雪の軌跡   作:玻璃

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ごっ…5月中には全編完成させたいです。
り、リメイクもしたいですし…

…はたしてそんな時間はあるのか?

では、どうぞ。


結界の破壊(S.1204/12/23)

ロイド達の感情の整理に数日かかった。

その間、がむしゃらに武器を振るっていたものもいれば部屋の中で鬱々と考え込んでいたものもいた。

ストレイはその間にとある人物と交渉していた。

「…というわけだ。《パテル=マテル》を貸してほしい。」

『…フン。返す気はないだろう。その条件を呑む代わりにこちらの要求も聞け。』

「ああ。」

モニターに映る人物は1人の老人だった。

無論、この状況でこの場に通信できる老人と言えば彼だけである。

ヨルグ・ローゼンベルク。

人形工房の主である。

彼はある要求をストレイに告げ、ストレイはそれに善処しようと答えた。

そこで通信は終わった。

その後、準備が整うまでストレイはモニターで各地の状況を見ていた。

準備が終わり。

先にロイド達を《月の僧院》で下したストレイ達は、《星見の塔》の攻略へと乗り出していた。

当初の予定とは異なり、レンはメルカバで待機である。

《パテル=マテル》の最終的な微調整やらなんやらの折衝で忙しいのだ。

ストレイ達はレンを置いて攻略を進めていく。

人形兵器が多かったが、出来るだけ原形をとどめつつ心臓部だけを破壊していく。

というのも、ヨルグの作品を壊せば壊すほど彼に仕事が行ってしまうからだ。

このままヨルグには《アルカンシェル》専属になってもらいたいので、出来れば仕事を回されるのは避けたいためである。

その他の魔獣系統は容赦なく破砕するが。

生憎、魔獣を粉砕しつつ進むこの攻撃力偏重パーティに突っ込みが出来る人間はいない。

行け行けドンドン、ガンガン行こうぜである。

やがて、彼女らは《星見の塔》の3階に差しかかった。

「待ちなさい。」

「…アイネスか。生憎今は暇ではなくてな。今度構ってやるから我慢しろ。」

「わっ…私は構ってちゃんではない!」

レオンハルトとのその会話の間に全員が準備を終えていた。

アイネスはそれに気付いてハルバードを構えなおしたが時すでに遅し。

アイネスはティオのアーツと気配を消したリーシャに打ちのめされた。

ついでにストレイは追い打ちをかけていたが、本当についでである。

慌てて出された分け身を消していただけだ。

レオンハルトはというと、いそいそと縄を準備していた。

アイネスが倒れると、レオンハルトはアイネスを気絶させて捕縛した。

そして、アイネスを肩に担ぐ。

そのままストレイ達は謎の仕掛けを解きつつ階上へと向かった。

「…次にいるのは恐らくエンネアだな。」

「そのようだな…ティオ、アーツをいつでも打てるように準備。レオンハルトはそのままアイネスを持っていろ。リーシャとわたしでエンネアの攻撃を防ぐ。…矢が飛んでくるから気をつけろ、リーシャ。」

「はい。」

ストレイとリーシャは警戒しながら階段を上っていく。

そして。

4階へと到達した瞬間、矢が飛んできた。

「リーシャ!」

「大丈夫です!」

それをストレイとリーシャが弾く。

その弾幕が止んだ瞬間。

「行きます…ダークマター!」

ティオが発動地点の中心に引き寄せる空属性アーツを発動させた。

それに引っ張られて土台の上から引きずりおろされるエンネア。

「くっ…!?」

しかし、エンネアは多少動揺しただけで弓を構えた。

そこにアイネスを抱えたレオンハルトが突撃する。

「なっ…アイネス!?」

「遅い、エンネア。」

アイネスの身体に邪魔されてエンネアは矢を撃つことが出来なかった。

レオンハルトはそのままエンネアを制圧。

彼女をも気絶させて捕縛した。

その光景を見て、ティオが一言。

「…何だかあっけない気がします…」

「き、気のせいじゃないですよ、ティオさん。でも…《剣帝》がいるならそれも当然かもしれませんね。」

リーシャがそれに同意した。

それを聞いて、ストレイはイイ笑顔でレオンハルトにこう告げた。

「…ふむ、レオンハルト。エンネアはわたしが持つ。そこの暇そうな2人に階上にいるであろうデュバリィを任せようか。」

「そうだな。」

レオンハルトもイイ笑顔でそう返した。

それを聞いたリーシャ達は顔をひきつらせながら階上へと向かう羽目になった。

びくびくしながらリーシャ達は階上へと向かう。

1階、また1階と登っていき、そろそろ屋上だと感じた時だった。

リーシャがティオに声を掛けた。

「…ティオさん。」

「はい、気配を感じました。でも、これは…」

ティオが困惑した様子でそう返す。

それもそのはず、そこで待ち受けているはずのデュバリィはというと…

 

「…すぅ…すぅ…うにゅう…も、もう食べられませんわ~…」

 

寝ていた。

立ちながら盛大に寝ていた。

「…疲れているんだな、うん。きっとそうだ。」

「ま、まあ疲れてはいるだろう。帝国とクロスベルを文字通り駆けまわらされているからな…なぜ辞めないんだ、デュバリィは。」

疲労困憊だったのだろう。

眼の下にはクマがある。

ストレイはリーシャにデュバリィを起こさないように捕縛するよう伝えた。

リーシャは慎重にデュバリィを捕縛し、抱え上げた。

そして、そのまま屋上へと出た。

そこにはアリアンロードが待ち受けていた。

何故か兜を脱いだ状態で。

どうやら長時間その場にいたせいで熱くなってしまったようだった。

その場に現れたストレイ達を見て微かに厳しい表情を浮かべ、こうこぼす。

「…《鉄機隊》が敗れましたか…」

「いや、アリアンロード。アイネスとエンネアに関してはアレだが、デュバリィは単純に疲労で寝てたぞ。」

「無茶をさせ過ぎたようですね。後で労わってあげなくては…」

アリアンロードはそう苦笑しながら言った。

彼女も知っていたのだ。

結社の人間が減っていく中で何故かデュバリィ達《鉄機隊》が執行者の真似事をさせられていることを。

アリアンロードはストレイに向きなおっていった。

「それで、どうして貴女が来るのです。てっきり特務支援課が来るものと…」

「ああ、カンパネルラの方を任せた。貴女があの女に何を頼まれたかは知らないが、彼らが彼女に関わる件で死ぬことだけは決してない。」

その言葉を、アリアンロードは数秒かけて呑みこんだ。

その意味を吟味している最中のアリアンロードに、ストレイはこう問いかけた。

「なあ、アリアンロード。もう、結社と関わるのは止めにしないか?」

「…貴女には、リアンと呼ぶよう言ったはずですが。」

「そのわたしは死んだ。だが、再びわたしにそう要請するならば呑もう。」

そして、アリアンロードとストレイはお互いに向き直った。

先に口火を切ったのは、アリアンロードだった。

「…貴女は、盟主の目的を知っていますか?」

「表、裏共に世界を牛耳り、一律の意志によって世界を統一すること。それによって世界に恒久的な平和をもたらすこと、だろう?」

それを聞いて、レオンハルト達は驚愕した。

まさか、《身喰らう蛇》の目的がそんなことだとは思ってもみなかったのだ。

そもそも、何故それを知っているのかも分からない。

だが、ストレイは知っていた。

というよりも、知らされた。

その上で、《身喰らう蛇》という存在はあってはならないと判断されたのだ。

だからこそ、ストレイの私情も半分在りつつ彼女はそれに従った。

ある女の目的も、世界平和。

ただ、それはひどく稚拙で幼稚な妄想だった。

ストレイは更に言葉を続ける。

「リアン。言っておくが…盟主の願いはかなわない。何故なら、そんなものがもたらされる世界には人間など存在しないからだ。」

「…どういう意味ですか。」

アリアンロードは眉をひそめた。

盟主は確かに世界の平和を望んでいる。

乱れた規律を正し、過剰なまでの供給を止め、飢える者のない世界を望んでいた。

誰もが幸せな世界。

それを、盟主は望んでいる。

そのために至宝が必要なのだ。

《輝く環》は、あくまでも人間が犯罪行為に走らないようにするために必要だった。

《虚なる神》も、もしも自分が間違ってしまった時にやり直しがきくように必要だった。

そのほかの至宝も、それぞれ必要な部分があったからこそ集めたのだ。

その際に出る不幸せな人間には見て見ぬふりをして。

必要な犠牲であると、半ば公認していた。

執行者や使徒のせいで誰かが死んでも、それは盟主の理想を叶えるための必要な犠牲。

理想のためには、犠牲があるのは致し方ないのだ。

少なくとも盟主はそう考えていた。

アリアンロードの言葉に、ストレイはこう返した。

「人間は、争うものだから。全員が仲良く暮らすなど夢物語に過ぎない。…もしも、それが実現できるとすれば…それは、完全に思考統制された人間の群れに他ならない。」

そこまで聞いて、ティオは想像した。

誰かに考えを統一されて、疑問を持たないままに暮らす自分の姿を。

それは、とても違和感のある光景だった。

誰も憎まず、誰にも怒らず。

誰も愛さず、何にも喜ばない。

それは、動くだけの人形と何が違う?

何も、違わない。

「それは…」

アリアンロードがそう零す。

しかし、ストレイはその言葉を遮った。

「それは違う、か?人間として生きていくのならば、不平不満を抱えないなんてありえない話だ。そして、不平不満があるからこそ人間は争う。それを無くすには、感情を切り捨てるしかない。…違うか?」

「…それでも、人間は自制できるでしょう。自らを律し、正しく在ろうとする人間はいるはずです。」

アリアンロードの言葉には、力がなかった。

自らの言葉が綺麗事だと自覚できていたからだ。

それを、ストレイは切り捨てた。

「一体、それが出来る人間が何人いると思っている、リアン。それに自制できたとしても暴発するようでは話にならない。だからこそ盟主は《輝く環》を回収しようとした。いいや、実際に回収した。」

「あれは、守護騎士が持ち去ったはずでは…」

「ああ、知らなかったのか。」

動揺するアリアンロードに、ストレイは追い打ちをかけた。

 

「《身喰らう蛇》の盟主も《七耀教会》の教皇もつまりは同じ人間だということだ。」

 

その言葉に、その場にいた一同は少なからず動揺した。

そんな事実は有り得ない。

アリアンロードはそう思った。

「ありえません。だって、盟主は…」

「リアンの知っている頃から代替わりなどしていない、か。教皇は代替わりしていると思っていたようだが…滅多にご尊顔を拝せない教皇聖下の、代々の顔を知っている人間はいないとは思わないか?まあ、わたしも最初気付いた時はまさかとは思った。…有り得ない、とね。だが、気配だけは同じだった。」

「…っ、それでも、盟主は…」

なおもアリアンロードは反論しようとする。

だが、ストレイはそれを赦さなかった。

「因みに教えておこう、リアン。わたしを見つけ出し、《輝く環》から持ち出した女の名はエリザベト・ウリエルといった。…今の教皇の名でもあるな。」

「…ッ、そんな、馬鹿な…」

アリアンロードの反論材料は尽きた。

少なくとも、アリアンロードの知る盟主の名はエリザ。

盟主自身は人の身であった頃の名前からとったと言っていた。

もう、現在は人間ではないのだ、とも。

それ以外はほぼ謎に包まれているのだ、盟主という存在は。

目的は話すが、どのような手段を使っても良いと思っている節のある盟主に疑いを抱いたことは数度あった。

ただ、それでも世界は良い方へと動いていると実感できたから。

だから、アリアンロードは盟主に従っていた。

それが、ストレイの話を聞いて変わってしまった。

盟主のやっていることはむしろ、世界から人間という種族を放逐しようとしているのでは?

人間という見た目を持った家畜を作り出そうとしているのでは?

そう、思えて仕方がなくなってしまっていた。

だから、アリアンロードはその迷いを断ち切るためにこう告げた。

「…シエル。わたしと戦いなさい。」

「今はストレイだ、リアン。して、その理由は?」

冷淡に言い捨てて、ストレイはアリアンロードに問うた。

アリアンロードはこう答えた。

「迷いを断ち切るためです。貴女自身の正しさを証明するために、わたしに打ち克ちなさい。わたしも…わたし自身の正しさを証明するために、貴女に打ち克ちましょう。」

「…分かった。レオンハルト、リーシャ達を連れて下の階に…いや、《星見の塔》から脱出していて欲しい。この場が崩壊すれば危険すぎる。」

「無茶はするな、とは言わないが…生きて戻れよ。」

レオンハルトがアイネスとエンネアを、リーシャがティオとデュバリィを抱えて《星見の塔》から飛び降りた。

そして、ストレイとアリアンロードはともに槍を構えた。

慎重に空気を読み、遠くで微かにタン、と音がしたと同時に…

 

両者は駆けだした。

 

一瞬で間を詰めたストレイはアリアンロードの懐に入り込もうとした。

しかし、アリアンロードは急制動を掛けて背後に飛ぶことで懐を赦さなかった。

槍から右手が外れ、空振るストレイの槍。

一瞬硬直するストレイ。

そこに、アリアンロードがクラフトを打ち込んだ。

「アングリアハンマー!」

ばちばちと音をさせながら落ちてくる銀色の雷。

それをストレイは体をひねることでかわし、先ほど空いた右手で懐から導力銃を引き抜いた。

そのままストレイはそれを発砲しようとするが、今度はアリアンロードがクラフトで間を詰めた。

「シュトルムランツァー!」

発声と共に繰り出される槍の連撃。

それを、ストレイは同じ技で返した。

「シュトルムランツァー。」

無論、積んできた経験の差と離していた右手分がモノを言い、ストレイがじりじりと後ずさる。

しかし、ストレイはそこで諦めることはなかった。

「追加、不破・弾丸。」

右手の導力銃でアリアンロードの鎧に向けて発砲。

30もの弾丸がアリアンロードを襲う。

しかし、本人にあたったのは1発のみ。

それ以外は強引に軌道修正したシュトルムランツァーで弾かれてしまった。

クラフトの発動が終わり、アリアンロードはストレイに追撃すべく間を詰める。

ストレイはストレイで距離を取らなければ確実に打ち負けると分かっていたため、クラフトを発動させた。

「雪月華。」

槍が大きく回転し、衝撃波と氷の波が生まれる。

氷の波によって行動を阻害されかけたアリアンロードは、それに怯むことなくそのまま突っ込んだ。

大きく薙がれるアリアンロードの槍。

しかし、ストレイはそれに薙がれることはなかった。

薙がれる、と自覚した瞬間、ストレイはアリアンロードが槍を薙ぐ向きと同じ向きに飛んでいた。

お蔭で若干掠ったものの、衝撃を利用して間を取ることは出来た。

言葉を口にする間も惜しく、ストレイは槍を宙に投げて両手に導力銃を持ち、銃弾をばらまいた。

アリアンロードは槍でその銃弾を防ぎながら前進してくる。

しかし、アリアンロードがその場に辿り着く前にストレイは準備を終えていた。

「麒麟功。からの、月光朧。」

ストレイは気を操って膂力と脚力を上げ、そして振ってきた槍を掴みなおしてアリアンロードと打ち合うや否や消えた。

その場に残される二丁の導力銃。

アリアンロードはストレイが周囲にいるはずだと踏んでクラフトを発動させた。

「アルティウムセイバー!」

アリアンロードの周囲全体を薙ぐ槍。

しかし、手ごたえは全くと言って良いほどなかった。

それを感じて一層気を引き締めるアリアンロード。

気配を探り、少し遠方の柱の陰にいるストレイを発見して間を詰める。

「…完、了っ、と。」

ストレイはアリアンロードを真っ直ぐ見た。

既にステルス状態は解除されている。

足元に置いた槍を掴みなおしたストレイは、その場でアリアンロードを迎え撃った。

そのまま両者は幾度となく槍を叩きつけ合った。

数合、数十合…

どれだけ打ち合っただろうか。

それを止めたのは、甲高い無機質な機械音だった。

それを聞いた瞬間、ストレイは槍が体に掠るのにも構わずアリアンロードを吹き飛ばした。

「寸勁!っとおおおっ!?」

そして。

 

一条の光が、《星見の塔》にあった鐘を蒸発させた。

 

「なっ…」

そして、それはアリアンロードの動揺を誘うのには充分だった。

ストレイはそのままアリアンロードの鎧に手を掛け、一本背負いの要領で投げ飛ばした。

「よいっ、しょおっ!」

どがしゃーん、という派手な音が響いた。

その音は近くの木から避難していた鳥たちが一斉に飛び立つほど強烈な音だった。

アリアンロードは一瞬悶絶し、そして起き上がろうとした。

しかし、目の前にはストレイの槍の穂先があった。

「…わたしの負け、ということですか…」

「…ぜー、ぜー…鎧が重いよリアン!?」

肩で息をしながらではあったが、その穂先に一切のブレはない。

アリアンロードはそのまま素直に負けを認めた。

 

その日――

クロスベル市の結界が、解かれた。

《月の僧院》ではロイド達がカンパネルラに翻弄されつつも鐘の共鳴を止めた。

そして。

《星見の塔》では、鐘本体が蒸発したために共鳴できなくなったのだ。

よって、結界は消えた。

「…どうしようコレ、ついやっちゃったけど…」

とかなんとか呟いている女がいたとかいなかったとか。

 




がっつり捏造設定があることをここに宣言します。

…で、では、また。

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