」

「とぼけるのは止めた方が良い、アイン。薄々は気付いていただろう?星杯騎士団も《身喰らう蛇》も所詮同じ穴の貉。同じ目的に向かって違った形で運用されているにすぎないのだと」

 アインは複雑な顔をして黙り込んだ。星杯騎士団は主にアーティファクトの回収を任務とし、外法を狩るのが任務であり責務である。そして、《身喰らう蛇》はアーティファクトの至高の一である七の至宝を集めていることが分かっている。アインの聞いた教皇の目的でもあり空の女神の望むところとしては、世界の恒久的平和が含まれている。そして、リオから報告された結社の目的も世界の平和だった。

 そこでレンが口を開いた。その手には既に大鎌が携えられている。いつでもアルコーンを守れるように、レンはスタンバイしてもいたのだ。

「うふふ、結構うまくできたマッチポンプよね?危険物がここにありますよって伝えて手放させるのが結社の役割なら、じゃあ回収しますって言って回収するのがお姉さんたちの仕事なんだもの。アーティファクトが危険物なのは今や周知の事実だものね?」

「それは、そうだが……いや、理に叶ってはいる訳か」

 考えてみれば簡単なことでもあった。全てを俯瞰できる場所から見る必要はあるものの、逆にそれさえできれば分かることである。《身喰らう蛇》がアーティファクトを利用して危険な事件を起こし、星杯騎士団が危険なものだと分かったアーティファクトを集める。アーティファクトとは危険なものであると人間に理解出来れば余程欲にまみれていない限りは手放すことを選択するだろう。そうでないものは外法認定して強引に回収すればいいだけである。星杯騎士団と《身喰らう蛇》はアーティファクトの回収という点においてはマッチポンプ的な関係にあると言っても過言ではない。そして、アーティファクトという危険物を回収してしまえば、そこに残るのは普通の人間の暮らしである。導力という少し便利な力はあるものの、いずれそれも統制されて空の女神の名のもとに振るわれるだけの力となり果てるだろう。

 エリザベトは――否、エイドスは、目を閉じてその推理を聞いていた。そして、聞き終わると目を開いて手をぱちりぱちりと打ち鳴らした。

「よくできました、とでも言いましょうか。確かにアーティファクトはあってはならないものです。だからこそ回収させているのですが……」

「全部が全部貴様が作ったわけでもなかろう?ある意味《塩の杭》だけは完全に貴様が作ったものだろうが」

「はい。特に《七の至宝》に関しては古代人が作ったものです。……古代文明は《七の至宝》を以て栄華を極め、そして空より舞い降りた滅びの星により滅亡しました。……私を除いて、ね」

 次々と明かされる真実にアイン達は何が何だか分からなくなってきていた。教皇が盟主で、空の女神である。その事実だけで彼女らは動くことが出来なくなってしまっているのだ。置き去りにされているのはリーシャ達もであるが。

 そんなアイン達を放置して話は進む。今や、全てを理解出来ているのはアリアンロードとエイドス、それにアルコーンだけだった。辛うじてついていけているのがレンだけでもあるのだが、それはさておき。

「古代文明とやらの発達は恐ろしいものだったようだな」

「ええ。人間の寿命を無くす薬に、汚染された水を浄化する装置。いつまででも燃え続けるように設計された永久機関に、人間が生きていける環境を作るための土壌。薬品にまみれた空気を浄化する装置に、時をさかのぼるための装置。挙句の果てには因果律を歪めるAIと豊かに生きていける箱舟まで創り出した古代ゼムリア人は狂気極まる発展を遂げていたと言っても過言ではないでしょう。……それも、隕石によって崩壊しましたが」

「その古代文明の欠片を寄せ集めてどうするつもりだ、空の女神」

「世界を、あるべき姿へ戻すのです」

 エイドスはアルコーンを真っ直ぐに見てそう告げた。その瞳にはある種の狂気が宿っていた。アルコーンはエイドスを睨みつけた。エイドスはそれに怯むことはなかった。何せ、千数百年もの間、彼女は人間と関わってきたのだから。

「少し、昔話をしましょう」

 アルコーンはエイドスのその言葉に首肯はしなかったが、エイドスはそれに構わず話し始めた。自らの過去を。そして、自らの使命を。

 

 エイドスは昔、とある研究者夫婦の娘として生を受けた。その研究者夫婦はいくつもの論文を発表し、人類の発展の大いに貢献した人物でもあった。皆が彼らをほめたたえ、皆がエイドスに期待をかけた。幼少の頃より英才教育を施されたエイドスに自由はなかった。エイドスは様々な知識を吸収し、美しい女性へと成長していった。結婚相手も決められてはいたが、エイドスには男女の機微は分からなかった。何せ、ずっと勉強漬けだったからである。知識として知ってはいるものの、壊滅的に人付き合いをすることがなかったために起きた弊害だった。

 しかし、ある時転機が訪れる。というのも、結婚相手である男――名は、ウリエルと言った――が、エイドスに猛アタックを仕掛けて来たからである。事あるごとに付きまとい、エイドスの邪魔をし、邪険に扱われてもウリエルが諦めることはなかった。最初は打算があったようだが、最後には愛情しか残らなかった。エイドスも少なからずそれを受け入れて行ったのである。ようやくエイドスがウリエルを認め、愛するようになったのはエイドスが成人をとうに過ぎたころだった。エイドスはウリエルと結ばれ、子を成した。子にはエリザベトと名をつけた。幸せの絶頂期だった。

 そこで、再び転機が訪れる。エイドスとウリエルが出来ちゃった結婚を両親に明かし、そしてそれが認められて結婚式を行うとなったまさにその日のことだった。空から、七色に燃える隕石が降り注いだのだ。これまでの技術では隕石を破壊することなど容易かったはずである。しかし、その隕石は所謂一般的に隕石と呼ばれるものではなかったのだ。その隕石の正体こそが、七耀石と現在では名づけられている物体である。七耀石で出来た隕石はエイドスの幸せを全て打ち砕いた。家族を殺し、ウリエルを殺し、そしてエリザベトをも殺した。そして、エイドスは独りとなった。

 エイドスは、隕石が降ってきてからというものの呆然として何も手に着くことがなかった。この惑星にいたはずの人類はエイドス以外誰も生き残ってはいなかったのである。誰もいないからこそ、エイドスは誰にも癒されることはなかった。エイドスは壊れ、やがて自らのうちに眠っていたもう一人の人格を呼び覚ますことになる。エイドスは彼女をエリザベトと名付け、狂気を膨らませていった。そんなとき、宇宙探索船団が帰還して故郷の惨状を見た。船団の長はエイドスに食って掛かり、罵声を浴びせ、罰を与え、そしてエイドスの尊厳を踏みにじった。そうして、宇宙探索船団のメンバーは別の星に移住すべく旅立ってしまったのである。不老不死の薬を飲まされてしまったエイドスと、船団の長の間違いの種を残して。

 生まれて来た子を見てエイドスは彼女らに縋りついた。エイドスが生んだのは男女の双子。男はウリエルに、女はエイドスに瓜二つだったのである。エイドスは男児にアダムと、女児にリリスと名付けた。昔あった聖書からとった名である。もっとも、エイドスはその名の意味を知らないのだが。アダムとリリスはすくすくと育ち、多数の子を成し、人類を生み増やしていった。アダムはエイドスとも交わり、子を増やすのに大いに貢献した。アダムとリリスが死んだあとは、ネズミ算式に勝手に子供達は増えていった。それでも、かつての繁栄には足りない。そう思ったエイドスは古代文明の叡智――後に《七の至宝》と呼ばれることになる高度な知識を持って創り出された機械――を復活させ、人造人間を作り出していった。

 そうして、世界は出来上がっていったのである。エイドスは死ぬことも出来ず、また子供達に神とあがめられるようになりながらも道を模索した。どうすれば罪を償えるのかと。どうすればもう一度ウリエルに会えるのかと。そんな時に、時をさかのぼる装置のことを思い出した。それさえあれば、ウリエルに会いに行けるはずだと。しかし、それだけが行方不明になっていたのである。

 エイドスは考えた。知恵熱が出て寝込むまで考えた。考えて、考えて、考えて――ついに、結論を出した。自分だけで見つけられないのならば、子供達にも探して貰えば良い。アレは危険なものだから、回収させて貰う。回収して、利用できるものは利用して、それでウリエルの下へと帰ろう。ウリエルの下に帰ったならば、あの七耀石の隕石をどうにかして消滅させるのだ。そうすれば過ぎた力を使って傷つけあう人類を止めることが出来る。そうして、再び古代文明の叡智に支配された世界へと戻すのだ。そうすれば誰も不幸になる人間なんて出なくて済むのだから。

 

 話を終えて、エイドスは満足そうに溜息を吐いた。そして、自信満々にアルコーンを見る。これで信頼してくれるだろうと。これで、協力してくれるに違いないと。しかし、アルコーンの答えは違ったようだった。

「……戯言は、それで終わりだな?」

「……え?」

 アルコーンの言葉に呆けたエイドスは、次の行動に反応することが出来なかった。話についていけなくなっていたリーシャ達は既に抜刀しており、アルコーンの出した合図でエイドスを切り裂いていたのだ。いかな不老不死であろうと、エイドスが人間であることに変わりはない。血を喪えば少しの間は動けなくなること請け合いだった。そして、次に鳴り響いたのは発砲音。そこに装てんされていたのは《塩の杭》製の銃弾だった。

 エイドスは一度塩となり、そして人間に戻ろうとする。元々不老不死の薬とは、罪人に用いるものであったのだ。罪人はいかなる拷問を受けても止む無しとされていた古代文明では、罪人にその薬を飲ませて繰り返し拷問を行い、心を折るのだ。そして、心が完全に折れた罪人はそのまま輸血や臓器移植のためのパーツとされて刑を執行される。つまりは、死刑である。あまりの非道さに倫理観を以て訴える政治家はいたものの、一般的に出来る臓器移植よりもよほどコストがかからず罪人も処分できるとあればその薬を廃棄することなど出来ない。

 そして、アルコーンは仕上げとばかりに人間に戻ろうとしたエイドスを氷漬けにした。こうなってしまえばエイドスは動くことは出来ず、言葉を発することは出来ない。そんな状態のエイドスに、アルコーンは告げた。

「驕るな、エイドス。過去を変えてどうなる?また新たな『わたし』を生むか?……冗談じゃない。そのまま眠っていろ、永遠にな」

 あまりの光景に、誰もが言葉を喪っていたところにアルコーンの言葉は響いた。最初に我に返ったのは流石というべきか、アインだった。アインはアルコーンの行為を認識して、理解すると同時にアルコーンに襲い掛かろうとした。しかし、それはアリアンロードに止められた。

「いきなり襲いかかるのは感心しませんよ?《紅耀石》」

「……ふざけるな、何の悪い夢だ……」

 アインはこの状況を理解はしていたが、納得は出来なかったのだ。ただ、分かっているのは昔自分を取り立ててくれた教皇が死んでしまったという事実だけ。アインの行動を見て、他の星杯騎士も我に返ったかのように動き始めた。その中にいるはずのない人物がいることに誰も気づかなかった。

 彼は母を殺されたことに呆然としていた。エイドスとアダムという近親相姦から生まれたもっとも不死に近い人物は、エイドスと同じく金色の髪を肩口でそろえた少年だった。彼は、ふと我に返って――アルコーンに向かって攻撃を仕掛けた。

「お前は……」

「一応さ、あんなんでもママだったんだよね。だから……死んでよ、アルコーン」

 アルコーンはその少年の姿を見たことがあった。教皇の息子ジョバンニ。そして、アルコーンはその少年が一体何であったのかを半ば反射的に掴んでいた。

「もう終わったんだ、大人しく死んでおけ――カンパネルラ」

 アルコーンはジョバンニを氷漬けにした。彼もまたエイドスと同じく不死性を持つ者。故に、アルコーンは無意識のうちに同じ処置を施していた。

 そして――大方の騎士たちは何も出来ずにアルコーンの氷に拘束されたが、全員ではなかった。それを逃れたのはアインを筆頭とする守護騎士達。この場にいた守護騎士はアインとケビン、それに後ろの方にいて顔が見えなかったワジである。それと、もう1人逃れたものがいた。彼は前方へと歩み寄ってきた。その手にトンファーを携えて。

「アル、一体これは……」

「ロイド、お前、法衣が恐ろしいくらいに似合わないな」

「はぐらかさないでくれ……!一体、どうしてこんなことを!?」

 果たして、その人物はロイド・バニングスであった。ロイドはアルコーンに詰め寄ろうとする。しかし、それを止める者達がいた。言わずもがな、リーシャ達である。そうして、この場は硬直状態に陥った。




もし何かしら矛盾が出ていればリメイク版で修正します。

では、また。

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