雪の軌跡   作:玻璃

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5月中に詰め込む&完成してるため、この先2日おきになります。

では、どうぞ。


役者の片づけ(S.1204/12/30)

 キーアが普通の少女に戻ってしまったことを、マリアベルは程なくして理解した。内心では舌打ちながらストレイへ向けて言葉を発する。

「アルシェムさん……いえ、今はアルコーンさん、だったかしら?何故そのツクリモノから力を奪ったんですの?」

「何故だと?貴様はクロイス家の使命に異を唱えようと思うのか?」

 マリアベルはそれを聞いて黙り込んだ。言えることは何もなかったのだ。マリアベルはクロイス家の使命に何ら疑問も持たず、従ってきたのだから。あくなき探究心を持ちながら、そこだけは思考停止してしまっていた。

 そんなマリアベルを見てストレイは嘆息した。そして、ロイド達に向き直って言葉を吐いた。

「ロイド。今すぐここを出ることを推奨する。……この巨大樹を支えるのは結構大変なんだ。早く出てくれないと崩せない」

「え……」

 ロイドはそこで思考停止した。ロイドはマリアベルとの戦いに必死でストレイの姿をしっかりとは見ていなかったからだ。ストレイは、先ほどまでのキーアとほぼ同じ姿をしていた。何故、ストレイが。その考えと共に、納得もあった。ずっとストレイに対して感じていた違和感と既視感がこれでようやく解消されたような気がした。

 思考停止しているロイドをストレイは疲れた目で見ていた。ストレイ自身はここに来るまででもう疲労困憊。キーアから力を奪ったとはいえ、それは体力の足しにもならないからだ。ストレイは嘆息して力を行使した。

「うおっ……!?」

「な、何なの!?」

 いきなり動き始めた地面にランディとエリィが動揺する。地面から生えたツタはロイド達全員をからめ捕り、ストレイが力で作り上げた箱の中へと放り込んだ。無論、ロイド達とマリアベル達は別の箱である。さらにストレイは自身をもツタでからめ捕り、箱の上へと投げ捨てる。そうして、準備は整った。ストレイは息を吸い、吐き出す。それだけで、箱は動き始めた。

 それと同期するように大樹が崩れ出す。儚く散る硝子のような輝きに、ロイド達はひと時心を奪われた。きらきら、きらきら。舞い散るのは勿論硝子などではない。数多の可能性が今、ストレイに集約された。

 箱の中では、キーアがロイド達と向かい合っていた。正確には、ロイド達がキーアに寄り添っていただけでキーアはロイド達を見てはいなかったのだが。キーアは壊れた人形のようにずっと「ごめんなさい」と繰り返しつぶやくだけだった。それを痛ましいものを見るような眼でエリィが見る。ランディは静かに何事かを考え込み、ロイドは静かに怒りを燃やしていた。キーアを壊したのはストレイである。そう、信じて。

 大樹が崩れ去り、ストレイはメルカバの前にロイド達を降ろした。ロイド達はストレイに向きなおる。ストレイはメルカバの壁に凭れ掛かって息を吐いた。深く、長い溜息。ストレイは、ようやくここまで来れたのだ。暫しの間瞑目したストレイは、メルカバに預けていた背を浮かせて真っ直ぐ直立した。そして、告げる。

「……皆、ご苦労だった。この先は各々自由に生きると良い。マリアベル・クロイスとイアン・グリムウッドは少々身柄を拘束させて貰うが、いつかは解放するつもりだ」

 ストレイの眼に浮かんでいたのは、疲れだけではなかった。ストレイ本人も気づかないほどほんの少しの諦念と拒絶。事実、ストレイは諦めていた。普通の少女として生きていくことはもう出来ない。たとえ最初から普通の少女として生きていなかったとしても、ほんの少しだけでも味わってしまった自由は甘美だった。なるほど、誰かに押し付けたくなるのも分かる気がする。ただ、ストレイは責任を放棄するつもりはない。だからこその諦め。

「この先どうするか、立場だけでもはっきりさせておきたい。どこへ行くかは自由だが、背中から刺されるのだけはご免なのでな」

 それを聞いて、反応は4つにわかれた。

 1つめは、何かを決意したかのようにストレイを見る人間達。これにはリーシャとティオ、それにレンが当てはまる。彼女らは一生をストレイに捧げると決めた者達であり、この先何があろうともストレイと共にあることを望んだ者だ。

 2つめは、複雑な顔をしながらストレイの言葉を受け入れる人間達。これにはランディとシズクが当てはまった。彼らはストレイのやり方に多少疑問は覚えながらもストレイを信じると決めた。ただし、心の奥底にはキーアだけに重責を背負わせておきたくないという心理がないとは言い切れない。彼らもまだキーアの虜のままだった。自覚しているか否かは別だが。

 そして、3つめは厳しい目でストレイを睨む人間達。これにはロイドとエリィ、それにノエルが当てはまる。彼らはまだキーアを溺愛しており、キーアを壊した(であろう)ストレイに対して憎しみに近い感情を抱いていた。実際にはストレイはキーアを壊してなどおらず、むしろ願いをかなえたのだが。

 最後は何も反応を示さない者だ。それはキーアであり、まだ彼女は呆けていた。否、実際には呆けているわけではなくみずからの内部で自問自答しているのだが、その問いに答えが出ないだけだ。どうすれば良かったのか。どうしてこんなことになってしまうのか。どうして。ただし、いくら自問自答しようとも、いくら後悔しようとも、もう世界は覆らない。キーアにはもう一片たりとも力は残されていないのだから。

 様々な感情が渦巻く中、最初に口を開いたのはレンだった。レンはストレイに抱き着くと、小さく囁いた。

「……言ったはずよ、アル。どこまでだってレンは付いて行くわ。だってレンは貴女の家族だもの」

「レン……」

 ストレイは複雑そうな面持ちでその言葉を受け止めた。本当なら、ストレイはレンにも自由に生きてほしかった。大切に思っているからこそ、自らの運命に巻き込むようなことはしたくなかった。ただし、自分で因果律を弄ってそうするつもりは毛頭ない。レンの人生はレンだけのもので、ストレイが勝手に変えてしまってはいけないと思っているからだ。ストレイの内心をよそに、レンはストレイから離れてストレイの隣に立った。

 次に動いたのは、リーシャだった。リーシャはストレイの前に立ち、こう告げた。

「今度こそ、守り抜きます」

「……リーシャ、それは……」

「異論は認めません。だって、私は貴女がいたからここにいられるんですよ?」

 リーシャはふわりと笑ってストレイの隣に立った。ストレイはそれをやはり複雑な顔をして受け入れた。出来ることならば、誰も巻き込みたくはない。ただ、こうして味方になってくれることがどうしようもなくうれしいのも確かだった。それがどれだけ厚顔無恥なことかも自覚はしていたが。

 次は、ティオ。ティオはキーアを冷たい目で見てからストレイの下へと歩いてきた。そして、こう言い放つ。

「命の恩人だから貴女についていくんじゃありませんから、それだけは勘違いしないで下さいね?」

「……ティオ」

「私は、貴女だから付いて行く気になったんです。危なっかしくて見ていられませんし」

 それはむしろ見限る方じゃないのか、とストレイは思ったが言い返すことは出来なかった。ティオの気持ちを無碍にすることは出来ないと思ったからだ。ティオはストレイに救われたからストレイについていくわけではない。あまりにも重い鎖に自ら囚われに行ったストレイを人間足らしめるために、ティオは動いたのだ。このままストレイがクロスベルのために動くだけの人間になってしまえば、ティオの恩人と大事や友人を喪ってしまうことになる。『エル』と『アルシェム』だったときのストレイを喪わせないために、ティオはストレイについていくことを決めた。

 そんなティオを見ながら、今度はシズクが前に進み出た。シズクの瞳は内心を映し出しているかのように揺れていた。それでも、シズクは告げる。

「勘違いしないで下さいね、アルコーンさん。私はお父さんのためにここにいるんです」

「分かっている」

「なら、構いません。……存分に使って下さいね?」

 シズクはストレイの隣に立つことなくメルカバの中へと移動した。そのままアリオスが入っている仮眠室改め監禁室の前で待機する。部屋の中ではアリオスが力尽きた状態のままで寝ていることだろう。娘に護られているのだとも知らずに。

 シズクを複雑な顔で見送ったランディは、ストレイに向けて歩き始めた。そして、目の前で立ち止まる。

「……克服したのか?」

「いいや、恐らく治らない。いずれどうにかしなければとは思うが、手っ取り早い方法があるからそれに縋っているよ」

「……そうか。何なら、手伝ってやろうか?」

 ランディは笑ってそう言った。ただし、笑っていたのは顔だけで目は笑っていなかった。何かを探るようにランディはストレイを見る。ストレイはその視線を真っ向から受け止めた。こみあげてくる吐き気を呑みこみながら、それでも前を見た。そんなストレイを見てランディはふっと力を抜いた。これなら、きっと大丈夫だ。前に進もうとはしているのだから。

「余計な御世話だ、ランディ。ミレイユさんが泣くぞ?」

「ミレイユか……泣かせたくはないな」

 ランディはそう言いながらメルカバの中に入っていく。それを止める者は誰もいなかった。もとより、止める権利はないのだ。この先は特務支援課は消滅する。『アルシェム』が死に、レンとティオが抜けた時点で特務支援課というくくりは崩壊していたと言っても過言ではない。ランディはミレイユを守るため、またミレイユが護りたいと願っているクロスベルを守るためにストレイの側に着いた。

 そんなランディを見つつノエルは迷ったような顔で進み出た。顔を真っ直ぐ上げることはなく、ストレイに向けてこう告げる。

「……私、は。少し考えさせてください。」

「存分に迷うと良い、ノエル」

ノエルはそのままその場に立ち尽くした。これからどうするかを考えなくてはいけない。それでも、今は何が正しくて何が正しくないのかわからなかった。キーアを壊したであろうストレイが正しいのか、それとも本当にキーアがそれを望んでいたのか。

そんなノエルを見て、エリィはストレイを睨みつけた。一歩踏み出し、ストレイに向けて厳しい目を向けて告げる。

「……正直、私は貴女を信じることは出来ないわ。キーアちゃんのことにしてもそうだし、シズクちゃんだって貴女に騙されているだけなのかもしれない。お爺様だって例外じゃないわ」

「騙すとは心外だな、流石にこれ以上外道になる気はないよ」

「……どうかしら。アルだもの、外道ではないにせよ誰かを騙す気はするわ。だけど……」

 エリィは眼を閉じた。息を吸って、吐く。エリィはこれまでのストレイの行いを反芻していた。今考えてみれば何もかも騙されていた気がしてならない。それでも、エリィにはこれ以上の答えを出せなかった。今ここで自分の感情だけで動いたところで、何の意味もない。ならば、いつかストレイの化けの皮を剥いで全ての真実をエリィ自身で納得できるようになるまではストレイを見続けるしかない。故に、エリィの答えはこうだった。

「だけど、私は貴女についていく。いつか貴女が道を踏み外した時に止められるようにね。……ティオちゃん達じゃ一緒に従いそうなんだもの。」

「……良いのか?わたしはお前にあまり良い感情を抱いていない」

「分かってるわ。それでも、その印象を変えさせるまでは一緒にいても構わないと思わない?」

 お茶目に笑ったエリィの言葉にストレイは困惑していた。実際、エリィに対してのストレイの評価は半端者の一言に尽きる。政治家でもなく、警察官でもなく、その知識の大半を死蔵させている才女。エリィという存在が活躍できるのは本来ならば特務支援課などという場所ではなかったはずなのだ。政治家になるためのモラトリアムを、社会勉強をするためだけに特務支援課にいることに使っただけ。確かに特務支援課に政治の知識があった方がよかったとは思うが、実際に役立っていたことはあまりないとストレイは思っている。政治の道を歩んでいた方がよほど建設的であると思えるほどに。

 それでも、エリィ・マクダエルはストレイについていくと決めた。特務支援課を通じてクロスベルを見極めようとしていたように、今度はストレイの作るクロスベルからストレイを見極めるために。

エリィは隣に立つロイドを見た。ロイドはその目を受けてエリィの隣に進み出た。その目には困惑も浮かんでいたが、それでも確かな焔が燃えていた。ロイドはストレイに問いかけた。

「貴女はキーアに何をしたんだ?」

「願いを叶えただけだ。そもそも、わたしはそのためだけに生まれたともいえるな」

「願いを叶えて貰った人間があんなふうになるとは思えない。キーアの願いって、何だったんだ?」

 ロイドはストレイに対して猛烈に怒っていた。キーアを壊したことだけではない。『アルシェム』がストレイという仮面をかぶっていることに対しても、クロスベル建国に対するやり方にも怒っていた。どうしてこんなことが出来るのか、と丸三日ほど問い詰めたい気分だった。

 そんなロイドに対してストレイはただ淡々と答えた。

「どうしてキーアだけがこんなことをやらなくちゃいけないのか。こんなことはしたくなかったのに。普通の女の子になりたかった。キーアが普通の子だったらよかったのに。そうすれば、キーアはこんなことをしなくて良かったのに。……これが、わたしの生まれた理由だ」

「それを、キーアがいつ貴女に願ったんだ?」

「時期で言うならばついさっきだ。ただし、時系列順に言うとするならば、千数年前だな」

 キーアがそれを願ったのは至宝としての力を喪った時。それも、ストレイのいる時系列ではない。ストレイが存在しない別の時系列でキーアはそれを望んだ。そして、この世界の運命を変えてしまった。貪欲に、どうしようもなく、自分の思うがままに。ストレイはその望みによって生まれた。ストレイはキーアの願いを叶えるためだけの存在だった。

 ロイドの考えがそこまで及ぶことはない。ただし、ストレイの言いたいことだけは分かった。ストレイの言う『キーア』がここにいるキーアではないことも。だからこそ、ロイドはストレイに告げる。

「貴女の言う『キーア』はここにいるキーアじゃないはずだ。千年前にはキーアは生まれてなかったはずだからな」

「……何が言いたい、ロイド・バニングス」

 ストレイは嫌な予感を止められなかった。ロイドの言う言葉が何かを決定的に壊してしまう気がした。だが、ストレイはそれを止めることが出来ない。聞かなければならないのだ。

 

「貴女は別人の『キーア』の願いをキーアに押し付けたんだ。キーアが望まないのに、強引に願いを叶えた。それは……傲慢じゃ、ないのか?」

 

 なぜならば、このロイドの言葉は真理であるから。ただし、諸々の要素を多分に抜き取られている。ロイドの言う『キーア』の願いに便乗してキーアは無意識のうちに願っていたのだから。普通の少女になりたい。無用な被害は避けたい。これ以上の犠牲は、出したくない。皆に幸せでいてほしい。その願いはストレイを苛んだ。その願いそのものがストレイを歪めた。

 だからこそ、ストレイはこう答える。

「ああ、傲慢だろうな。だが、それを言う権利はキーアにはない。何故ならば、わたしの全てを構成しているものは全て『キーア』達から望まれたものだからだ」

「それでも、キーアの意見を聞くことは出来なかったのか?キーアの願いを叶えると言いながら、貴女はキーアを嫌っていたじゃないか!だからこんな復讐じみたことを……」

「ロイド・バニングス。運命を呪ったことはあるか?」

 ロイドの言葉を遮ってストレイはロイドに聞いた。ストレイの顔に表情は浮かんでおらず、能面のようだった。激情を抑え込んでいるのではない。限界を超えた怒りがあるのではない。そう言ったものを通り越してしまいそうだったからこそ、ストレイは自分の心を凍らせた。ここで激情に駆られたところで何の意味もないから。

「は……?」

「生みだされたと思えば人質として引き渡され、意味も分からず重責を負わされ、そこから助け出されたと思えば眠らされたまま幽閉された」

「何の話だ……?」

 ロイドは困惑していた。いきなりストレイが話し始めた言葉の意味が分からなかったからだ。それも、真実とも思えないようなことを。今意味のある言葉ではない、とロイドは判断していた。この言葉こそ、ストレイの人生だったにもかかわらず。ストレイは言葉を続ける。

「幽閉から解放されたと思えば雪の日に棄てられ、家族が出来たと思えば皆殺しにされ、人殺しに手を染め、耐えられなくなって逃げた」

「その話は今関係ないだろう?」

「逃げた先で救いを得たと思ったのに再び誘拐され、拷問のような毎日を送り、助け出されたと思えば蛇の道を歩む羽目になっていた」

 その言葉を聞いてレンはストレイの手を握った。この話は止めさせなければならない。そう思うのに、何故か体が動かなかった。リーシャも、ティオも同様である。この話を聞かなくてはならない。それは、ストレイの人生だから。

「蛇の道の道すがら、幾度か寄り道をしつつ一般人として生きる道を模索した。結局教会の思惑にはまって抜け出せなくなったが、それでも一般人のように生きることは出来た。もう一つの家族にも出会えた。だけど、それでも蛇の道からは逃げられなかった」

ロイドはもう口を挟まない。何を聞いても無駄だと分かったからだ。ストレイはこの話が終わるまで語り続けるだろう。ロイドが無駄だと断じるストレイの人生を。だが、ロイドは分かっていない。キーアという存在の恐ろしさを。

「蛇の道から逃げ出すために修羅の道を頼った。蛇の道にはまった大切な家族も引き込んだ。このまま修羅の道で朽ちれば良いと本気で思っていた。だけど、出来なかった」

 ストレイはそこで息を吐いた。この言葉は、ロイドに聞かせているのではないのだ。キーアに聞かせている。その罪を追及するために。無自覚にキーアが望んだことで、ストレイという存在が生み出されてしまったことで、どれだけ苦しんだのか。あるいはこれこそが復讐ともいえることだろう。

「クロスベルに来て、色々調査して悟った。運命からは逃げられない。逃げたいと願ったキーアが作り出したわたしに逃げる権利などなかった。何故なら、わたしの行動全てに意味を持たせていたのはキーアだったから。全ての運命をつかさどっていたのはキーアだったから」

「そんなバカな……」

「誰もが不幸にならないように生み出された都合の良い存在。どんなふうに扱っても壊れない操り人形。キーアは無意識にわたしを操りながら動いていた。……さっきまでは」

 ストレイがどんな武器でも扱えるのも、魔獣程度なら蹂躙できる実力を持つのも、全てはキーアが望んだこと。その人物がいれば万事解決する。そんな存在を誰かがメアリー・スーと呼んだ。まさにストレイはメアリー・スーだった。それも、人工的に作られた。そういう意味では、ストレイもキーアと同じだった。

「さっきまでは?」

「キーアから因果律の力を奪ったことで少なくともここにいるキーアからは干渉されなくなった。……少なくとも、他のキーアからは干渉され続けているが」

「じゃあ、キーアにあたる必要なんてないじゃないか!」

ロイドは憤慨していた。ストレイの勝手な言い分に。ストレイの言っていることはただの言いがかりであり、身勝手な主張に過ぎない。運命は自分の力で切り開いていくものだとロイドは思っている。なのに、ストレイはそれをつかさどるのはキーアだと主張するのだ。ロイドの眼には、ストレイは足掻くことを止めた負け犬にしか映らなかった。

「……まあ、そうだな。だが、傲慢であろうとなかろうとわたしにほかの選択肢が与えられなかったことは知っておいてほしい」

「選ばなかっただけだろう?」

「選べなかった、そう言っている」

 ストレイの答えを聞いてロイドは嘆息した。これ以上ロイドはストレイと問答するつもりはなかった。問答したところで無駄だと思ったのだ。これ以上キーアを理由にして何もしてこなかったストレイをロイドは見限ることにした。その答えを、ストレイは受け入れた。




説明回ですね、これ。

では、また。

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