雪の軌跡 作:玻璃
では、どうぞ。
シャーリィが倒れて先に進めるようになったのは良いものの、リーシャがシャーリィいじめに時間をかけすぎたために夜が更けてしまった。
そのため、一端探索は打ち切ってメルカバで休憩することにした。
ストレイとしては途中で野営することになるだろうと踏んだのだが、何故か大樹が動き始めてメルカバまで押し戻されたのである。
ご丁寧に道は塞がれて、だ。
仕方がないのでストレイ達は一晩メルカバで夜を明かし、次の日に再び探索することとなった。
一瞬ストレイは本気でキーアの存在ごと亡き者にしようと思ったのは内緒である。
一晩休み、探索のメンバーとして先日張り切り過ぎたリーシャが外れ、代わりにティオがパーティに加わった。
そして、先日とは変わってしまった道を進む。
幸い、魔獣的なナニカはあまり変わりなかったようでそのあたりの対策は必要なかったが。
ただ、殲滅するだけ。
言葉でいえば簡単な話だが、絵にすると凄絶な光景が広がっている。
ある意味15禁なグロ映像を横目で見ながら、一行は先へと進んだ。
そして、再び閉ざされた扉とその前にある門が現れた。
門に近づいてみると、そこからはむさいオッサンの声が聞こえてきた。
『…早く来い、ランドルフ…』
どうやら、相手はシグムントのようだった。
しかし、全員が行って消耗するわけにもいかないのも事実。
そこで、先日のように4人パーティを組むことにした。
因縁のあるランディは当然パーティに入る。
先日休んでいたティオもだ。
ストレイは何故か門に弾かれるために除外され、ノエルとロイドが入ることになった。
エリィは引き攣った顔で辞退したのだが、それはさておき。
門をくぐると、ロイド達は早速シグムントの下へと向かうためにギミックと魔獣を撃退し始めた。
魔獣自体はそこまで強いわけではない。
ただし、その奥にいる人物は違う。
それを肝に銘じ、ロイド達はシグムントの下へと進んでいった。
「…遅い。」
シグムントの下に辿り着いた時、彼が最初に発した言葉はそれだった。
確かにシグムント基準で見れば遅いのかもしれない。
ただ、彼らは本職の猟兵ではないのだ。
猟兵とは違うやり方でここまでたどり着いた。
だからこそ、それに対する答えはこうだった。
「いや、待たせてやったんだよ叔父貴。ちょっとでも焦れてくれたか?」
「…何を言っている。ついに頭まで平和ボケしたのか?」
シグムントはランディの言葉を理解することが出来なかった。
確かに、相手を焦らすことに効果はあるだろう。
ただ、今のこの状況でそれをする必要性があるかと問われれば否である。
ランディ達もただゆっくり来たわけではないのだが、それはさておき。
「いいや、叔父貴。平和ボケなんざしちゃいないさ。特務支援課は実践経験が豊富なんでね。」
「…《闘神の息子》も堕ちたな…たかが腐敗した警察の一組織なんぞで、実践経験が豊富なわけないだろう。」
「それはどうかな?」
そういって、ランディはスタンハルバードを構えた。
不敵な笑みを浮かべてはいるが、眼だけは笑っていない。
ランディはこの場で、《闘神の息子》としてではなく特務支援課のメンバーとして闘うことを選んだのだ。
そんなランディとともに、ロイドたちも武器を構えた。
ただしこの場にティオはいない。
ティオは離れた場所で待機していた。
それを知る由もないシグムントは、武器を構えて一歩踏み出した。
「…俺は、お前を倒して兄貴の跡を継ぐ。お前なんかに《闘神》の後継者たる資格があるものか…」
「いや、最初から必要としてなかったから。欲しけりゃやるさ、好きにしな。…ただ、叔父貴がそこで立ちふさがってるってんなら…押しとおらせてもらうぜ?」
そして、両者は激突した。
ノエルは完全に後方へと後退し、ひたすら地属性のアーツを唱え続ける。
ティオも同じくアーツだけを唱える要員で、ノエルのアーツの効果が切れて危険な時だけSクラフトを発動させることにしていた。
ロイドは後方支援の2人に攻撃が向いたときのみ防御役を買って出る役目だった。
メインアタッカーは無論のことランディ。
ランディとシグムントは同時に――吠えた。
「おおおおおおおおおおおおっ!」
そして、お互いの武器をかち合わせる。
手数が多い分シグムントのほうが優位にも見えるが、あまりにも暇なロイドがもう片方の斧の攻撃を受けることで解消していた。
数合、十数合、数十合と打ち合わせたシグムントは、あまりの揺るがなさに苛立って吠えた。
「…なぜブレードライフルを使わない、ランドルフ!」
声とともに叩きつけた双斧は、それでもランディたちを背後に押しやることはできなかった。
双斧を押し返しながらランディは言った。
「今は必要ない。…後で使ってやるから心待ちにしてな、叔父貴。」
その言葉通り、ランディは頑なにブレードライフルを抜かなかった。
それは、最後にシグムントを乗り越えるために使うのだとランディは誓っていた。
きっちりブレードライフルでシグムントを止めるためには、疲弊させる必要もある。
だからこその攻撃の積み重ねで、だからこそティオが後方配置なのだ。
「…情報を解析します。」
ティオの小さな声は、シグムントには届かなかった。
いつもならば動揺してくれるはずの敵は、しかし動揺もなくただ荒ぶっていた。
「…チッ、どきやがれ…テンペストレイジ!」
シグムントがランディたちを力任せに吹き飛ばそうとする。
ランディは踏みとどまったが、ロイドは吹き飛んだ。
それを見たシグムントはランディを一時無視してロイドに向けてクラフトを発動した。
「ハーケンスロウ!」
片方の斧のみをロイドに向けて飛ばし、ロイドに向けて駆け出しながら防御されることは織り込み済みで帰ってくる斧をつかむ。
そして、再びクラフトを発動させた。
「遅い。ジオブレイク!」
ロイドはそれを避けることはできなかったが、倒れることはなかった。
なぜなら、その体には地属性のアーツの効果が残っていたからである。
「何?」
シグムントの一瞬の動揺。
それを利用して、ロイドはクラフトを発動する。
「レイジングスピン!」
そのクラフトは、遊撃士たちと手合せする中で習得したクラフト。
あえて敵を自分に引き付けることで、敵の油断を誘うという目的もある。
シグムントはロイドの思惑にまんまとはまってしまった。
「…フン。」
ただし、ロイドに攻撃を浴びせることだけは忘れていなかった。
数度、ロイドに双斧がたたきつけられる。
「ぐっ…!」
「どうした、ロイド・バニングス…!」
いいように攻撃できる状況に、シグムントは内心の落胆を隠しつつ嗤った。
それが、シグムントの隙となる。
先ほどから放置されているランディが背後から忍び寄ってスタンハルバードを振り上げたのだ。
「背中ががら空きだぜ、叔父貴!」
そして、たたきつけられる強烈な一撃。
確かにシグムントはその一撃をもろに受けた。
しかし、よろめくことなく再びクラフトを発動する。
「邪魔だ。テンペストレイジ!」
今度はランディが吹き飛ばされた。
否、自分からランディは後ろに飛びのいた。
ロイドはその場で踏みとどまった。
そうしなければ後衛にまで攻撃が届く範囲まで押し込まれてしまっているからである。
どうすべきか、とロイドは逡巡した、その時だった。
「ロイドさん、コウタイしてください!」
ティオがロイドに向けてそう叫んだ。
ロイドはその言葉を『後退』の意味で受け取った。
そのままその場から飛び退る。
一方、ティオは『交代』の意味でロイドに告げたために若干舌打ちしつつもその場から飛び出した。
エイドロンギアをその身に纏って。
「ロイドさん、後衛をお願いします!」
ティオはエイドロンギアに備え付けられた砲身から導力でできた弾丸を放ちながらそう告げた。
ロイドは一瞬あっけにとられつつもどうにか後ろに下がった。
「何で出てきた、ティオすけ!」
「ロイドさんがグロッキーだったからです!ランディさんはそのまま攻撃を!」
言いつつ、ティオはシグムントの手が届かない上空へと飛んだ。
度重なる魔改造のもと、エイドロンギアは凶悪なパワードスーツへと変貌していたのだ。
そして、ティオは頭上から攻撃を繰り出すという凶悪な方法に出た。
シグムントは自らの手の届かない場所から攻撃されていると見るや、斧をティオに向けて投げつけた。
「無駄です。」
ティオはその斧を冷たく一瞥しながらエイドロンギアを操作する。
すると、斧は減速してそのままティオに受け取られてしまった。
「…重たすぎますよ、この斧。」
ティオは射撃の手を止めずにエイドロンギアの手に斧を持たせる。
そして。
「方向修正、軌道確保。…行きます!」
エイドロンギアは、その斧を猛スピードでシグムントに投げつけた。
シグムントはランディの攻撃をさばきつつそれを受け取ろうとする。
しかし、ランディの猛攻と射撃によりそれを受け取ることができなかった。
かろうじてシグムントが避けたため、深々と地面に突き刺さる斧。
シグムントは冷たい目でそれを一瞥した後、手数を増やすためにそれを引っこ抜いた。
そして。
「…そろそろ、終わりにしようぜ?」
シグムントのSクラフトが、炸裂した。
ロイドはそれに耐えきれずに倒れた。
死んではいないが、しばらくは動けないだろう。
ノエルはかろうじて物陰に隠れることで卒倒は免れた。
それでも傷だらけなことに変わりはない。
ロイドが死なずに済み、ノエルも重傷で済んだのはランディがいたからだった。
ランディがその攻撃をまともに受けたおかげで、ロイドたちへの攻撃の手が少しだけ緩和されたのである。
その代償に、ランディも重傷を負ったが。
「…やってくれるじゃねえか、叔父貴…!」
少しばかり追いつめられたような顔でランディがそう漏らす。
その時だった。
「ランディ先輩、受け取ってください!」
ノエルがクラフトを発動させた。
その特殊な砲弾はランディの傷を半分ほど癒した。
「サンキュ、ノエル!」
「ついでです、ランディさん。」
ティオも射撃を継続しつつランディに回復アーツをかける。
ちなみに射撃が継続されているのはマニュアルではなくオートで動かしているから。
ティオが無傷なのは、上空にいたためにシグムントの攻撃を三次元によけられたからである。
ランディの傷がほぼ治り、気合も十分。
ならば、ランディにできることは。
「受け取れよ?叔父貴。…俺からの、決別だ。」
自分の持つ最強のクラフトをシグムントにぶつけることだけだ。
ノエルとティオがランディにフォルテの重ねがけを行う。
それを否定するつもりはランディにはない。
ランディは独りで戦っているのではないのだから。
ランディはブレードライフルを取り出してシグムントに向けて駆け出した。
「猟兵時代にゃ持てなかったもんを使って、テメェを打倒する!」
シグムントはニヤリと嗤って応えた。
「受けて立つ…!」
両者が向かい合って。
エイドロンギアからの射撃がやんだ瞬間。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
シグムントは負けを自覚した。
ランディの気迫に呑まれた自分を自覚した。
ああ、何故ランドルフは兄貴の跡を継がなかったのだ。
これほどまでに、似通っているのに、と。
そう、思って。
シグムントはランディのSクラフトの前に沈んだ。
「…俺の…勝ちだ!」
「…ああ、そうだな。」
シグムントはその場に膝をついてそう応えた。
シグムントは満身創痍。
対して、サポートのあったランディはほぼ無傷だった。
シグムントは、ランディに向けて問いを発した。
「…何故、お前は強い…?」
「さっきも言っただろうが、叔父貴。…特務支援課の実戦経験は豊富なんだよ。なんせ、軽い手配魔獣から《赤い星座》まで何でも撃退する職場だからな。」
「いや、あの…ランディ?一般的な支援要請もあると思うけど…」
昏倒していたはずのロイドは、ランディへのサポートを終えたと感じたノエルとティオによって回復されていた。
継続的なダメージを与える相手には強いロイドだが、一撃必殺をうたわれると少しばかり経験が足りない。
一撃必殺されてしまえば対策も何もたてられないからだ。
それはさておき、シグムントは納得したかのようにそうか、と告げるとそのまま気絶した。
※ISではありません。
では、また。