雪の軌跡 作:玻璃
ガッツリ今は季節はずれですけど(2016/03/04に予約投稿しています)。
では、どうぞ。
結界消滅の数日後。
クロスベル市内ではフラッグトルーパーという機械が徘徊し、戒厳令が敷かれていた。
そんな中、クロスベル上空を神機が飛び回り、下手人を探し回っていた。
この数日間は見つからなかったものの…
今日は、違った。
神機は妙な行動をしていたもののこれまでは敵対してこなかった幻獣に襲われた。
「みししっ。」
「みしっ。」
「ええい、邪魔なのっ!」
…そう、言わずと知れたみっしぃとみーしぇ、そしてノイである。
彼らはあくまでも時間稼ぎ要因でしかない。
この事態に対処すべき人間は、と言えば…
「…というわけだ。リベールまで彼らを頼む。…ついでにそっちのエステル達もな。」
「いや、帰さんなんのは分かんねんけど…エステルちゃん達も追い返すんか?」
「無論だ。この先のことに巻き込むわけにはいかないからな。」
ネギこと《千の護手》ケビン・グラハムとメルカバ肆号機内で会話していた。
ストレイの言葉にケビンは溜息を一つついて答えた。
「それもせやな…にしても、ストレイ卿。」
「何だ、グラハム卿。」
「何か、変なこと考えてへんか?」
ケビンは厳しい顔でストレイを見た。
ストレイは目を細めてケビンにこう告げた。
「ああ、相変わらずお前がネギのようだということか?」
「…はぐらかすなや。一体、何を考えてるんや…?」
「いつものように命令に従っているだけだ。他意はない。」
ケビンとストレイは数秒にらみ合った。
しかし、ケビンが先に目を逸らした。
「…まあええわ。取り敢えず、連れて帰るで。」
「えーっ、そりゃないわよ!」
「エステル、我慢してくれ。…家族だったからこそ、巻き込みたくない。」
ストレイの最後の言葉は小さかったが、それでもエステルには聞き取れた。
身体を戦慄かせ、エステルはストレイに突っかかろうとして…
出来なかった。
ストレイがとても冷たい目でエステルを見ていたから。
その目はエステルに問うていた。
屍となるまで、ストレイについて来れるのか、と。
エステルにその覚悟はなかった。
死んでまでストレイに付き合う義理はなかったのだ。
いくら家族であったとはいっても、エステルにとってストレイは最上の一ではないのだから。
ケビンは神機を倒すことなくリベールへと客人たちを送り届けていった。
ストレイはそれを見届けてロイド達に向き直った。
「さて、結界は解けたわけだが。…お前たちはどうするつもりだ、ロイド・バニングス。」
「…兎に角課長たちを探すよ。話はそれからだ。」
「…そうか。」
ロイドの瞳は、暗にストレイとは一緒に行くつもりがないことを語っていた。
ストレイはそれを見て取ったためにそれ以上抗弁することはなかった。
あくまでも、ストレイは。
「…ロイドさん。私は…私たちは、ストレイと一緒に行きます。」
「…え?」
ロイドに向けてそう告げたのは、ティオだった。
ティオはロイドに向き直り、次いでリーシャも同じくロイドに向き直る。
ティオとリーシャは既に決めていたのだ。
ストレイに最後まで付いて行く、と。
「どうして…」
「どうして、ですか。そうですね…しいて言うなら、放っておけなくなった、というところでしょうか。」
ティオは苦笑しながらロイドに告げる。
自らの心の内を。
「ストレイは、ずっと先に行っているようで本当は誰よりも弱いんです。だから、私はストレイについていくって決めました。」
ティオはこれまでにあったことからストレイについてこう分析していた。
何でもかんでも一人で突っ走るのは、誰も傷つけさせないため。
自分が傷つくことで誰かが傷つくだなんて当然考えてはいない。
もしも、それで誰かが傷つくのならその人はとんでもなく優しい人で、ストレイ自身に価値はない。
何故なら、ストレイは人間ではないから。
人間以下のナマモノだからこそ、自分だけが犠牲になれば無駄な犠牲は出さずに済む。
だからこそ、誰かを守るために強く在らなくてはならなかった。
そして、そんなストレイを使い捨ての道具のように弄んだ輩がいる。
その人物だけは、決して許すつもりはなかった。
例え誰がストレイに強制したとしても、ティオを救いたいと思ってくれた気持ちに嘘はなかったと信じたかったから。
ロイドはティオの瞳に強い意志を見た。
「そう、か…リーシャは、どうして?」
「…今の私を形作る全てのものが、ストレイから貰ったものです。私の過去も、現在も、未来も。だからこそ、私は恩返しの意味も込めてストレイについていくと誓いました。」
リーシャの気持ちが重い。
ストレイは一瞬そう思った。
ただ、ストレイは彼女らを利用する立場である。
よって、彼女達にそんな言葉を吐く資格などないと分かっていた。
複雑な顔でロイドは頷く。
「…分かった。」
「でも、そうするとこちら側の人手が足りなくなるわよね…」
小さく呟いてエリィは思案顔になった。
ティオが抜ける分のサポートをエリィとノエルで分け合うのだから当然と言えば当然である。
エリィのENIGMAは風属性に特化しているし、ノエルのENIGMAは地属性に特化している。
当然ノエルのENIGMAでも回復できるようクオーツを組んであるとはいえ、高位の回復アーツを唱えられるわけではない。
エリィも風属性アーツで回復のアーツはあるものの、高位の回復アーツのように大けがを負った際の応急手当が出来るわけではない。
その点では不安が大きいのだ。
また、リーシャが抜けることによって奇襲に対応することが出来なくなるという点もある。
エリィの心配ももっともだった。
そこでストレイは言葉を吐いた。
「ああ、どうせお前たちもオルキスタワーに突っ込む算段でも立てるだろう。神機の撃退が終わり次第クロスベル市に突入はするが、接触すべき人物がいるのはこちらも同じだ。」
「俺達も、ということはストレイも突入するんだな?」
「そうだ。…どうせならば足並みをそろえた方がよかろう。」
ロイドの確認にストレイはそう返した。
本当ならば、ストレイとしてはオルキスタワーなど蒸発させても問題ない。
あんな大規模な謎のビルなど百害あって一利なしである。
それに、オルキスタワーはクロイス家にとっての象徴。
その建物を利用するなど、ストレイには出来なかった。
ふう、と溜息を吐いてストレイはモニターに向き直った。
そこではストレイ産幻獣が神機相手に一進一退の攻防を繰り広げていた。
「さて、レン。そろそろ調整は終わったか?」
「ええ。ついでにちょっと面白いこともやっちゃったから試してみたいの。良いかしら?」
「ああ。気を付けてな?」
レンは分かってるわ、とこぼして軽やかにメルカバのデッキに出た。
そして、音もなく現れた《パテル=マテル》の手の上に乗る。
本来ならば轟音を立てて来るはずの彼が何故音もなく現れることが出来たのかというと、改造の結果である。
というか、《パテル=マテル》自身が勝手に動き始めて改造していたらしい。
今の《パテル=マテル》は最早以前までの彼ではなかった。
色彩はそのままに、砲門を増やした。
敵を踏みつぶすだけでなく、レンを守るために強力な楯と剣を作り出した。
リヴァイバルシステムは進化して、常時レンをサポートする第二のオーブメント的な役割を果たすようにもなった。
また、狭い場所でもレンについて行けるように、自らの分身を作り出した。
レンはそれを《トーター》と名付けた。
そして、《パテル=マテル》はレンを守るためにありとあらゆる改造を自身に施した。
レンに出来たことは、それが彼にもたらす悪影響を必死に取り除くことだけだった。
そして。
《パテル=マテル》は最早レンの『両親』ではなく、レンの騎士となった。
それは兎も角、《パテル=マテル》で出撃したレンは瞬く間に神機を叩き潰していった。
最高の相棒。
最高の友達。
最高の、家族。
それが揃っていて、何故彼らが負けることがあろうか。
神機は、白いものを除いて完膚なきまでにスクラップにされた。
完全に余談ではあるが、みっしぃやみーしぇ、ノイはここで完全に消滅した。
お役御免である。
「ままー、みっしぃがやられちゃったー。」
「そ、そうね…(な、何よあの怪獣大決戦は!?)」
「あのおっきな機械さん、みっしぃのてきなんだね!」
「そ、そうかもしれないわね…(どこから突っ込めばいいのか分からないわ…)」
という会話が市内のとある家であったとかなかったとか。
怪獣大決戦。
さらばみっしぃ達よ!
…疲れてんのかな、わたし。
では、また。